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第8話

 一方魂が二つになったアビの様子を窺うイデ。ただならぬ雰囲気に気が付く居候を決め込んでいた人類ロバートと悠一は、逃げるべきかどうか判断しかねていた。そこで、イヅの様子も見てみると、割とけろっとした感じなので、大丈夫なのだろうと思って、また二龍の様子見である。

 硬直状態ともいえるイデとアビだが、アビは、

「どうやら慌てて様子を見に来たんだろうな。ふん。こいつの中に入ったら、俺も少し昔の事を思い出したな。お前らの言っていたことの意味が分かって来たぞ。俺の体の中に今までいた奴、死んだ魔王に飼いならされた龍神の子だった。俺が戻っても出て行かなくてしぶとい奴だ。実のところは死んでいるくせに生意気だな。お前が俺に仕掛けたさっきの技、覚えた気がするから、こいつにやってみようかな。蹴ったら黄泉に行けるかな、地獄行きかもしれないぞ」

 そんな、きわどそうなことをアビが言うと、今度は、元居た魂が表に出て来て、

「いやだー、地獄なんかには行かないからな。ここに居座ってやる」

 と言い出した。

「アビ、なんだか忙しそうだな」

 イデは自分がしたことが原因だが、のんきな台詞だ。

「カカシャめ、いやな奴だ。噂どうりだな。俺に何の恨みがあってこんな目に合わせているんだ」

「おや、俺の前世をご存じとは、魔王から聞いているのかな。気に食わない奴。俺が地獄に行かせてやろうか。こっちへ来い」

「ひーっ」

 状況から見て、やはり前世は噂のカカシャらしいイデは、元アビの魂を取り出したらしいが、どこへ行ったのか。人類二人が疑問の様なので、イヅは、

「イデは元アビを自分の中に取り込んでしまったよ」

 と二人に解説した。すると本物のアビは、

「言っておくが、あいつを元アビなんぞと言うな。アビじゃないからな。偽のアビと言え」

 本人、ではなかった本龍の意見としては、もっともな言い分である。さて、イデは自分に取り込んで、どうしようと言うのだろうか。

「ふん、大体のところの向こうの奴らの企みは知れたな。もう用は無いし、始末しようか」

 実の所、魔界の内情を知りたかったようで、分かったらしいイデがそう言って、どうやら偽アビを始末するつもりらしい。

 そこへ、慌てたようにアボがやって来て、

「おいおい、龍神同士で争うことは御法度だからな。刹龍は大罪だ。大神様から天誅を食らうぞ、イデ。お前の前世の頃に比べて、近頃は決まりを守らねばならなくなっている。そいつは黄泉に飛ばせ」

「俺はそんな器用な事、した事がないんだが」

 イデが渋ると、

「じゃあ、俺がやってやるから、そいつは手放せ。とは言っても逃がすんじゃないぞ」

「はい、はい」

 人類二人が観察していると、イデは何かをつまんでアボに見せている。二人には見えないがおそらく偽アビの魂らしい。アボはそいつを受け取り、ブイっとどこかに飛ばした感じがする。かなりの迫力だった。

 イデはそれを見て、

「さすがアボさん。素晴らしい技ですね。と言うか、アボさんの能力を見ていると、毒の影響とかなさそうな気がするんですけど。能力が戻ったようですよね。どういう事でしょう」

 そう言われたアボはせせら笑う、

「ナ・イ・ショ・・」

 そう言って立ち去ったアボを呆れて見送った三龍と二人。

「変だな」

 ロバートは思わずつぶやく。悠一も、

「前は怖かったけど、今、お道化てなかったか。真太がアボさんは元気な時は逆にへなへなする癖があるとか言っていたな。お惚けも有りか」

 イヅが冷静に観察した意見を述べた。

「そうそう、偽アビがあの親子は能力を隠すとか言っていたけど、今のは半端ない能力に見えたぞ。悪霊の偽アビを黄泉に飛ばしちまった感じ。向こうではどうなっているかな。黄泉で生きていけるのかな、あいつ。でも、アボはあいつを殺しちゃいないからね。うまく対処したんじゃないかな」

 本物のアビはあきれてぽかんとしているが、イデは、

「なるほど、氷漬けの荒療治ですね。俺も、ちょっと北極に行ってこようかな」

 本人からの情報ではないだろうが、得心したらしいイデは北極に行くことにしたようだった。ふらりと外に出ると、瞬間移動した。

 そこへ、真太がやって来て、

「あいつ、俺の頭からパパの情報を読みやがった。パパの機嫌が悪くなったから、ここに居させてよ」

「そんな事だろうよ、俺らも居候しているし、仲間が増えて居心地が良くなるよ」

 ロバートと悠一に歓迎された真太である。


 場面は変わって、真太からの情報で北極にやって来たイデ、生まれたばかりで南国の気候に慣れ切ってはいないはずだが。とは言え、南国育ち風の体質の龍の子には厳しい北極の寒さである。

「噂通りの寒さじゃないか。氷の中に数分入っていたとか言う話だったな。マジ凍るんじゃないか・・・俺。真太を連れてくればよかったな。あいつを引きずりこむとか、勢いがなけりゃ、俺には向かない荒療治だな」

 勇んでやって来たものの、辛いこと、厳しいことを避けたい根性のイデにとっては、かなりのプレッシャーである。能力が戻ることと、氷の中に数分?入ることを天秤にかけ、段々気分は下降して行き、このままでもそのうち能力は出てくるんじゃないかと思い直すイデである。その時、

「イデ君、まだ入ってなかったの。じゃあ、もう少し大人になってからってことで、帰ろうか?」

 なぜか、アボがやって来ていた。アボはぐずぐずしているイデを見て安心して、思わず

 からかってしまったのだが。

 振り向いてじろっとアボを睨んだイデは、腹立ちまぎれに氷の中に突入して行った。いったい何のためにアボはやって来たのだろうか。

「しまった、俺もやらかしたなぁ」

 反省しているアボの前に、直ぐにほぼ凍りかけているイデが、何とか半身氷から抜け出してきた。

「さむ・・たすけて」

「そうか、そうか、寒いか」

 凍りかけたイデを引っ張り上げ、アマズンに連れ帰ったアボ。凍りかけているので、アマズン川にポチャリと浸けてみた。

「ふう」

 と、ため息をつきながら浸かっているイデを観察しているアボだったが、戻ったのに気付いた真太やイヅも来て、観察に加わった。

「アボさん、さすがですね。凍ってしまったら危険ですよね。僕は兄なのにうっかりしていました。ついて行くべきでした」

 イヅが反省するが、

「いや、お前らがついて行ったら、一緒に引きずり込まれていただろうな。連れが欲しそうだったぞ。俺の手間が増えたはずだ。あはは」

 すっかりお見通しのアボを睨みながら、立ち上がったイデ。解凍は終わったらしい。

 立ち上がったイデの異変に気付いた三龍である。

「凄、オーラが出てるねー、だいぶ」

 真太が感想を言う。アボパパ、

「うーむ、失敗したな」

 また反省している。

「何の事ですか」

 アボの奇妙な意見に不思議がるイヅだったが、真太は察して、ため息をついた。

 俯いて立っていたイデが、顔を上げ皆を見て、にやりとした。いつもの笑いようだが、周りにオーラが立ち昇っている。真太は思わず冗談を吐く、いつもの事だが、

「温まったね、湯気が出てら」

「そうかい、真太が居たら一緒に入れたのに。そうしたら、湯気がお前にも立ったんじゃないか」

「いやそん時は、遠慮しといたと思う。それにしても、良い感じに出来上がってるな。イデの能力は全部戻ったの?」

「さあねぇ、試してみないと分からないな」

「さっきも言ったが、龍神間の争いはするなよ」

「分かっているってば、死にかけたさっき、大神様からもうるさく言われたよ。ちょっと魔界に行って来ようかな。奴ら、真太たちが大分片付けているから、俺の分はまだあるかな」

「あは、考えることはみんな似たようなものだな。イデは御神刀はどうする、前世は刀は無かったから無いまま戦ったんだろ。貸そうか」

「要らない、俺は使い方を知らないからな」

「俺もついて行こうか」

「一人で良い、居たら気になってしまうから」

 真太の申し出を断ったイデは、一人、魔界に暴れに行く気のようである。

「毒には気を付けろよ」

 アボは一応注意しておく。

 そして、イデは急に消えてしまった。瞬間移動して魔界に行ってしまったようだ。

「へぇ、イデもアバみたいに生身で行ったね」

 真太が感心すると、イヅは心配そうに、

「僕は多分、生身も霊魂も魔界行きは無理、だから一緒には行けなかった。イデは普通じゃないね。自分の事、一人とか人間みたいに言ったね」

「うん、前世の前の前世が人間だったりするかも」

 真太が意見を言うと、イヅは、なるほどと思ったようである。

 アボは、

「魔界に始末したい奴がいるようだな。以前は分からなかったが、イデは龍神カカシャにも生まれ変わって来ていたようだ。真太みたいにね。前世は人間だったとも思えない、もしかしたら魔人かもしれない。恨みを晴らす気でいる・・・俺は、以前はこんなにテレパシーは使えなかったはずだし。真太、氷漬け荒療治は能力が戻るというより、増えるようだぞ。イデと一緒に浸かっていたら、利口になっていたかもしれなかったな」

「さっきも言ったけど、そういうのは遠慮したい。あ、それはそうとイヅ」

 さっき思いついていて忘れていた疑問点を、思い出した真太である。


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