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第4話

 ママは床に転がり倒れて動かない。眠ったのだろうか。

「わぁん、死んじゃったの、ママ」

 由佳が泣き出す。真太もママを観察するが、睡眠というよりは、限りなく死亡に近い有様に見えた。

「パパ、まさかママって同化していた訳?」

「こんなに早く同化するものかな」

 パパは震える声で納得できない様子。今まで黙っていた千佳も、

「そういえば最近は結界を張る事なかったね。シンの強いのも張っていたから、必要ないと言えばそうだけど。いつからママの能力発揮していなかったと思う」

 真太は震えながら、

「俺がUSBBに行く頃じゃなかったかな」

 アボパパは、

「信じられん。今まで、香奈ママでずっと間違いなかった。今、戻ったら違うのが分かったから、数時間のはずだ」

「たった数時間で同化とかするもんなのか。早すぎるだろ」

 真太はうなるように言った。

「よっぽど相性の良い魔物だったのか」 

 アボパパが言うが、真太は反論する。

「ママと相性のいい魔物なんているもんか」

 すると由佳が奇妙なことを言い出した。

「由佳達の本当のパパとは相性良かったみたいね」

 真太は翔のときの事を想い出しながら、

「由佳、どうしてここで真鍋祐市さんの話が出てくるんだ」

「本当のパパが、だいぶ前にあたしに言ったことがあるの。千佳だって覚えていない?覚えているでしょ。紅琉神社のお祭りでママと会って結婚することにしたけれど、契約は十年が最長だからって、十年経ったらママを連れてあっちに帰るから、千佳由佳とはお別れだって言ったよね、パパ。千佳があっちってどこかって聞いたよね。あたしは小さくてそれ以上は覚えていないけど、千佳はどうなの」

 ぶすっと千佳は答えた。

「あっちの世界とか言ったよ」

 真太は鳥肌が立って来た。

「あっちとはどっちの事だよ。アボパパ、どう思う。もう千佳が生まれて10年以上になるよね。この話はこの事とは関係無くないかな」

「いいや、当たりだ。その祐市さんは魔人だったのかもしれない。魔王と話を付けて10年人間界で暮すことにしたのさ。時間は魔界と人間界とは別物だ。祐市さんが魔界に戻って、契約の10年になって香奈さんを迎えに来るとしたら、きっちり10年間の見当を付けるのは難しいだろう。それに俺には、少し怨みか妬みのようなものがあるとしたら、香奈に取り付いたら、俺が急所を刺すしかなくなって、同化しておけば一緒に魔界に戻れるからな。俺に一矢報いた感じにもなる。香奈さんの半端ない結界を張る能力は、奴の力の影響があったかもしれない」

 千佳が悲鳴のような声で言った。

「あたし達、魔物の子な訳」

 アボパパは否定して説明した。

「いや、魔界に住む魔人だ。今では魔界には悪者しかいないと言う事になっているが、古の魔界には悪者ともひと口には言えない生き物も生存していた。悪魔らによって、その生き物は滅びたと言われていた。だが実際は、魔界のどこかに生き延びていたんだろう。そして古い神社のお祭りとかに、集まってきた人間達にまぎれて、出て来ていたんだろうな。すべて俺の推測でしかないが」

 真太はつぶやく、

「じゃあ、ママは死んだってことで、間違いないんだな」

「このありさまでは間違えようがないだろう。アマズンに連れて行って、御両親と会わせて、向こうで葬式ということにしよう。千佳由佳、一旦ここは出ような。ご飯は終わったかな」



 真太たち一家の悲劇的出来事とほぼ同時刻のアマズン。


 イヅは真太一家の悲劇をテレパシーで察し、胸がつぶれるような思いでいた。気づいたイデに、

「どうしたんだよ、イヅ。何かあったのか」

 と聞かれるが、言葉は出てきそうもない。そこへ、真太の友人達、ロバートと悠一が二人の家に入って来た。

「イヅ、あのアビって奴、本物かな。真太んちには違うニュアンスで話したらしい。だからアマズンに香奈さんや千佳由佳は連れて来なかったそうだぞ。イヅのテレパシーではどんな感じなのかな」

 ロバートが興奮してしゃべった。

「以前と変わらない奴だけど、そもそも、以前から本物だったのかは知らない。と言うか、このアマゾンにはあいつの中身を判断できる奴はいないよ。赤ちゃんの時からずっと、百年以上死んだ事になっていたんだから。言っておくけどレディ・ナイラだってずっと死んだと思っていたらしいから、母親の感っていうのがあてになるかどうかってところだな」

 悠一は、

「そんなこと言っていいのか。この辺りじゃ、不敬罪とかは無いのかな」

「柳君、僕はもう、別に将来アマズンの長とかになる気はないからね、一応未成年だし、言って良いことと悪いことの区別はつかないっていう設定のつもりなんだ。そうで無いとやっていられないよ。最近の雰囲気ではね」

 そんなことを言い出すので、ロバートには、

「そうか、親父さんが亡くなって、開き直ったんだな。いろいろ思うところ、有りそうだなイヅも」

 そこで、今まで話に加わっていなかったイデが、

「僕の見た感じでは、アビって赤ちゃんの時に魂が変わっていると思う。本物は地獄のどこかに捕らえられていたと思うけど、もうずいぶん時がたっているから、子供の魂とかは消滅しているかもしれない。それから、もうすぐアボさんが奥さんが死んだと思って亡骸をこっちに運んでくるけど、生きているよ。前のパートナーのいる世界に魂だけ連れて行かれたようだね。そっちの世界は魂だけの世界だな。だから、戻って欲しかったら、奥さんの体は腐敗しないように保管した方が良いんじゃないかなと思う。僕的にはね。僕は当事者じゃないから、意見は言える立場じゃないし、家族の気持ちは計り知れないし。実際には、戻ってきて欲しいのかどうか分からないし」

 イヅ、及び悠一とロバートは、

「戻ってきてほしいんじゃないのか」

 と声をそろえて言うが、

「アボさんは、自信消滅しているからね」

 とイデが首を傾げた。そこで、イヅは彼らが戻って来たらしい外の様子もわかり、外に出た。

 真太たちは涙ながらに、桂木一家に報告していた。

 イヅは側に行くと、真太をつつき、

「真太、香奈ママ生きているよ。前の御主人の世界に魂だけ行っているらしいよ」

「ほんとか、俺も変だとは思ったんだ。パパ、ママの死体っぽい体、保管しとかないと。このままこの暑いところに置いておけない。ホントは生きているってイヅが言っている」

「何っ、生きているのか。だが、心臓止まっているぞ」

 イヅは、

「魂だけ、前の御主人の世界に連れて行かれているんです。香奈さんが戻ってくる気になったら、体がちゃんとしてないと困るから、腐らないように保管しないと・・・」

「しまった。もうだいぶ時間がたっているぞ」

 すると翼が、

「凍らせるのが一番いいよ。西京大に瞬間冷凍の装置があるけど、使わせてくれるかな」

 と、保管対策の意見を言った。

「それは無理だろうな、説明したところで理解してくれそうもない内容だ。それにこれ以上時間はかけられない。北極の氷の中に入れよう。真太、行くぞ」

「うん、でもパパ。その、考えてることは、やめといた方が良くないかな。その顔じゃあ心臓麻痺になりそうだ。一緒に氷の中に入ってしまう気じゃないかな」

「もちろん、一緒に氷の中にいるよ。戻ってきたらすぐ出さないと、今度はママは、本当に凍死するぞ」 

「こっちの先生役はどうするの」

 真太は一応聞いてみるが、

「そんなもん、するかっ」

「やっぱりね」

 そう言いながら、ママの体を抱えて北極へ行ってしまったアボと真太である。

 後に残ったその他大勢さんは・・・

「どうしようかな、ママ。僕、西京大で実験の最中だったんだけど」

 ママの真奈に言い出す翼は、帰りたそうである。

「どうしようかしらね、先生役はやる気消滅みたいだし。イヅ君、これからどうなるか知ってる?」

 真奈に聞かれたイヅは、

「レディ・ナイラは人間の英才教育をするつもりらしいんですけどね。それについては、龍の英才教育を始めて、その傍らのスペースで、人間もという話に、なっていたんですよね。でも、アビが怪しいし、龍の方の先生役のアボのやる気は無くなったようだし、僕はさっぱり・・・」

 そんな話の途中で、由佳が叫んだ。

「ママが戻って来たっ。パパが喜んでいるし、真太が二人を連れて戻って来そうよ」

「わぁ、由佳ちゃんはもう超能力顕在ね」

 舞羅が感心して言い出した。桂木一家面々も感心している。

 そんな騒ぎの中、イデが家から出て来て、じっと由佳を見ている。それに気づいた由佳が見返すと、にっこり笑った。

 シンと入れ替わっている本物のイデなのだが、シンも負けてしまいそうな、ハンサムぶりである。そういう訳で、由佳は思わず口を開けてぽかんと見とれてしまった。

 千佳に、

「口、閉じたら」

 と忠告される。

 そこで『あら』とばかりにヘラリとイデに笑い返す由佳である。

 イヅ。失恋の予感というより、事実になりつつあるのが分かった。


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