第2話
訳の分からない真太の弁舌に、いっそう途方に暮れてしまったアボだが、そこへ、香奈ママが大慌てで帰ってきた。
「あたしのアボをUSBBなんかに行かせないからねっ。アボはこの家で、紅琉新で一生を送るの。シンから何から何まで揃えてもらったんだからね。レディ・ナイラだかレディ・アマズンだか知らないけど、あたしからアボを奪おうったって、そうはさせるもんかっ」
とんだ勘違いのママのセリフに、ため息の出る真太だが、怒鳴り散らす香奈ママに、うろたえるアビを見て、黙って言わせておくことにする。
すると、アビはおそるおそる、
「あのう、違うんです。もちろん、香奈さんもアボさんとご一緒に、USBBの施設に行っていただきます。香奈さんには、あの素晴らしい完璧な結界を張っていただきたいのですが、いかがでしょうか。引き受けていただけないでしょうか。もちろん老後の余生の計画は、引き続き練っていただいた上でですが。引き受けていただけたなら、その老後計画の予算に資金の追加ができる事と思いますが。それもかなりの額が」
「お金もらえるわけ?そりゃそうよね・・・、アボ、この話はできそじゃないのよね。無理しちゃだめよね」
「だから今、無理だって断っているところなんだよー」
「まあ、それは残念・・・ううん、いいの。まだ、シンのお金は残っているんでしょ」
「・・・そこそこあるけど。言っておくけど、この話、俺は無理だからね」
「そういえば、この話って、どの話の事」
「香奈ママは、俺のテレパシー、聞いていなかったのか」
アボは段々、香奈ママがまずいことになっている感がしだした。つまり、乗り気である。
「ええっと、なんだか、かっと来ちゃって」
そこで、アビが香奈ママにまた、さっきの説明を始めた。真太も嫌な予感がしてくる。
「まあっ、なんて素晴らしい計画なんでしょう。・・・でも、アボには無理なの。だって、本人、えーと本龍がそう言っているもの。間違いないはずよ。ねっ、アボ」
香奈ママはおねだり状態になってはいないだろうか。
真太はアボが後どのくらい耐えられるかと推理する。いつもなら、すでに秒読み状態と言えるが、この件はいくらアボでも引き受けないはずだ。と思う真太。『第一、千佳由佳はどうするんだ。真奈伯母さんに預けるのか』真太は思いついて、焦ってしまった。アボパパも、やっと思いついたようで、
「香奈、お前もUSBBに行くことになるんだったら、千佳由佳はどうする。真奈さんに預ける気か」
「一緒に連れて行けないの?」
「ああ、言いそびれておりましたが、お嬢さん達も、もちろんご一緒にお暮しになって、USBBの英才教育を受けていただきます。人間の教育の方は、専門の教育者がよりどりみどりと言えるほど控えているんですよ。長年、人間の教育はしていますからね」
真太は客用の三人掛けソファに横になった。だるい、もう決まった感じである。
香奈ママはにっこり、
「ねえ、アボ。引き受けられないのかしら。良い話じゃない、龍神達の未来はアボの手腕にかかっているのねぇ。きっと」
「現実を見るんだ、香奈。金に目がくらんではだめだ。俺の能力を知っているだろう。どいつもこいつも、勘違いしている。目論見どおりにならないのに、困るのは俺らなんだぞ。結果が出ないのが知れれば、一応金を持って、一家で夜逃げだな。だが・・逃げ切れると思うか」
真太は、
「きっとママが結界を張ってくれるんじゃないかな。逃げるんじゃなくて、居ないふりだな」
「あほう、お前は知らないんだな。あの、今度のイデは古の超能力龍、カカシャの生まれ変わりだ。奴がこの世で知らないことはないんだ。アバよりグレードアップ龍神だぞ。この世の異変を憂いて降りて来たんだ。だからあいつに任せておけばいいんだから。俺の出る幕はないっていうのに・・・」
すると、アビは声を落として、
「それがですね、あのイデは長年黄泉で過ごすうちに、能力を忘れてしまっているんです。少しは覚えているようですけどね、古とは全くの別物なんです。つまりせっかく思い立ってやって来たのに、自分の思いどおりに力が使えなくて、戸惑っているそうなんです。そして、挙句の果てに、真太に能力をダメにされたって、逆恨みしているそうです。根性も良くなくて、皆対応に苦慮しています。他の普通の龍神よりは能力がありますからね。今のところ、イヅが兄として押さえ込んでいますけど、何時までもつか。これは実のところ、引き受けてくださるまでは、言えないことだったんですが、アボさんがそう認識していることが分かって、僕も言っておくしかないと思ったんです。引き受けてもらってからお知らせしないと不味かったのですけどね。今、僕が話したことだって、あいつは分かっていると思います。根性が良くないと言ってしまったので、当分アマズンには行きたくないです」
真太は今までの違和感の原因が分かって、なるほどと思いそうになったが、しかし、
「えぇっ、俺が奴に何したって言うんだ。あいつ、変な言いがかりつけるよなっ」
ソファから飛び起きて、真太は思わず叫んだ。するとアボパパは、へらっと笑った。
「自覚無いな。教えてやろう。あの時シンの様子が変だとおまえは感じていて、何とか説得しているつもりだったろ。実際はカカシャの念力をはじき返していたんだ。そして彼は数週間、黄泉で霊魂の意識が無くなったんだよ。その面じゃあ、意味が分かっていないな。霊魂の意識が無くなるってのは、終わっているとも言う。無になっちまったんだ。仕舞えたんだな。だけどお前が彼に向けた圧が無くなると、また復活したがな。ま、根性が良くないとまでは言っちゃあ気の毒かもしれない。真太は無自覚で仲間の龍神をヤリかけたんだし。カカシャも真太が悪気は無かったことは分かっているから、仕掛けてこないだけで、狂っちまわないのを祈るだけだな。ああいうのは、つまり仕舞えた後の復活は、狂う場合があると、大神様の話があったと聞いている。シンがイヅに言ってきたそうだ。気を付けろってね。今、イヅが俺に言っているよ。あいつもだいぶ苦労していたようだな。俺たちに話せなかったんだろうな。困っていても」
「じゃあ、パパ。この話引き受けるつもりなの。子供たちの能力開発より、イデの能力開発が目的なんじゃないの。実際は」
真太は思いついた。アビは、
「当面はそっちですかね」
と白状した。
真太はそれはそれでなんだか大変そうで、アボパパはうまく出来るのかなと心配になるのだった。