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第10話

 そこへ、時々偽アビと行動を共にしていたソールさんがやって来て、

「皆さん、ごきげんよう。以前のアビさんは偽物だったそうですね。あ、本物のアビさんですか。どうそよろしく」

「よろしくといわれてもねぇ、ナイラママに仕事辞めると言ったんだけど」

「やはりそうですか。いえ、いいんですよ。実は大統領邸でも、以前のアビさんの行動は怪しいと評判になっていました」

 アボが興味を持ち、

「ソールさんだったかな。俺らはもう解散で良いんじゃないのですかぁー」

 とやる気のなさを出してみると、

「いえいえ、ナイラ川では、烈さんの能力が素晴らしくて、最近は彼にレディ・ナイラも頼りっきりなんですが。実は偽アビがセッティングしかかっていた場所は、USBBの魔界の出入り口の火口に幾分近くて、我々も違和感があったんですが、偽アビに言わせれば、『日の国の魔界の出入り口なんて、国が狭いから人里近くに昔からありますよ』と言っていたんです。でも、烈さんにはそこに行くことはあり得ないと言われました。ところが、最近少し火山活動が活発になって、なんと至近距離に小さな溶岩の噴出がありそこが冷えれば、実際、噴火は収まって冷えているんですが、小さな魔界の出入り口が目と鼻先にできました。魔王が死んでも噴火はあったんですよね。不思議です」

 アボは、

「その辺のところは、ここの皆もアビは怪しいと分かっていたよ。気にするな。今、イデが地獄の奴を片付けに行ったからね。少しくらいは、少なくなっているんじゃないかな。で、そうは言っても、解散はしないって言うのも、無理じゃないか。此処はジャングル化しているんだ。自然を取り戻そうって運動を辺りの人間がやっている。今は亡きアバのお気に入りの風情の場所だが、学校には向かないよー、クーラー無いと頭は働かないからな」

 真太は『アボ、文明の利器を満喫したいんだな』と物思いにふける。

 解散までは時間の問題の様な気がしてきた。

「アボさん達には不自由なところで、申し訳ありませんでした。実は現在発電機の大型のを手配しており、クーラーや何やかや、USBBで手配させて頂いています。ご希望のブランドなどお聞きすべきだったのですが。アマズンと大統領邸の往復は時間ばかりかかりますから、ナイラ様と相談の上。こちらで取り揃えました」

 そう言って、ソールさんは、外には小型発電機が有るらしく、電話線を部屋に引っ張ってきて、どうやら。ファックス付きの電話をセッティングし出した。セットが終わると、大量の資料がファックスされてきた。ソールさんはそれをせっせと束にして、一家族に一つずつ配りだす。

 千佳は思いついて、

「それって、コピーだけもできるの」

「ええ、原稿をここに挟んで、コピー枚数をセットしたなら、次はココを押し、コピー開始ですよ。どうぞ使ってください」

「うわーい」

 千佳由佳は喜んで、由佳の描いたシナリオをコピーし始めた」

「コピーも良いけど、クーラーもね」

 アボはしつこくクーラーの要求をしている。

「では、どこの製品にしますか」

「涼しくなればどこのだって良いよ」


 ソールさんがクーラーと、その外身の手配に帰って行った。此処に学校を造るのは決定事項らしい。集まっていた皆も解散となり、千佳由佳は、いつの間にか、戻って来ていたイデにかけよった


「イデ、明日は由佳の創作の物語を上演するわ。でも、イデが戻って来たから、イデの役だって決めておけばよかったね」

 そう二人で言うと、

「そうだね。僕は魔物退治の騎士みたいなのになりたかったな」

「悪いけど、翼が大道具と小道具の係なっているの、それにココ役だし。翼も忙しくしていて、新しい役の追加はできないの。ごめんね。さっき皆の寸法を測っていたから、今、きっと間に合わそうと全員の衣装作っているの」

 千佳はそう言って断ろうとすると、由佳に「衣装、要るの」と言われてしまった。

「衣装無しで良かったなら、出てね。敵の魔界の魔物役とかどう」

 由佳に言われて仕方なく引き受けるイデ。

 アボが横から能天気に、

「練習無しのぶっつけ本番だね。それ、やる気になるとは、さすが、龍神の子たち。年寄りに役を振られなくて、パパはほっとしたよ。どんな舞台になる事やら。明日朝の大人たちの会議で宣伝しておこうか。題名は決まったの」

 由佳はにっこり、

「『ズンの女王』よ」

「えっ」と少し驚くイデ、

 千佳も、イデに、

「イデのママは、実は国王カカの奥様の生まれ変わりっていう設定なの。由佳の思い付きだけど、イデがあたしたちを助けに来てくれたし、お礼言っただけじゃ何となく気が済まなくて、今回の舞台を『ズンの女王』にしたの。ズンは、本当はズン国の女王になる役目もあったんだけど、幼いころカカに会ってカカが好きになり、それでカカの許嫁になって、時が来て魔人の王になるカカの所へ嫁いできたの。カカを愛していたのに、カカの元愛人と子供がやって来て、カカに裏切られていた事を、その時にやっと知る悲劇の女王なの」

「へーそうなんだ。こっちに戻る前に、ズズンママの所へ行って、大勢でにぎやかになったし、演劇があるって言って、こっちに来るように誘ったんだけど。来てみたら驚くかも。でも喜びそうだな」

「わっ、本人来るんだ。ま、良いか」

 アボは、にやっとして、

「モデルには、一言話しておいた方が良いかも知れんな」


 次の日の午後、いよいよ『ズンの女王』の始まりである。

 舞羅がナレーションとバック音楽担当だそうだ。微妙に似ている例の有名な(昭和生まれの読者は御存じの方も多いだろう)題名の歌を歌い出した。違う話の歌ではあるが、舞羅の能力入りの歌の影響でか、妙な感動を覚える客席の人や龍神。

 カカとズンの結婚式で始まり、久しぶりに会う設定の二人、

「この日をどんなに指折り数えて待っておりました事か。カカ様、お慕いしておりました」

「ズン、良く来た。美しくなったな」

「カカ様、うれしゅうございます」

 魔人三兄弟の名を、いい加減な名前にしていて、雰囲気が微妙に出ない。カカ役の真太は、舞台のそでに居る由佳を白けた目で見るのだった。

 そして大概の事は飛ばして、カカこと真太とズンこと千佳の元へアビを連れて現れるヒイラギこと由佳。行方不明の妹の登場であるが、ナレーションで気まずさの訳を説明。あわれヒイラギの毒による死亡そして、彼女の子供は行方が分からなくなると舞羅が説明する。

 場面変わって、カカの元恋人とカカとの子が登場である。役は違っていても、出てくるのはアビと由佳である。この展開に、客席の皆はついて行けているのか。二人を前にして狼狽するカカとズンである。

 ズンこと千佳は大いに嘆く大芝居。バック音楽でまた舞羅が例の歌を歌い出す。見た目混沌としているが、舞台の千佳由佳は大真面目だ。これで終わってもよさそうな感じだが、千佳の毒による死亡場面、何故か客席の女性たちの涙を誘う。さらに混沌増しの場面である負け戦の所に代わる。エキストラのイデやロバートと悠一は魔族役、ココの翼とククのイヅで戦い、負け戦っぽくなるが頑張って持ち直した。

 その後、へとへとっぽく、アビのぼんやり居る場所へ戻って来るイヅと翼である。

「喜べ、ビッちゃん。何とか魔人国が勝ったぞ」

 クク役イヅがへろへろ台詞を言う。

 すると、ビッちゃんことアビは、豹変する・・・芝居ではなくマジで魔王参上だ。

 どうやらイデが探していた奴のようである。というのも、真太が御神刀を持つより素早くイデが御神刀を手にしたからだ。

 真太、内心『あれっ』その素早さに驚愕。

 一方舞台上では、

「それはどうかな」

 一応イヅの台詞に答えの台詞を吐く魔王。そして、地獄の業火も吐いて翼に襲い掛かろうとするが、イヅは翼をかばい、例の高温の青い光線を魔王の顔めがけて吐く。魔王は腕で顔を隠す。腕で庇ったが、腕は燃えていない。魔王、おそるべし。

 ここまでほぼ一瞬の事。


 そこへ、イデが飛び出てきて、御神刀で魔王の腹の左下を刺すが、アボが叫ぶ、

「外れているぞ。そこ逃げろ。イデ退け、やられるぞ」

 次に真太が、もう一振りのお子様用の御神刀で魔王の急所を刺す。命中したようで、魔王は倒れる。だが、手応えが無くて、真太が焦って叫ぶ。

「居ない。逃げているぞ、どこだ。探せ。イヅ、イデ」

 どよめく客席。

「くそう、隠れやがった。何処だ」

 真太は焦る。奴は強力だ。早くしないと同化も早いと思う。客席を見回すと、美奈お婆ちゃんが泡を吹いて倒れている。真太は思い出した。シンが美奈お婆ちゃんには道筋が出来ていると言っていた。

「おばあちゃんに流れたんだ」

 真太は声を漏らした。

 翼も、

「お婆ちゃんがっ」

 と叫んだ。

 イデがあっという間におばあちゃんの所へ行き、魔物の急所を今度は外さず刺した。

 ぶんっと空気が震えたようになり、魔物が死んだ事が分かった。

 しかし、お婆ちゃんは・・・

 横に居た真奈さんと香奈ママが、美奈婆ちゃんを揺り起こそうとしたが。

「すまない、また俺はしくじってしまった」

「何言っているのよ。イデ、あんたは頑張ったよ」

 真奈伯母さんは言う。香奈ママも、

「そうよ、みんな見ていた。あんたが一番早かった」

 真太もそばに来て、

「うん、真太は遅かったと言ってくれ」

「イデよりはでしょ。氷に浸かっておけば良かったね。と言っておこうか。過ぎた事をどうこう言ってもしょうがないけど」

 香奈ママに言われて、ため息をつく真太だった。


 美奈お婆ちゃんの犠牲で、散々な終わり方の舞台だった。

 それでも、魔人の国が滅んだ訳は龍神国に知れ渡り、ヒイラギや三兄弟が騙された相手も何世代も過ぎた末ではあったが、敵は打てた。イデの話では、地獄には大物はいなかったそうだ。多分、イデが片付けた結果の話だろう。

 それで、アボパパは、学校はまだ必要なのかと、ソールさんに食い下がっていた。

 翼は西京の大学に戻ると言って帰ったし、他の人類代表も立ち去った者は多い。

 その後、残ったのは龍神との血縁関係有りの人間だった。

 文句たらたらだったアボパパは香奈ママに睨まれて、終いには黙って香奈ママに指図された事に専念し出した。

 真太は日の国にいるよりも、アマズンの方が仲間っぽいイヅイデ兄弟がいるし、最近はナイラ川やアマズン川に子龍が生まれてきて、それなりに面白い日々を過ごせている。

 氷漬け荒療治は、まだやる気が出ない真太だ。イデには、『必要に迫られる機会がない限りは、浸かる勇気は出ない代物』と慰められて、『一生浸からないかも』と思い始めていた。


 完


今回の小説はこれで終わります。「生まれ変わっても 第5部」でした。アイデアが浮かんだときは、また投稿します。

作中の舞羅が歌った歌の題名は昭和生まれの方なら、覚えていらっしゃるかもしれません。「〇〇の女王」、〇〇は書かないでおきました。最近は懐メロが頻繁に放送されますが、この歌は出てきません。曲が外国の作曲者のものだからでしょうか。当時割とよく流行していた気がしますが、現在テレビで聞かないので、念のため題名は伏せておきました。

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