第1話
ある日のこと、真太は定位置のソファに寝ころびながら、あの頃のことを思い出していた。
あの頃とは、先日の騒動後、イデの魂がシンから本来のイデになって、戻って来た頃の事である。そのイデときたら、真太の家には来ることはなかった。イヅだけ、時々来ては、夕食を食べてアマズンに戻って行く。彼も真太には用は無いらしく、もっぱら千佳由佳としゃべって帰ってしまう。
そこで真太は思う、
「俺って、あいつらに何かやっちまったのかな」
自覚はないが、状況からしてそんな気がする。イデはどうやら真太と仲良くなる気がないらしいのは何となくあの頃の事情からして、分かる気がするが、イヅの様子がどうも気にかかる。以前の親しさがないのだ。自覚がないので、どうしようもない真太である。
そんな感じで、首をかしげていたところに、なぜかアビがやってきた。
「やあ、真太君。相変わらず元気そうだね。アボさんは御在宅かな。あ、そのようだね。僕が直接、アボさんの部屋に行っていいものかな、僕の家には取り次いでくれる執事がいるんだが、真太君は随分ソファで寛いでいるようだから、まさかアボさんにアビが会いたいと言っているとか、取り次いではくれないだろうね」
「あったりまえだろ。ここは日の国の庶民の家なんだ。さっさと自分の足で二階に行って、ちわっとか言って部屋に入るんだよ。それが俺んちのルールだ」
「そのようですね、ではそうさせてもらいますよ」
「アビって、以前よか、かなりお上品になったな。ママに躾けられたのかな。それとも、彼女とかの新しいのができたとか?」
「真太君とは、そういう話題はやめておきましょう。では、失礼」
二階へ行くアビを見ながら、
「あいつ、やっぱり感じ悪い奴」
結論が出たところで、真太はアビが何の用で来たのか、気になってきた。聞いてみなかったことが悔やまれる。イヅのことで悩みすぎたと思った。耳を澄ますが、話し声はさっぱり聞こえない。
「ったく、上品になりやがって、声出せよ、もっとでかく」
しかし普通に話しているのなら、聞こえる距離とは言えない。思えば、千佳の耳はかなり良いのでは、と言える。仕方なく、そろそろと階段を上って聞こえる所まで行ってみる。アビが一人で話しているようだ。道理で聞こえないはずである。
「そうおっしゃらずに、もっと母の計画を真剣に考えていただきたいです。僕も、子供の使いじゃないですから、引き受けていただくまでは、帰りませんからね」
『アビ、今日は家に泊まる気か』と思いながら、真太は興味がわき、もう一段上ってみる。
「そんなバカげた話を、俺に持ってくるんじゃない。おまえ、ママに言われっぱなしじゃなく、少しは自分の頭で考えろや、俺の事は分かっているだろう。無理だってな」
「そうは思いません。母ナイラも言っていましたが、真太君の出来を見て、大統領邸でも評判になっていますよ。真太君は、決して自分の利口さを表には出さず、愚かを装った挙句、ここぞというときには、あのシンさえ説得と言うか、言い負かすんですよ。おまけに、あの古の龍神の長の念力をはじき返して、あのお方を数週間気絶させていたそうですよ。信じられますか。それなのに、普段は少し足りない風を装っていますよね。だれも疑ってはいませんでしたよ。あれを見るまではね。僕はしばらく寄り付く気にはなりませんでした。母は面白がっていますよ、あなたには龍神の子を育てて、その才能をマックスまで引き出す技をお持ちです。真太君だけではないですからね。イヅもですよ、あの光線を出す技、アマズンで育っていれば、平凡な龍のままだったのですよ。これは母が言っていたことです。母は、ナイラ川生まれの子も、アマズン生まれの子も、あなたに育てていただきたいそうです。そこで、USBBのとある場所にそれにふさわしい施設を用意し、そこを香奈さんに結界を張ってもらいたいです。そして、そこは寄宿学校的な施設にして、龍神の子供達をアボさんによって、その能力を開花させていただきたいのです。そうしないと、父アバ亡きこの星に、龍神達の生き抜ける未来はありません。そう、母は断言しています。僕もそう感じています。父アバもあなたと共に育っていますよね。彼は、若いころは手が付けられなかったと老龍神が言っていましたが、アボさんとつるんで遊んでいるうちに、力のコントロールを始めたそうですよね。すべて、調べはついているのですよ。断ることはできませんよ、こう言っちゃあなんですが、母じゃなくても、すでに老龍神達は悟っているのです。あなたが原因だとね」
「ぷはぁー、とんだ勘違いだってば、たまたまアバが自分で悟ったんだし、真太の出来は、俺の影響ではなく、あいつの才能だし、イヅの火吹き技もあいつの才能。いやんなっちまうなー、香奈、はよ帰ってこないかなー。俺じゃ言い負けそうだ。あ、真太だ。ママが帰るまで、お前が言い負かせーっ」
アボパパに立ち聞きがばれていて、真太が呼ばれたが、真太とてパパと同類、アビに言い負かされそうと言える。とは言え、ピンチには違いないので、助太刀に現れる真太。
襖を、バラっと開けると、
「アビ、寝ぼけたようなことを言うんじゃない。パパは何もしていない。見てわからないか、この人畜無害ぶり。千佳由佳が卒業したら、ママと余生を過ごす気なんだから、邪魔しないでよね。ナイラママに言っといてよ。アボはナイラ川のワニほどの役にも立たないってね。あ、ナイラ川にワニが居るかどうか知らないけど。例えばのワニが居なけりゃ、そういう事なら、もっとまずいことになるっていう予感がするよ。うん、ワニよりもっとちっこい生き物よりも役立たずだ」