第2話 会話すらも上手にできないのに。
第2話です!
放課後の学校は穏やかだ。
吹奏楽部の演奏が心地よく、運動部のまだ元気に活動している声に安堵した。
僕を避けるように動く人はおろか、すれ違う人さえいない。陰口も笑い声も聞こえない。
まるで幽霊にでもなったみたいで、面白かった。
僕はこの時間が好きだ。
いつもは校舎の散歩をしたり、スマホを眺めて過ごしていたが、今日は理科室を尋ねてみようと思うのだ。
やっぱり、先生のことが気になってしまった。
理科室の前に来て、ドアの窓から中を覗いてみた。
案の定、先生はあの時の姿でいた。
やっぱり、何かあったんだろう。僕の考えすぎであったとしても、先生に何かがあったことは確かだ。
もし僕の勘違いだったら…いや、そんなことうだうだ考えてたってダメだ。助けたいって思ったときに行動しなくては、誰も助けられない。その迷いの一瞬が、生死を分ける時だってあるんだ。
そんなことをうだうだ自分に言い聞かせながら、僕は勢いよくドアを開けた。
中にいた先生は驚いた様子で目を大きく見開いたが、すぐに笑顔で僕を見て言った。
「もう…ノックしてくださいよ」
咄嗟に作った笑顔だからか、少しぎこちなかった。
「あの、先生…話したいことが…」
と、言ったはいいものの…なんて言って切り出そう!??
椅子に座って横並びになっていることも相俟って、余計気まずい!
先生はこんな僕の他愛のない話でも、笑顔で聞いてくれる……あ、でも…
この笑顔も作り物なのかもしれない。
い、いや、全部が全部作り笑いなわけではないさ、きっと。
でも、だよな…
「先生、何かありましたか…?」
先生は意表を突かれたように笑顔が一瞬曇ったが、再び完璧な笑顔を作った。
「何もないですよ。いつも通りです」
真っ直ぐ僕を見つめて言った。僕の方が目を逸らしてしまいそうになるほどに。
そしてすぐ話題を変えようと先生は「そういえば…」と呟いた。
「せ、先生…!」
大きな声で先生の話を遮った。
「り…璃音さん…?」
「本当に、何でもないんですか…?」
静寂が訪れた。先生は何かを言おうとしたようだが、結局口を閉ざしてしまった。
積まれてあった実験器具がカタッと小さな音を立てて少し傾いた。
ほんの一瞬が、とても長く感じた。
「少し…ですけど、学生時代のことで…」
俯き気味に言った先生は、少ししてから顔を上げた。
寂しげに笑う先生に、掛ける言葉を探すが、分からない。
自分勝手に先生の心に踏み込もうとしたくせに、自分が情けない。
「…あ、ああっ、璃音さんも何かあれば言ってくださいね!歳も近いので、話しやすい…かなぁ…なんて…」
見せてしまった自分の弱さを取り繕うように「先生」ぶった先生に、自分と同じ物を感じた。
この日はもう、これ以上聞けなかった。というか、聞いても教えてくれないだろう。
まぁ…こんな僕に打ち明けたところでなんの解決にもならないしね。
一人になった理科室で、僕は机に置かれたカッターを見ていた。
先程までは綺麗な銀色をしていた刃が、赤く淀んでいた。
「もうしないって…決めたのに…」
僕は今、どんな顔をしているのか…笑っていたいのに…笑えない…
耳が痛いほどの静けさに嫌気がさし、窓を開けた。外からの風が、髪をなびかせる。
その時、昔のトラウマが蘇るような悲鳴が聞こえた。
「璃音さん…?」
次はもっと先生と璃音が仲良くなれるように頑張ります!