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1-1 スライムはお友達?


「わ、わたし……異世界転生しちゃったのーーーーーーーー!?」



緑の草原に響き渡る絶叫が、誰もいない大地にこだまする。

 

川島美咲――VTuber「猫神ルナ」として活動していた彼女は、先ほどまで自宅の狭い部屋で配信を始めようとしていたはずだった。


 


にもかかわらず、今こうして広大な草原の真ん中に立ち尽くしている。

まるでゲームやアニメのファンタジー世界に飛び込んだかのようだ。


 


頬を撫でる柔らかな風には草いきれが混じり、鼻をくすぐる。

足元にはしっとりとした土の感触があり、遠くには巨大な翼を広げる影――ドラゴンらしき生物まで見える。


 


美咲は慌てて自分の体を見下ろす。

そこには“猫神ルナ”のアバターそのものの姿があった。


 


黒い猫耳カチューシャ、しなやかな猫の尻尾、和風メイド風の衣装――

これは、イラストレーターの「しぐれ無為先生」に依頼して生み出してもらった、自分だけのキャラクターデザインだ。


 


「本当に、私がルナの姿になってる……!」


 


手を動かすと、しなやかな尻尾がふわりと揺れる。

耳を触れば、ぴこりと反応する感触が伝わってくる。


 


VTuberとしてデビューした当時は、大手企業「ジニー」が立ち上げたVTuber部門に所属していた。

企業のバックアップを受けて、登録者もそこそこ増え、夢に満ちた日々があった。



だが、その夢は突然終わりを告げた。

ジニーが不採算を理由にVTuber部門を爆散させたのである。


大手だったからこその期待は一瞬で崩れ去り、路頭に迷う形で個人勢となった美咲ルナは、登録者数1.5万人ながら同接100人前後という厳しい現実に直面する。


“崖っぷちVTuber”と陰で囁かれる中でも、諦めずに配信を続けていた。

その矢先に、配信開始直後の謎の現象で異世界へと飛ばされたらしい。


「まさか、本当に転生なんて……でも、これアバターそのままだし……」



動揺しながらも、美咲は自分が猫神ルナとしてここにいることに、なんだか不思議な高揚感を覚えていた。


キャラになりきったとき感じるあの自信、あのパワー。

今、確かに自分のものになっている気がする。



「すごい……耳も尻尾も、本物みたい……!」



素の美咲なら恥ずかしがってしまうところだが、今は純粋な感動が勝る。

あまりにもファンタジーで、信じられない状況だけれど、ひとまず生きているし痛みもある。

どうやら夢ではなさそうだ。



「さて、どうしよう……とりあえず周りを見回してみ……」



ふと、足元でかすかな湿った音がした。



振り返れば、ぬらりと光る半透明の塊が、地面を這うように近づいている。

透き通った体の中でゆらめく何かが、水風船のように揺れている。



「あ……スライム、かな……?」



異世界ファンタジー作品では定番中の定番、いわゆる最弱系モンスターだろうか。

だが、彼女はまだ危機感より好奇心が勝っていた。



「お友達、みたいな感じかな……?」



ルナは手を差し出す。

その手には猫型のグローブがはめられている。

触れ合う程度なら大丈夫だろうと思った、その瞬間――



ジュッ、と嫌な音がして、グローブの指先が溶けはじめる。



「ふ、ふにゃああっ!?」



慌てて手を引くと、グローブがぐにゃりと歪み、糸を引くように溶解していく。

鼻を刺激する刺激臭が漂い、ルナはたまらず後ずさった。



「こ、こわっ……溶けてるじゃん!」



初めて出会った異世界の生物は、どうやら友好的ではなかったらしい。

油断していたルナは思わず震え上がる。


ルナは尻尾をピンと立て、穴の空いたグローブを見つめる。

ここは異世界、敵が何をするか分からない。


自分はVTuber「猫神ルナ」だが、現状どれほど強いかも分からない。

ただ、スライムはじりじりと近づいてくる。



「と、とりあえず離れなきゃ!」



ルナは警戒を強め、距離を取ろうとする。

異世界での最初の出会いは、予想外の形で彼女を驚かせることになった。

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