表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

見つけたもの

このお話で完結となります。

強引な点が多々ありますが、一つの物語として楽しんで下さい。


 見つけたもの



 マスターがカウンターの中に戻り、奥から厚い大判の地図を持ってきた。


「ゼンリンの住宅地図じゃないですか マスター、こんな高価な地図、何で持ってるんですか? 」


「地図を見るのが趣味でね この地図を眺めていると普段見ることの出来ない俯瞰からの細かい所が分かって色々な発見があって楽しいんだよ 」


「ああ、これ上から見るとこんな感じなんだという事がありますね 」


 マスターは中岡さんと話しながらテーブルの上にページを開く。A3程の大きさのあるページに住宅等が詳細に記入されている。


「うちの店から見て1時の方向はこの辺りだと思うけど雨城さん、何か思い当たるものがあるかな? 」


 私は食い入るように地図を見つめるが、彼と関係がありそうなものは見つからない。武石、楠木、本田、今川、山口、どれも一般の住宅のようで彼との関係はないと思われる。


「雨城さん、本郷さんの趣味は他に何がありますか? 」


 中岡さんに訊かれ私は答えに詰まる。彼はコーヒーを飲みながらプログレを聴きミステリーを読む。そこまでは思い浮かぶが、他に何かあっただろうか。彼と一緒に過ごした時間を思い返すが何も浮かんでこない。私は愕然とした。私は、彼の事を何も知っていない。いや、知ろうとしなかったのだと……。いやいや、そんな事はない。私だって彼の事を知ろうとした筈だ。私は、彼の持ち物、机の上、部屋の中、彼に関するものを思い出そうとしながら、地図に目を通していく。


「あれっ これは何でしょう? 」


 私は指差した場所には大きな建物の図が記載されているが名称は記載されていない。同じ敷地内にはもう1つ建物があり、○○公民館と表示されていた。


「公民館の隣か 何があったかな 」


 マスターと中岡さんが考え込むが、高杉さんがあっさりと答える。


「多目的ホールだよ 普段は絵画の展示をしている筈だ 」


「絵画っ! それは誰の絵画でしょうか? 」


 私はドキドキしていた。彼の部屋の壁に飾ってあった一枚の絵。それを思い出していた。もちろん複製品であるが、彼はその絵をひどく気に入っていたようで、私に蘊蓄を垂れた事もある。


「特に誰のと云うことはないようだよ 色々な絵画が展示されているね 」


 私は高杉さんの言葉で席を立った。少し出てきます。マスターに頭を下げ店を飛び出した。そして、アパートに戻り自転車に跨がると公民館目指してペダルを漕いだ。


・・・やっぱり、あった ・・・


 私は公民館の隣の多目的ホールで目的の絵を見つけていた。


「“通りの神秘と憂鬱“キリコ作の部屋に飾ってある彼の好きな絵だ 」


 私は思い出していた。何度か彼に絵を見に行かないかと誘われた事があった。ここの事だったのかと今になって思い至った。他の絵画を見ると、ダリ、マグリットとシュールレアリスムの巨匠の絵画が並んでいる。それを見て私は彼の好みの絵だなと思っていた。私は自転車で喫茶フリップに戻り、あの建物で間違いないとマスターたち3人に伝えた。マスターたちも、私の店を出ていった態度からおそらく間違いないだろうとページのコピーを撮り3ヶ所の中心、雲雀の位置を探っていた。


「おそらく、ここだと思うが行ってみないと何があるか分からないな 」


 マスターが指差す場所は広い空白の敷地だった。


「この地図が印刷された時にはまだ何もなかったのだろうけどね 今は何かある筈だよ 」


「他はみんな一般の住宅だからね 」


「何かあるとしたら、ここしかない 」


 私は直ぐに行ってみる事にした。コピーした地図を見ながら探していくと、それは簡単に見つかった。


「ここだ 」


 私は自転車に跨がったまま、目の前に無数に置かれたコンテナを見つめていた。トランクルーム。私は彼の引き出しから見つけた鍵を思い出していた。急いでアパートに引き返し、小さな鍵を握りしめると再び自転車でトランクルームに直行する。そして、意味の解らなかった鍵にかかれた数字のコンテナを見つけ出し鍵を差し込んだ。それは、ピタリと合い、カチャッと小さな音を立て鍵が開いた。私は恐る恐るコンテナの扉を開き、中を覗くとコンテナの中央に置かれた椅子に黄色いクマのぬいぐるみが座っていた。クマのぬいぐるみは封筒を持っている。私は中に入ると封筒をとり封を切った。


・・・おめでとう ここまで来れた君は素晴らしい そんな、ひばりにプレゼント ここに必ず彼を誘って二人で行くこと さあ、ゴールはもうすぐ ・・・


 封筒の中には便箋の他に老舗中華料理店の招待券が入っていた。私は、そのぬいぐるみと封筒を持って喫茶フリップに戻ると、マスターたちは待ちわびたように私の顔を見てきた。私は、トランクルームのコンテナに入っていたぬいぐるみと封筒を見せるとマスターたちは腕を組んだ。


「この中華料理店がゴールなんだろうね 」


「必ず彼と二人というのが何の意味があるんですかね 」


「その彼は、もういないですよ 」


 私はここにきて彼の意図を計りかねていた。


「でも、行ってみれば何か解るかも知れないよ 」


「そうですね 次がゴールだろうし 」


「しかし、二人でとあるから二人で行く事に意味があるのかも 」


 しばらく意見がまとまらなかったけれど、結局私と中岡さんでその中華料理店に行ってみる事になった。




 老舗の中華料理店は豪華な造りで、横浜の中華街にある高級中華料理店のような趣があった。私と中岡さんは、私が招待券と名を名乗ると奥の個室に案内された。


「今、お料理を運んで参ります 」


 私たちの注文も訊かずに店員はお辞儀をして下がっていった。どうやら全て段取りが出来ているようである。


「中岡さん、彼は何がしたかったのでしょう? 」


 私は、ここに来てもまだ彼の真意が分からず困惑していたが、中岡さんは豪華な店内を見回しもう分かったという顔をしていた。


「料理がきたら説明しますよ きっと雨城さんの彼がしたかった事が分かると思います 」


 しばらくして料理が運ばれてきた。それは、ゼリーのような煮こごりのようなものだった。私は初めて見るものだったが中岡さんはそれを見て、うんうんと頷いていた。


「これは中国の古い宮廷料理ですよ 「Larks Tongues In Aspic」と言います 訳すと、雲雀の舌のゼリー煮とでも云うのでしょうか 」


「えっ 」


「そう、雨城さんがリクエストしたアルバムの原題と同じです 」


「食べ物の事だったのですか 」


「ええ、雨城さんはこのアルバムのレコードジャケットを憶えていますか? 」


「はい、太陽と月が重なっているデザインですよね 」


「そうです あの太陽は男性、月は女性を表していると云われています 男性と女性が重なり合う 彼は、本郷さんはここでこの料理を雨城さんと食べながらプロポーズしたかったのだと思います ここに来るまでの過程で雨城さんは彼の知られざる面も知った そして、最後に二人でここに来て、あのアルバムの意味を語りプロポーズする 僕はこれが彼の計画だったと思うのですが 」


 中岡さんに言われ私は彼のいたずら好きな面も思い出していた。こんな面倒な事をしなくても、別に普通に言ってくれれば良かったのにと私は思うが、彼はきっと私が喜ぶと思っていたのだろう。


「もう こんな事しなくても…… 」


 私は思わず呟いていたが中岡さんは、それだけ彼は雨城さんの事が好きだったんですよと言う。


「本郷さんは雨城さんと、これからも一生仲良くやっていきたかった だけど、不安もあった そこでその不安を少しでも解消する為にこんな事を考えついたのだと思います 」


「彼が不安? そんな素振り見たことないけど…… 」


「男と女ですからね 不安はつきものだと思いますよ 特に雨城さんは魅力的な方だ 本郷さんも魅力的な方でしたけどね 本郷さんは何か切っ掛けが欲しかったのだと思いますよ 」


 私は彼のはにかんだ笑顔を思い出していた。


「太陽と戦慄の一曲目のタイトル曲は、男と女の不安を表したとも云われているんですよ 不安から始まり数々の経験を経てまた最後の曲で絶頂を迎える ああ、僕ももっと本郷さんと話したかった 」


 中岡さんは、話しながら“Larks Tongues In Aspic“を一口、口に運んだ。



お読みくださりありがとうございます。

筆力不足で分かりにくかったかも知れません。ご容赦ください。

好きなアルバム「太陽と戦慄」をネタに何か書けないかと思い書いてみました。興味がある方は是非このアルバムを聴いてみて下さい。

感想頂けると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ