Привет
2024年5月7日火曜日、午後4時
昼なのに空が黒く、雨がさーさーと降っている。
ふぁさふぁさふぁさ…扉の向こうから羽根で叩いているような音が聞こえた。
「ん?」林リョウはタバコを咥えたままのっそりとソファから起き上がる。羽音が聞こえる。タバコを灰皿に捨て、ジーンズのチャックを閉め直す。足元に雑多に置いてあった本と服を足で押しやりながら扉に近づこうと立ち上がった。
軋む廊下を歩きながら、よれよれのタンクトップの片方の肩紐を肩にかけ直す。
玄関に立ち、覗き穴からそっと家の前を確認するが…誰もいない。それでも羽音は聞こえる。
一旦扉から離れ、めんどくさそうにダークブルーの髪をかきあげる。
《気分じゃないけど…》そう思いながら、ドアノブを回す。すると同時に羽音がピタリと止んだ。
「Привет」
静寂のなかに生まれた落ちた、人声とも動物の鳴き声とも判別しにくいその声はとても邪悪だった。
ドアノブを握る手に力を入れ直し、そっと扉を開けた。
そこにいたのは、3羽の黒いニワトリたちだった。一見するとただのニワトリたちだが、手前の一羽だけ片目はなく、もう片方の目が異様に大きかった。
全くわけのわからない状況にリョウは混乱していた。しかし、彼女は普段から感情をあまり面に出さないため、他から見るといつも通りの彼女に見えた。
「Не могли бы вы приготовить мне немного еды?」
片目の大きいニワトリが口をパクパクさせながら話しかけてきた。
「すまんが、日本語は喋れないのか?」
彼女の頭の中は混乱しすぎて、日本語が喋らないであろうニワトリに日本語で話せ、という変な質問をしてしまった。しかし、これまた混乱しすぎて、彼女はこのことにすら気づいてなかった。




