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第四話 天才

さらに一年が経過した。

 八歳になった俺はいつも通り剣の訓練に勤しんだ後、魔法の悩みをエドガーに話していた。


「魔法がなかなか発動しないんだ」


「シド、人には得手不得手がある。ばあさんから聞いていると思うが、俺が得意としてるのは武器に魔法を纏わせる付与魔法だ」


「でも、父さんは普通の魔法も使えるだろ」


「そうだが。俺だって最初から一般的な魔法を使えた訳じゃない。最初は庭にあった小さな小枝に火を灯したのが最初の魔法だ。興奮して火のついたまま庭に投げてしまってな。ばあさんに怒られたもんだよ」


(確かに、どんな魔法であれ魔力を魔法に変化させるという要領は同じ訳だし、とりあえず一つ発動させれば残りもすぐに使えるようになるかもしれないな。)


「ありがとう。父さん」


 そんな父の失敗談を聞いた俺は付与魔法の練習を諦めず、続けることにした。



 ある休日の日が昇った昼前に、村の男が十歳から希望すると参加できる自衛のための演習に俺は特別に参加していた。


 そこにはなぜかアリエルもいて、


「今日は楽しみだね!」

 と、意気揚々と剣の素振りをしていた。


「今から総合演習を始める」


 そう開始の合図を始めるエドガーは実は村の自衛団のリーダーで、村人全員から少しずつ集めた金が我が家の収入源だったみたいだ。


 そんなエドガーの仕事の一つが決まった曜日に行われる村の男たちを集めた総合演習で、

 女たちも見に来ることから村の男連中も気合が入っていた。


 そこにはエドウィンの姿もあったがみんなが剣を構える中、エドウィンは槍を構えていた。板についているその姿から、ただかっこいいから槍を手にしているのではないということは容易にわかった。


 体付きからただの村人ではないと思っていたが、総合演習ではエドガーのサポート役のようだ。


「それではまずは習った型の素振りからだ。始め!」


 演習を進行する父の姿が中々、様になっている。

 軽い準備運動をしたあと習った型稽古を一通り終わらせて、この総合演習の目玉の模擬戦が始まる。


「最後に模擬戦を行う。各々、相手を決めろ。」


「おい、シドルファス」


「ん?」


 名前を呼ばれたので振り返ってみるとふんぞりかえっている悪ガキの大将がいた。


「俺がみっちり稽古つけてやるよ」


 感謝しろよ。と言わんばかりにニヤニヤした笑みを浮かべているが、目的はおおよそ察している。アリエルにかっこいいところを見せたいのと、アリエルといつも一緒にいる俺を痛めつけたいのだろう。

 もしかすると、エドガーが八歳からこの演習に参加させたのはこれが目的の一つなのかもしれない。


 なら、相手がケガしないように適度に痛めつけてやることにするか。


「いいぜ。やろうか」


 適度に距離を空け、お互いに構えて開始の合図を待つ。


「シドー!がんばれー!」


 アリエルよ、お前のことが好きなやつの前でそれは逆効果だぞ...悪ガキの顔がひきつってるじゃねぇか...


「始め!」


「てい!やー!」


 カンッ、カンッと木剣同士が弾き合う音が響く。まずは相手の攻撃を受けるだけにしてやる。側から見れば防戦一方にみえるだろうが...


(弱すぎる。まともに練習してたのか?)


 おれは父から身体強化を禁止されていたのだが、使うまでもない。


 押していると勝手に勘違いして、ニヤニヤ顔を浮かべる悪ガキの顔が少しムカついてきたので、

 そろそろ終わりにしてやろう。


「フンッ」


 おれは両手で持つ木剣を右手に持ち替えると、上段から振り下ろされる木剣に横凪に振るう。


「ウ!」


 パーンッと辺りに耳をつんざく音が響くと同時に悪ガキが後ろに飛ぶ。


「それまで!」


 ドサッという落下の音と同時に辺りに歓声が響いた。


「シド、すごいじゃない!次は、わたしとやろうよ」


「相手してやるよ」


 村の男たちがやや俺から距離を取る中、アリエルだけが次戦の誘いを申し出る。


 男連中から手加減してやれよー!

 などと聞こえるがアリエルの実力を村の連中は知らない。


 こいつは間違いなく天才だ。おれは剣技のみの勝負で、

 こいつにただの一度も勝てたことがない。


「わたしも身体強化できるようになったからアリでもいいよ。良いよね?おじさん」


 うむ。とエドガーは暫し考えたあと、了承したと頷く。


(身体強化ありでアリエルに負ける訳にはいかないな。少し本気でいくか)


「始め!」


 開始の合図と共にアリエルは俺の懐まで飛び込んでくる。

 そして、視界から消えたかと思ったら、側面から木剣を右下段から俺の胴体に斬りかかる。


 はやっ!


 俺は横目でアリエルが横移動する姿を捉えて、なんとか受け止めた。


(右にステップして、その勢いを殺さずに回転しながら斬りかかったのか)


 俺は自分の得意な身体強化が使えることに油断していた。こいつは天才なのだ。身体強化や魔法がどうのという話しではない。

 俺は気を入れ直した。


 受け止めた木剣ももはや女が出せる威力ではない。全体重を乗せた一撃をなんとか弾く。


(これは受け続けてたらいつか食らうかもしれねぇな)



 流石にここまで強いとは思わなかった。恐ろしいまでの戦闘センスだ。

 流石に大勢の前で十歳の女の子相手に気絶は情けないと冷や汗を頬がつたう。


 そう考えた俺は飛ばされて、体勢を立て直したばかりの女の子に身体強化全開で斬りかかー


 ろうとした時、


「やめ!」


 エドガーの猛々しい声によってそれは止められた。


「なんで!今からがいいところじゃねぇか!」


「アリエルを見てみろ」


 なんだよ。と見てみると、アリエルは顔を青白ませながら尻餅をついていた。びくびくと目を伏せていたアリエルは完全に戦意を消失していたのだ。


 やってしまった。前世からの癖で負けそうになると殺意を込めた全力を出してしまう。

 しょうがないだろ。

 傭兵時代は負け=死。だったんだから。

 戦を知らないアリエルから見たら初めて殺意を込めて木剣を振りかぶる俺はさながらおとぎ話に出てくるオーガのように見えただろう。


「俺の勝ちだ。アリエル」


 ニコッとさっきまでの剣幕が嘘のようにアリエルに微笑みかける。


(こういう時は笑顔だ。敵意がないことを相手に最大限に伝えるんだ)


 そんな俺の思いが通じたのか、


「シドってこんなに強かったんだね。また特訓するから勝負してよね」


 と、アリエルも俺が本心から傷つける気がないのを理解してくれたようでよかった。


 それから家に四人で戻り、ばあさんが作ってくれた料理を和気藹々と楽しんだ。


 夜になり、俺はアリエルに誘われて出会った丘の上で夜空満点に煌々と輝く星を寝転びながら見ていた。


「今日は楽しかったね」


「演習のことか?」


「うん。私が剣と魔法の特訓を始めたのはね、必死に頑張るシドを見て、なんかシドが遠くに行っちゃう気がしたからなんだよ」


 そうだったのか。アリエルなりに悩んで自分にできることを精一杯探しているのかもしれないな。


「お父さんに連れられてシドと最初に会った時、話さない変な子だなぁと思ってたんだけど、そのことでいじめられてたシドが、なんかほっとけなくて...私が守ってあげなくちゃって思ってた」


 そんな弱々しかったのかよ。とうなだれたくなったのだが寝転んでるから顔だけになってしまう。


 でも。と一呼吸はさむアリエル。


「今日、模擬戦してみて、もう私が守る必要はないんだ、ってわかるとなんだか寂しくなっちゃって」


 なるほどな、役得がいった。飯を食べてるときにため息が多かったのはそれが原因だったのか。こんなに同年代の子に思われたのは前世の女勇者ぶりなだけに嬉しいもんだな。


 こいつに守られた分、今度は俺がこいつを守ってやろう。


「大丈夫だ。俺はどこにも行かない。ずっとお前といてやる。だからアリエル。お前も俺について来い」


「え、シド...それって」


 なんだかアリエルが顔を真っ赤にしているが、なんか変なこと言ったか?


 それから少しの沈黙の後、

 さ、寒くなってきたからもどろっ!と言って足速に去るアリエルに連れられて、俺は家に帰るのだった。


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