第三話 魔力と魔法
訓練が始まってから二年半が経ち、おれは六歳になった。
俺は毎日、午前中に剣と魔法の訓練を続けていた。
あの後、俺から話を聞いたアリエルが私もやりたい!
と、魔力の感知をしてみると、なんと三日で完全に感知してしまった。
朝の剣の訓練も凄まじい成長を見せ、剣技だけならあっという間に俺を追い越してしまった。
なんてことだよ...正直悔しい。
俺はというと、外にある魔力を感知するのに六ヶ月もかかってしまった。
だが、まぁ普通の人間なら一年くらいはかかるものよ。と、ばあさんが言っていたので上出来な方だろう。
「二人共、世界に愛されてるのねぇ」
と、ばあさんが褒めてくれたのが嬉しかった。
どうやらこの体はアリエルには及ばないものの、魔法の適性があるみたいだ。
魔法を使うための次のステップは魔力の放出。
どうやら魔法を使うには一定以上の魔力量が必要で、魔力は使えば使うほど扱える魔力量が増えていくとのことだ。
俺はそれを聞いて、山を氷山に変えたり、地表を灼熱の溶岩にするような大魔法が使えるんじゃないか!?と思ったがそうではないらしい。
増える量は人によって差があるらしく、その差が何によって決まるのかはまだ解明されていないとのことだ。
落胆したが、それなら別で強くなればいいだけだ。
魔力の放出は普通なら三年ほど続けないと魔法を発動する魔力量にはならないらしい。
教会や冒険者ギルドが持つ魔力量を計測できる魔力計測器があれば使える段階になればすぐに分かるのだが、高価なもので一般人には手が届かない。
ばあさんは「どんな魔法を使い、それで何をするのかを考え、楽しむのも魔法の醍醐味よ」と言っていたが俺もそれには同感だ。
前世では早く強くならないと生きることすら難しかったが、この平和な生活に心の余裕ができたみたいだ。
だからなのか、魔力の放出の訓練も楽しかった。
前世ではあまり考えないようにしていた魔法というものが俺は好きみたいだ。
ばあさんは訓練の休憩中、魔力、そして魔法のことを教えてくれた。
「魔力というのはね、神様からの恵みなんだよ。植物、動物、そして人間。大小はあるけどすべて魔力を含んでるんだ。そしてこの世界は運命神イリス様によって作られてね、魔力が多いということはイリス様の寵愛を受けていると言われているんだよ」
諭すようにそういうばあさんの話をおれもアリエルも真剣に聞いていた。
「それに魔法は一種類じゃなくてね。魔力を使って自然現象を起こし、意のままに操るのが一般的なんだけど他にも身体能力を向上させたり、武器に魔法を纏わせる付与魔法。生物や動く無機物を召喚し、使役する召喚魔法。魔法陣を描きあらゆる事象を起こす陣魔法なんかもあるね。あとの二つは魔術と言われているよ」
(なるほどな。それぞれの魔法に人それぞれ適性があるとすれば俺にも何か得意な魔法があるかもしれない)
そう考えた俺はとりあえず得意分野の身体強化の親戚である、付与魔法から始めることにした。
俺は放出の訓練と同時に木剣に付与魔法の練習を始めた。
庭で木剣を構えて木剣に雷を纏わせる付与魔法のイメージに集中していた。
なんで雷かって?そりゃ身近な自然現象で人や動物を畏怖させるのが雷だからだよ。それになんかかっこいいだろ?そんな自分自身との対話は置いといてだ。
(体内の魔力を外に放出し、それを雷の形に変換。木剣に沿わせるようにして...)
こうして一年が経過したが、
未だ木剣に雷鳴は轟かない。
「焼きなさい!ファイアーボール!」
アリエルはというと、一年で家の庭にある大きな岩に飛ぶ火の玉をぶち込んでいた。
「やった!シド今の見た!?魔法よ!」
「見たよ。」
やや不貞腐れ気味だったが仕方ないだろう。女に先を越されたのが悔しいのだ。
訓練の後は、決まってアリエルと村で遊んだ。
俺は情報収集と強くなるための魔法の研究がしたかったのだが...
アリエルが「遊んでよー」と付いてきて集中できない。
(ばあさんからこの世界のことは追々聞いていくとして、夕方までは遊んでやるか)
アリエルと一緒にいると、村の悪ガキ共も遠目に睨んでくるくらいで直接的に絡んでこないのでガキ避けには良い。
それに前世で子供っぽい遊びをしてこなかった俺にとって色々な遊びを教えてくれるアリエルと遊ぶのは正直楽しかった。
決まって夕方には親父の付き添いで村の周囲の見回りをして、森から出てくる低位の魔物を討伐していた。
まだ七歳ということもあって森の奥に行くことは禁止されてるから練習になってちょうどいい。
魔物というのは基本的には低位、中位、上位と三段階に分けられており、低位は武装した大人が単体で倒せるくらい。中位は騎士が三人がかり。上位にもなると完全武装した騎士が三十人いても倒せるか分からないとのことだ。
その中にも上下はあるみたいだが。
さらにそんな階級を飛び越えた神級なる伝説上の魔物も存在するという。いつかはそいつらとも、まともに戦えるだけの力が欲しいものだ。
「ハー!これで最後ですか?父さん」
「フンッ!あー、戻って食事にしよう。ばあさんが待ってる」
低位のツノの生えたウサギ。ホーンラビットを数匹ほど倒した俺は家に帰る。
そんな日々を一年過ごしたが、俺はまだ魔法を発動できずにいた。