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訓練

 

 翌日、早朝に起きた俺は身支度を済ませ庭に出た。


 すると父はすでに立っており、一定のペースで小気味良い風切り音を奏でながら素振りしていた。


(綺麗な剣筋だ)


 上から下に振り下ろされる剣閃は見るものを魅了し、それが長年の研鑽なしではあり得ない物だとすぐに理解した。


「来たか。ほら」


 立ちすくむ俺に気づいた父が子供用の小さな木剣を投げ渡す。


 おっと、と木剣を受け取った俺は父に聞く。


「用事とはこれのことですか?」


「そうだ。昨日の出来事で剣を教えるに値すると判断した。いちおう聞いておくが、なぜ受け止めた石を相手に当てなかった?」


 昨日の出来事とは悪ガキとの一件のことだろう。

 状況を見て納得はしてくれたみたいだが、ちゃんと伝えよう。


「ぼくが本気で投げれば相手は無事じゃ済まないでしょう。そこまでする必要はないと判断しました」


「ふっ、四歳児が言うじゃないか」


 父の笑った顔を生まれ変わってから初めて見た。表情の変わらない人だったので実はゴーレムなんじゃないかと疑っていたのは言わないでおこう。


「始めるぞ。まずは一発打ち込んでみろ」


 俺は気合を入れ、おもいきり踏み込み脇腹目がけて木剣を横なぎに振るった。


(思ったように体が動かない)


 成人から幼児に戻った副作用なのだろうか。俺の想像ではもっと早く振れていた。それでも十分な力で振るうことができたという実感があった。


 パァァン!


 早朝の村に目覚ましが響く。


 驚いた。普通の四歳児の力じゃない。


 生前、息をするように使っていた力が脳裏によぎる。


(石を投げたときにも思ったが、これは身体強化か?魔法を使う人間を見なかったからこの世界には存在しないものと思っていたが...)


 左脇腹を狙った一撃は剣先を地面に向け、いともたやすく受け止められた。が、父も同様に驚いているようだった。


(なんだこの力は...並の大人なら軽く飛ばされるぞ)


 しかし、すぐに刀身を滑らせ根本の辺りからひょいっと剣が払い落とされてしまった。


「力は申し分ない。だが、普通は剣は上から振り下ろすものだ。基本からやっていこう」


(当てるためにそうしたんだけどなぁ)


 と、本気で父親を倒そう。などと考えていたことを隠して子供っぽく返事しておく。


「はい!」


 だが、俺は本気でワクワクしていた。


 前世で孤児だった俺は何事も教えてもらうものではなく、見て覚えるものだった。


 冒険者、傭兵くずれ、騎士など色々な職種の人間を師として真似し、自己流の剣を築き上げていった。


 どうすればいいか、何をすればいいか分からない。分からないからただ、ひたすらに剣を振り、槍を振りがむしゃらに努力した。


 何かを直接教えてもらうというのはこんなにも心湧き立つものなのか。


 それに早く強くなるには何事も師匠はいた方がいい。


 自分の信条のために俺は前世より強くならなければいけないのだ。


「まずは型からだ」


 基本的な型を手取り足取り教えてもらった後、それぞれの型の素振りをし、

 それが終わると家の外周をひたすらに走り続けるのであった。



 日が昇りきった家の庭で俺は倒れていた。意識が飛びそうだ。


「これ、を、毎日、やる、んですか」


 必死に呼吸を落ち着かせて気合いを入れるため、念の為確認しておく。


「そうだ。毎日の努力は土壇場でその力を発揮する」


 その言い分は最もだ。

 俺も前世では毎日トレーニングに勤しみ、見たものをひたすらに練習したものだ。


「そして...」


 そう言った父は急に詠唱を始めると、俺の頭の上に大きな水球が落ちてきた。


「これが魔法だ。目覚ましにはちょうどいいだろう」


 はっはっは!と豪快に笑う父を尻目に先ほどの現象について興味を持ち始めていた。


「魔法に関しては後でステラばあさんから教えてもらいなさい。」


 魔法!


 前世では使えなかったがこの体なら使えるかもしれない。それに教えてくれる先生までついている。夢にまで見た魔法という単語に一気に体力が回復した気がする。


「よし、飯にするぞ」


「すぐ行きましょう!」


 俺は、まだ訓練できるな。などとのたまう父の背中を押して家の中に戻った。



「それでね、お父さんってば胸の大きな女の人ばかり見てるの」


 俺は行商から戻ってきたアリエルから旅の話を聞かされていた。どうやら子持ちのエドウィンもまだまだ現役らしい。


「シド、魔法について知りたいんだって?」


 アリエルと話してるとステラばあさんが話しかけてきた。どうやら親父から話をしてくれたみたいだ。


「うん、おばあちゃん。魔法を教えてください」


 俺が真摯にお願いすると、ばあさんはあい、分かった。と気持ちのいい返事で受けてくれた。


「魔法の前にまずは魔力を感じることからだね」


「分かった。とりあえずやってみるよ」


 まったくどうすればいいか分からないが、とりあえず目を瞑り意識を集中して五感の全てで魔力なるものを探ってみる。


 だめだ。


 なんだかぼんやりと内に感じるものはあるが、これが魔力なのかどうかが怪しい...


「何だか体の内にぼんやりと霧のようなものが充満している感じはする。けど、これが魔力かがわからないよ」


 ステラばあさんに感じたことを伝えてみるとばあさんも父と同様に驚いているようだった。


「普通は一ヶ月くらいはかかるんだけどねぇ。内にしか感じないっていうのは身体強化魔法に適性があるんだね」


 前世では身体強化は自然と覚え、必要に見合った力を引き出すような感覚だった。魔力を意識して使えればこれから色々できるかもしれない。


 それに魔法というのは魔力の認知、これがスタートラインというなんて誰も教えてくれなかったし、俺も知らない人間から聞こうとも思わなかった。師匠がついたというのは魔法に関して言えば大きすぎる。


 どうやらこの体は魔法に適性があるようだし、コツコツ練習していけばいいだろ。



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