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プロローグ

 「おい、見ろよ。あれが噂の...」


「よく顔を見せられるな」


 広大な土野原に陣を構え、傭兵、騎士や農民などを徴兵した

 一般兵たちがひしめき合う中から、何やらヒソヒソと陰口が聞こえる。


「直接言えねぇなら黙ってろよ」


 そこに剣を腰に携え、槍を背中に差した二十歳ほどの男が一人。作戦会議のために私設されたテントに悪態を吐きながら歩を進める。


 そんな陰口を言われるのも無理はない。俺はある目的のためにあらゆる国の戦に傭兵として参加しては敵国の人間を殺し、戦果を挙げていた。


 前まで共に戦った者たちが次の戦では敵となり、殺し合う。


 そんな毎日を送り続けていたら、俺の勇名(悪評)はどうやらあらゆる国に広まってしまったようだ。



 そもそもなぜそんな日常を送っているのかというと、

 生まれてすぐ親に捨てられ孤児院で育ったところから始まる。


 そこでは国の寄付金を院長が横領していたせいで、

 子供たちは満足に飯も食えず、夜は寒さに身を丸めていた。


 さらに些細なことで院長の機嫌を損ねてしまうと、

 懲罰室できついお仕置きが待っているおまけ付きだ。


 俺はよく他の子供たちを庇い、連れて行かれていた。


 懐かしい。


 そんな環境で過ごしていたおれは考えた。


 自由になりたい。何不自由なく暮らしたい。と


 飯を腹一杯食べられて、夜は温かい布団で眠り、その日あったおもしろい出来事を周りにいるやつらで話し合う。

 そんな誰もが享受すべきごく当たり前の幸せに憧れた。


 十二の夜、孤児院が火事に遭い、全焼したのを機に、俺は自分の望みを叶えるため傭兵の世界に身を置いた。


 幸か不幸か俺には才能があった。


 それは魔法が使えない代わりに身体能力が異様に高かったのだ。壁は殴ると粉々になり、地を蹴ると3メートルほどの家の塀なら余裕で飛び越えられた。


 そして、力あるものが正義。

 そんな傭兵の世界で活躍するのに時間はそう掛からなかった。


 そうして命懸けの毎日を必死で生き、生活が安定してきた頃に、

 ふと考えたのは孤児院の子供たちのことだった。


(あいつら、無事に生きてるかな)


 ある日、路地裏で倒れてる二人の兄妹を見つけた。

 痩せこけ、ぼろぼろの汚れた服を着た兄妹はすでに息を引き取っていた。


(嘘だろ...孤児院にいた...)


 兄の方は正義感が強く、よく院長に連れて行かれる妹の身代わりとなっていた。

 妹の方は気弱で兄にベッタリだった。

 そんな二人はよく、いつか温かい家で二人で暮らすのが夢なんだと言っていたのは今でも覚えている。


「なんでだよ...こいつらが何かしたのかよ...なんで...なんでこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ!」


 その時に、俺の決意は固まった。


「俺の国を作ってやる。優しい奴らがこんな目に遭わなくて済むような、自由で、みんなと笑ってられる。そんな国を!」


 何か、人生の意味を見つけたような...そんな気持ちだった。


 そのためにも、まずは金を稼ぎ、名を広める。

 それには傭兵というのはまさに絶好の天職だった。


 戦の時は目的を見失わないように自身の過去を思い返していた。


「毎度、どうも」


 天幕を上げて調子の良い挨拶と共に中に入った俺に指揮官たちは眉を細める。


「遅いぞ、傭兵風情が」


(その傭兵を頼ってるのはどこの誰だよ)


 戦争は金になる。

 特におれのように傭兵として有名になり、個人としての武力を認めさせ、

 共に作戦を考えるまでにもなると、どこに行っても重宝される。


 俺にはこんな方法しか思いつかなかった。


(あいつなら、もっといい方法を思いついたかもな)


「あんた、ちゃんとご飯は食べてるの?それにこの間、表通りの露天の女将と話してたけど、女遊びも程々にしないとそのうち痛い目に遭うわよ」


(あいつは元気にやってんのかな)


 不意に孤児院の頃から交流の女勇者のことを思い出す。


 作戦が決まり、俺は所定の位置で戦が始まるのを待った。


 辺りに鳴り響く開戦の合図で戦が始まった。

 俺は陽動として戦う本隊を尻目に敵大将の首を取るため、裏側から敵本隊へと強襲した。


 やられた。


 しかし、そこには兵の半分を後ろ側に展開させた敵軍の姿があった。

 降りてきた崖の上、周囲を囲う森の中からも続々と敵兵が包囲を完成させていた。


 情報がどこかから漏れたのだ。あの作戦を知っていたのは、作戦室にいた指揮官達しかいない。

 俺は逆に囮にされたのだ。


 だが、もうそんな後悔も遅い。


「かかれぇー!」


 大量の矢が、火が、氷が、雷が俺と周りの傭兵たちに降りかかる。

 周りから悲鳴が聞こえてくる。


 それと同時に剣や槍を携えた男たちが一気呵成に攻めてくる。


 ここまでか。


 諦めに似た感情が心の中に広がっていく。

 だが、俺はそれでも戦った。


 自分の中にある静かな激情に身を任せて、

 こんなことで諦めて、こんなところで終わってたまるか。と


 剣でたたっ切り、槍で突き、

 敵を屠っていく。


 しかし、一人で相手にするには敵の量が多すぎた。


 敵兵を数百人も殺したところで魔力と体力が枯渇し、膝をついたところで、

 敵将と思しき兵に深く斬られた。


 意識が薄れていく中、頭の中に後悔だけが押し寄せてくる。


 あの兄妹を救いたかった。


 そして俺自身と俺の周りにいる人間が

 何物にも縛られることなく、自由に、笑って、楽しく暮らせる。


 そんな未来を俺は作りたかった...


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