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君を失った俺が、再び君に会いに行くだけの物語

作者: あおぞら

 俺、最上和樹には最愛の彼女がいた。


 彼女の名前は水無月はかな。俺の最初で最後の彼女。


 俺達が17歳の時、彼女は交通事故で亡くなってしまった。それから俺は心にぽっかりと穴が空いたまま何もせずに無気力な毎日を過ごしている。


 今日は彼女の死んだ日だ。そして俺の幸せが奪われた日でもある。


 俺は、ベッドから起き上がってはかなの誕生日に彼女の写真を見ながら昔を思い出していた。


 彼女とは中学生の時に知り合い、中学3年の卒業式に俺が告白をして付き合うことに。それからは俺の人生の絶頂だった。


一緒に映画に行ったり、遊園地に行ったり。夏には海に行ったし祭りにも行った。ハロウィンも一緒にやったし、クリスマスも大晦日もはかなと一緒に過ごした。


 同じ高校に通っていたから、一緒に登下校もしていたし、高校内でも美男美女のカップルとして知られていた。


 はかなは、綺麗なストレートヘアーに、二重でくりっとした目。全体的に整った顔立ちをしており、学校でも屈指の美少女だった。


 俺も自慢じゃないが、結構整った顔立ちをしている。まぁ今じゃイケメンとは言えない顔になっているが。


 そんな幸せの絶頂だった俺に、突如絶望が襲いかかってきた。それははかなの誕生日のことだった。


 俺の家で俺の家族と、はかなの家族とでお祝いをして。俺は家族の前でプレゼントを渡すのが恥ずかしかったので、外で渡そうとした。しかしそれがいけなかった。


 家の近くの公園のベンチに座り、はかなに向き合う。


「はかな」

「なぁに?」

「いつも俺の隣にいてくれてありがとう。そしてこれからも居てくれると嬉しい」


 そう言って彼女にネックレスを渡す。すると彼女は一瞬ポカンとした表情になった後、涙を流しながら笑う。


「もうそれってプロポーズと一緒じゃん」

「いや、それは指輪を渡す時に……」

「私と結婚したいと思ってくれてるの?」

「勿論だ」


 俺が即答すると彼女は更に涙を流して俺に抱きついてきた。彼女は涙で湿った瞳で俺を見上げながら、少し頬を染めて恥ずかしげに言う。


「私も……和樹と結婚したいな……」


 そんな彼女の姿が愛おしくて……気付けば彼女の綺麗な唇にキスをしていた。彼女は一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐに目を閉じて受け入れてくれた。


 そのまま彼女を彼女の家に送ろうとするが、


「大丈夫だよ。私は1人でも帰れるわ」

「でも夜道は何があるか分からないだろう?」

「もう! 本当に和樹は心配性ね。大丈夫だから。ね?」

「まぁはかながそこまで言うなら……」


 俺は渋々送るのを諦めた。それが最悪の結果になると知らずに。


 はかなは俺に笑顔で『ばいばい』と手を振ってきたので、俺も振り返す。それを見た彼女は、1人夜の街に消えていった。


 俺も帰るかと公園を出て、帰路に着く。その間にずっとはかなのことを考えていた。


 プレゼントは気に入って貰えただろうか? 明日はネックレスをつけて来てくれるだろうか?


 俺はそんなことを考えながら家に戻る。家にはもう既にはかなの家族はいなかった。どうやら俺達が抜け出した後、すぐに帰ったようだ。


 俺は明日が待ち遠しくなり、早めに寝ることにしたそんな時だった。突如下がうるさくなり、誰かが階段を駆け上がる音が聞こえる。


 俺は何かあったのか? と思いながらベッドから起き上がると、それと同時に母さんが扉を乱暴に開けて言う。


「はかなちゃんが交通事故に遭ったって!」


 俺は一瞬何を言っているのかわからなかった。世界の時がゆっくり進んでいく。『冗談はほどほどにしてくれ』と言いそうになるが、母さんはそんなことをする人じゃない。


 俺は急いで適当な服に着替えて家を飛び出す。母さんによれば、家の近くの病院に運ばれたそうだ。俺は走りながら叫ぶ。


「頼む! 生きていてくれ、はかな!」


 病院には10分くらいで着く。俺は受付の人に焦りながら言う。


「はぁはぁはぁ……俺は、最上和樹と言います……はぁはぁ……水無月はかなさんがここに運ばれたと聞いて……」


 俺が息も絶え絶えに言うと、受付の人がはかなとどんな関係か聞いて来たので、『はかなと将来を誓い合った者です』と言うと、通してくれた。なぜあんな嘘とも捉えれそうなことで通してくれたのか分からないが、その時の俺にそんなことを考える暇はなかった。


 俺は階段を駆け上がって彼女がいる病室に入る。そこには身体中に包帯を巻かれて意識がないはかなと、その家族がいた。


「はかなッッ!!」


 俺は彼女に駆け寄って名前を呼ぶ。しかし返事はない。


 隣にいた医者によると全身骨折しており、意識不明の重体らしい。どうやら俺と別れた後、飲酒運転をしていた車に撥ねられたそうだ。


 俺があの時一緒に帰っていれば……。あの時彼女の言うことを聞かないでついて行っていれば……。


 俺ははかなの包帯だらけの手を握って謝る。


「ごめん……俺があの時君を外に連れ出さなければ……君と一緒に帰っていれば……ごめん……ごめんなさいはかな……」


 俺の視界が涙でぼやける。するとはかなが物凄くか細い声で言う。


「いいよ……私も……あの時和樹と一緒に帰って……いれば……よかったんだから……」


 医者が『声を出してはいけません! 肺には肋骨が刺さっているんですよ!』とはかなに注意する。しかし彼女はなお話し続けた。


「あ……貴方の隣にいるって……約束したのに……ごめんね……」

「謝らないでくれ! はかなは何も悪くない! 悪いのは俺なんだ……俺が君を……」

「ううん……貴方が送ってくれようとしたのに……断ったのは……私……だから……自分を責めないで……?」


 そんなことを言われたって……。俺は自分を許せない。


 はかなは先程よりも更に小さな声で言う。


「私は……水無月はかなは……貴方のことが……大好きです……そんな貴方にそんな顔はして欲しくない……どうか……貴方だけでも……幸せな人生を……」

「やめろ……やめてくれ! そんなことを言わないでくれ! 俺には君しか……いないんだ……もう話さないでくれ……まだ大丈夫だから……」

 

 俺の目から涙が溢れる。もう彼女の顔も見えない。


「和樹……愛してるよ……」


 俺は顔を上げる。それと同時に、はかなに繋がっているベッドサイドモニターから心拍がなくなった時の『ピーピー』と言う音が聞こえる。


 医者や看護師が、彼女に心肺蘇生法を施す。俺はそれを夢のように捉えていた。


 しかし医者達の懸命な救命も虚しく、2度とはかなの心臓が動くことはなかった。医師が鎮痛な表情で言う。


「2022年8月11日23時15分、ご臨終です……」


 はかなが死んだ……? う、嘘だ……。そんなはずない……。


 俺は震える手で、はかなの手を握りながら言う。


「なぁ……嘘だろ? はかなは寝ているだけだよな? なぁ返事をしてくれよ……。また俺に君の笑顔を見せてくれよ……なぁ! お願いだから……もう1度……目を覚ましてくれよ……」


 再び涙が溢れてくる。しかし今度は拭うことはない。


「はかな! はかなああああああああ!! うわあああああああ!!」


 この日俺は最愛の彼女を失った。





***





「うわああ!?」


 俺は飛び起きる。急いで辺りを見渡すとゴミだらけの部屋が目に映った。


「はぁ……またあの夢か……」


 俺は時計を見ると23時14分だった。


「あと1分で彼女が死んでから10年が経つのか……」


 今日は2032年8月11日。彼女が生まれた日で彼女が死んだ日でもある。10年前の今日、彼女を俺は失った。


 俺はベッドに寝転んで天井を見ながら呟く。


「もしも、あの時に戻れたら……もう1度……彼女に……はかなに会いたい……」


 俺は再び目を閉じて眠りについた。





***





「和樹〜起きなさ〜い! もう来ているわよ!」


 俺は母さんの声で目を覚ます。周りを見るといつものゴミだらけの部屋ではなく、綺麗に整頓された部屋だった。


「どう言うことだ……? 何故こんな綺麗になっているんだ……?」


 俺は混乱しながら自分の部屋にある鏡に映る自分を見て更に混乱する。映っていたのは痩せこけてボサボサの髪をした不健康そうな顔ではなく、健康そうなイケメンが写っていた。


 間違いなく昔の俺だ。しかもまだ彼女を失っていない時の……。そこで俺はハッとする。


 もしかしてもう1度彼女に会えるのではないだろうか? そんな期待が俺の心を支配する。


 俺は携帯を見ると、2022年8月11日18時38分と書いてあった。


 まだ、まだ彼女が生きている!


 俺は急いで部屋を出る。そしてコケそうになりながらもなんとか階段を降りると、そこには笑顔のはかながいた。


 俺は無言で彼女に抱きつく。


「ちょっ!? どうしたの和樹!?」


 焦ったはかなの声が聞こえる。俺は夢かを確認するために彼女から離れて自分の頬を殴る。頬がじんじんと痛む。


「痛い……これは夢じゃないのか……?」


 目の前で心配そうに俺を見ているはかなを見て呆然と呟く。


「はかな、はかななのか?」

「どうしたの急に? 私ははかなだけど?」


 その言葉を聞いた途端に涙が溢れてきた。それをみた他のみんなは何故俺が泣いているのか分からずワタワタしている。


 俺は長い間彼女を抱きしめながら泣いた。はかなはそんな俺のことを優しく抱き返してくれた。


「よかった……君にもう1度会えた……そしてこれは夢のようで夢じゃない……。なら俺はもう2度と君を失いたくない……」

「ど、どうしたの和樹?」

「今度こそ……今度こそ俺が君を守るから、どうかもう俺の前から消えないでくれ……」

「何言ってるのか意味がわからないけど、私は和樹から離れないよ?」

「ああ、俺も君からもう2度と離れないと誓うよ。たとえ全てを失ってでも……」


 彼女は困ったように笑う。それを見て俺は長年溜め込んだ感情が爆発した。俺は彼女にネックレスを渡して言う。


「俺はまだお金も碌に稼げない男だけど……1度君を失ってしまった男だけど、そんな男でよかったら、俺と結婚してください」


 今度ははかなが涙を流す。そして涙を流しながらあの頃と同じ綺麗な笑顔を浮かべて言う。


「…………はいっ!」


 俺はその瞬間に彼女を抱きしめてキスをする。10年ぶりの彼女とのキスは今までの荒んだ心を綺麗に洗い流してくれた。


 ふと時計が目に入る。


 2022年8月11日23時15分。


 その時間は俺が人生で1番嫌いな時間だったが、今は人生で1番好きで幸せな時間になった。


 俺は再び彼女を見ながら思う。


 もう2度と君を失わないように俺は全力を尽くそう。もし、彼女が俺の前から消えようとするのなら、


 ————俺は、全て捨ててでもまた君に会いに行くよ————




 〜君を失った俺が、再び君に会いに行くだけの物語〜(了)

 

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