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劇的にヤベー奴

どうでもいいことなんだけど最近ユーチューブでゲーム配信してるから何か物語に対する

質問とかしに来てくれたら答えると思うよ。

ほんの僅か、微かに香る甘い匂いが風に乗って私の鼻をくすぐった。あまり嗅ぎなれない匂いが、知らぬ間に閉じていた私の瞼を優しく持ち上げる。背中が少し痛い、ゴツゴツした物にもたれかかって寝ているようだ。


欠伸をしながらグーッと両手を上に持ち上げて伸びをする。肩甲骨辺りの筋肉が引っ張られるのが心地いい。


「んァ~、良く寝たぁ~・・・」

「お、起きたか、随分ぐっすり眠ってたな、日付変わっちまったぞ」


目を開くなり少し跳ねた黒髪に黒い半そで半ズボンの男が私の顔を覗き込んで来た。

ん?知らない顏じゃない気がする、どこかでみたような・・・?

寝起きでぼーっとした頭で効率悪く記憶を辿ってみる。ていうか日付変わったって?随分しっかり寝てたらしい。


「お前名前は?俺はローグ。よろしくな」


相手は歯を見せてニカっと笑い手を差し伸べてきた。思い出した、透明人間とか言ってた頭ヤベー奴だ。確実に関わってはいけない奴だ。多分、裁判かなんかでニエの判決喰らってショックで現実を受け入れられなくなった哀れな奴だろう。関わるだけ時間の無駄、名乗るだけ名乗ってさっさと帰ろう。


「エフィー」

「エフィー、いい名前だな」

「あっそ」


素っ気ない返事をして立ち上がる。

作り笑いなんて一瞬でわかる・・・相手にしたくない。


意識がハッキリしてきてようやく自分の居る場所に気が付いた。花畑だ、森に囲まれた開けた土地。そこに差し込む朝日の下で様々な種類の花々が一面に咲き乱れている。嗅ぎなれない匂いの正体はどうやら花の香りらしい。その花畑の中心に生えている大きな木にもたれかかって私は寝ていたようだ。


私からしたらあまりに現実離れした美しい景色。でも私の感情は別に揺らぎはしなかった。妙に引っかかる感覚はあるが「ああ、死んだんだ」程度のあっさりした感想しか出てこない。我ながら貧相過ぎる感性に呆れてしまいそう。


「ここ天国?アンタバカね、私なんか庇うから死んじゃって」

「ぶっ!アハハハハハハ!!」

「!?何よ!いきなり笑って気色悪い!!」


ローグがいきなり噴き出して笑い始めるものだからドン引きした。そうか頭ヤベー奴だから死んだことが理解できないらしい。やっぱり早々に立ち去らな――


「天国じゃねーよ。はー、おもしろ。お前ここにたどり着いた途端倒れたんだよ、記憶飛んでるんだな」

「・・・」


ふと兵士に銃で殴られた頬の痛みを思い出した。まだ、うっすらとズキズキ痛む、少しだけど腫れてる。痛覚が私に告げてる、まだ生きているのだと。こいつの言った事は間違ってないと。


ということは魔族に囲まれて生き残ったという事になる。魔族一匹だけでも並の人間じゃ太刀打ちしようがないのにどんだけ運がいいんだか。奇跡なんてレベルじゃない気がする。なにか人外めいた力でもないと無理なような・・・?


・・・ともかく、今考えてる場合じゃない、去らなきゃいけない理由はこの黒いヤツが不愉快というだけじゃない。ローグって名乗ったコイツは服装だけじゃなくて心も真っ黒だからだ。目的まではわからないけど、心を開いてはいけない。ローグの不穏な感情が私にそう告げている。まあ、ニエなんて皆そんなものなのかもしれないけど。


「ようこそ、月光樹の花畑へ!ここ俺が手入れしてんだ、劇的にいい場所だろ?」


ローグが両手を広げて作り笑いをこっちに向けてきた。月光樹って確か退魔の魔力を宿した木だったと思う。魔族が近寄らない珍しい木。


私がもたれかかっていた木が月光樹だったらしい。普通の木と大して変わらないな。さ、行こう。大きな木の影から日光の下へ足早に踏み出したら後ろから焦った声が飛んでくる。


「え、おい!どこ行くんだよ!」

「帰る」


なるべく淡白に冷たくあしらう。取り付く島もないようにしないと付け込まれる。


「道分かるか?また魔族に襲われるぞ?」

「う゛っ・・・」


あったなぁ・・・、取り付く島・・・あったわ。上陸できる場所めっちゃあるじゃん。完全に失念してた、ぐうの音も出ない。一人じゃ帰れない。目の前の真っ黒から逃げることしか考えてなかった。


「俺さ、この場所が家みたいなもんだからお前が襲われてた辺りまでなら案内できるぜ?」


闇雲に歩くのは流石に嫌だ、また魔族に襲われるだろうし、こんな場所来たことな・・・い?あれ?来たこと・・・ないよね??さっき引っかかってた妙な感覚の正体はデジャブ?っていうよりも懐かしさだ。記憶には微塵もないはずなのに・・・?


・・・まあ考えても仕方ない、多分気のせい。ただ道がわからないのは確か、それは確実。


「・・・案内して」


まだ死にたくない、追われて転んだ時、死ぬ覚悟ができたのは、あの瞬間諦めが付いたからであって今死ねって言われても答えはNOだ。約束もある、生きられるのなら生きるのが私の責務。コイツに頼むのは危険な賭けだけど他の手段がないから嫌々案内を頼む。


「おう、劇的にまかせろ!」


間髪入れずローグは待ってましたと言わんばかりに快諾する。コイツの思うつぼになってるのが腹立たしい。


「ところであなたここに住んでるって、魔族はどうしてるの?」

「透明人間って言ったろ?見つかりもしないし俺が触れてるモノも他の奴には見えなくなる」


頭おかしい発言に臆することなく侮蔑の視線を送ってやった。寝言は寝て言えボケが。


「あ、信じてないだろ、現に魔族から逃げきれただろうが」

「確かにそうだけど、そもそも私に見えてるじゃん」

「ただの透明人間じゃないんだよ、う~ん・・・じゃあアレ見ろ」


ローグが指さしたのは森の方。まあ全方位森なんだけど。指さされた先に蜘蛛型の魔族が顔を覗かせている、こちらをじっと見ているようだ。どうやらまた狙われてるらしい。月光樹があって入って来れないから出てくるのを待ってるっぽい。


「見てろよ?劇的だからよ」


ローグはまだ何もしていないのにドヤ顔でこっちを見てきた。眉毛ピクピク動かすな腹立つ、何が劇的だブッ殺すぞこの野郎後頭部から禿げろ。


・・・それは置いといてローグは臆する様子もなく近所の犬にでも近づいていくような軽い足取りで魔族の元まで歩いていく。


「ちょ・・・バカ死ぬよ!」


こっちの心配をよそにローグは魔族の眼前に立つ。つい顔を逸らして目を閉じて次の瞬間響くであろうローグの断末魔に身構えた。


――しかし悲鳴は聞こえず、目を開けてそっと視線を戻しても何も起きていなかった、ローグが魔族の視界を立ち塞いでもなんの反応もない。私が立ち位置をずらすと魔族は視線を私に合わせ続ける、魔族が見ているのは私だけだった。


「うそ・・・」

「おらよ!!」


ローグが木の棒を魔族の頭に叩きつけると魔族はパニックになって森の奥へ逃げていった。ありえない、そう否定しても、もう肯定せざるを得ないことをローグはやってのけた。戻って来てローグが「ほらな?」とまたドヤ顔を披露する。


頭ヤベー奴かと思ってたけど、本当に透明人間らしい。

同時に悪寒が背筋を撫でゾワリと肌を泡立てる――


透明人間、それが持つ悪意に恐怖を覚えた。


「あなた・・・なんなの?なんで私には見えてるの・・・?」

「お、流石に信じたな?まあ詳しい話は追々話すよ、まずお前の家まで送るからさ」


疑問が尽きないが黙って頷いた、今は何を言われても理解が追い付きそうもない気がしたから。いったん冷静になりたかった。ローグが私に手を差し伸べて「触れてるものを透明にする。人でも、物でも。劇的だろ?」ってまたドヤ顔。


劇的とドヤ顔のせいで恐怖心がほんのちょっぴり薄れた。なんか頭悪くて騙すのチョロそうとか思ってしまったのは心の奥に留めておこう。口にしたら帰れなくなる可能性がある。


ローグに手を引かれ森の中を進んでいく、魔族の真横を横切っても足音にさえ気が付く様子はない。音まで消せるらしい。今、間違いなく私も透明人間なのだ。もしかしたら変な場所に案内されてる可能性がある。それなのにありえない体験に少しワクワクしている自分がいる。そこに襲われたらどうしようという心配や恐怖もごちゃ混ぜになって自分でもどんな感情なのか表現に苦しむ。


「それにしてもお前ニエにしちゃ随分いい服着てるな?」


ローグがこっちの顏を見て不思議そうな顔をしている、向こうも私に対して疑問が尽きないのだろう。


「さあ?私優秀らしいよ」

「ふーん・・・なんかお前楽しそうだな?」

「へ?」


言われて気が付いた、私ったら少しにやけてる。それくらいに今の状況が少し楽しい。この感覚は十年以上なかったかもしれない。ラジオ聞いてても面白さとかよりも憧れしか感じなかったと思う。この程度の会話さえも私の感情を愉快に揺さぶる。危険人物に間違いない、なのにもっと話をしていたいと感じている。自分でも意外な程、人に飢えていたらしい。


「俺の正体興味ある?」

「流石に興味ある」


当然即答、頭も十分整理付いた。興味というより疑問に近いかもしれないけど。


「俺は正確には透明人間じゃない、魂だけの存在で普通の奴には見えないんだ」

「え、幽霊?」

「幽霊とも違う、生まれたときから魂だけの存在。分類上は俺も魔族だ」

「魔族・・・あなたが?」


人の姿をした人外の力、それが透明人間の正体、魔族と聞いたらすんなりと納得できた。魔族は普通の生き物ではないから。


「種族名はソウルアローン、ひとりぼっちの魂。誰にも俺は見えやしない」


そういって前を向いたローグの横顔は本当に寂しそうな顔をしていた。何か隠し事はあるけど今の発言には嘘はない。この顏は作り笑いと違う、本物の感情。


「ソウルアローンね・・・なんで私に見えてるの?」

「・・・さあ、よくわかんね。ただ俺が見えるのは世界でお前一人だ。それは間違いない、本能みたいなもんでそれはわかるんだ」

「・・・・・・・そう、なんだ」


ローグはこっち見るとまたニカっと笑う。

――まただ、また、悪意と嘘を感じた。自分の感覚を疑いたくなる。あの寂しさだって彼の本当の感情だったから。寂しいのに、何故嘘をつくの?何故悪意を抱いているの?ローグはどうしたいの?何が目的なの?わからない、わからないよ。疑いたい気持ちと信じたい気持ちがぶつかって、何を言っていいのかも分からなくなってしまった。


これを機に会話は途絶えて無言で数時間森の中で手を引かれていた。途中で私がローグを案内して無事に森から抜けて家までたどり着く。(大分右往左往して遭難しかけたのは内緒)

すっかり日が暮れて夕方だ。歩き疲れた、一日中歩いてたのだから当たり前なんだけど。最後の気力を振り絞ってローグに作り笑いを向けて「ありがとう」と言った。


不安があった、コイツに家を知られていいのかと。でも命の恩人でもある、お礼ぐらいは言わないと。そしたら妙な間が空いてから「おう」と答える。


「・・・今、コイツお礼言えるんだって思ったでしょ?」

「え!?あ~・・・まあそう」

「フフ、そこ認めるんだ」


必死に取り繕ってごまかそうとするかと思ったのにまさかの否定しないとは。思わず笑ってしまった。ローグはバツが悪そうに顏歪めて「じゃあな」と逃げるように森の方へ戻っていった。


一人になりどっと疲れが押し寄せる、とんでもない目に遭った。そういえばあそこで目が覚めてから一日体調が良かった。あの月光樹の花畑はなんとなく不思議な感覚を覚えた、どこか懐かしいような?お母さんと似た――


「あー、止め止め今日はもう寝る」


考えるのもダルい、というより思い出したくない。昔の記憶は今を辛くするばかりだから。改めて茜色の空を見つめる。いつからだろう?夕日を綺麗だと思わなくなったのは。子供の頃、心に染み込んで来た夕日の光景が浮かぶ。その時一緒に窓の外を眺めてくれたお母さんの横顔。私の頭を撫でていったお父さん。


「同じ色なのに・・・何が違うのかな・・・」


・・・あーあ、思い出しちゃったじゃん。

感傷に浸りながら家に入りベッドに倒れ込んだ。体がベッドに溶けてしまいそうな感覚だ、埃臭いベッドをこうも心地よく感じる日がこようとは。一瞬で眠りに落ちることが出来そうだと思っている内に外から軍用車の走る音が響いてきた。


眠気もローグと居た余韻も全部一瞬で消し飛びベッドから飛び起きて咄嗟に玄関に鍵をかける。ローグのせいで完全に忘れていた。石なんて集めてない。考えがまとまらない内に車のエンジンが止まった。ガチャッと車のドアが開く音とバタンと閉じる音が聞こえる。


もう、どうしようもない。隠れる場所も、逃げる場所もない。


「や・・・やだ・・・」


掛け布団に包まりベッドの角で膝を抱え、そこに頭をうずめた。それ以外にできる事が無かった。一思いに殺してくれる魔族とは違う、兵士たちは殺さないようにいたぶってひたすらに楽しむ。

昨日銃で殴られた程度で済んだのは向こうが相当機嫌が良かったからに過ぎない。


ドアが荒々しくノックされドアノブがガチャガチャと声を上げる。


「おい!てめェ鍵なんか掛けやがってどういうつもりだ!!開けろゴミカスが!!」

「お、お願い・・・来ないで・・・・!!」


喉からジワリと滲み出るようなか細い声を銃声が飲み込み、同時にドアノブが吹き飛んだ。

人物紹介 ルド

ビリーブ・ネクスト・デイの息子。つまり王子。

父親に似て正義感が強い。剣の実力は父に遠く及ばないのを気にしている。

ただルドは純粋な剣術より銃剣ソウルイーターの扱いに長けている。

扱いが難しい武器で軍でもっとも使いこなせているのは努力の賜物。

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