表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/31

戴剣式・捨て損ねた命

99.8%の皆さま初めまして!嘘つきガチ勢のχダニャンと申します!!

残りの皆さま!散々お待たせして申し訳ございませんでした!!生きて詫びます!!!!!!

今日から30話まで毎日投稿していきますのでよろしくお願いいたします!!

ちなみにまだ三点リーダーアレルギーは治っていません!生きて詫びます!!


※χダニャンの書く物語は全て同じ星の出来事で他の物語と繋がりがあります。知らなくも問題ないと思いますのでそのまま読んでね★ そういうの嫌いな人に対して、生きて詫びます!!!!!!!!!!!!!!!!


ではではχダニャンのお送りする渾身(当社比)の物語をお楽しみしていただけたら幸いでっせ!!

プロローグ 遥か過去と・一年後の未来


????年前


『君が・・・みんなを・・・愛せるように・・・みんなが君を・・・愛せるように・・・私の手を・・・君へ伸ばす・・・』

『よせ、もう喋るな』

『フフ、また私の勝ちだね・・・』

『・・・』

『ねぇ、一緒に歌って、約束だよ・・・メ・・・』


文字にすればあと一文字、しかしその一文字が発せられることはついになかった。亡骸は天から落ちてゆき、地上スレスレで光となり消えていった。


『・・・クソ、下手だって知ってんだろうが・・・・・・練習、しなきゃいけねぇだろが・・・わかったよ、おやすみ。ウィン』


・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


―絶対防壁都市ウィンドラ:内壁中央部・白竜城―


地上から1000m伸びた城。それは、城というより山と形容すべきで、山というより不落の要塞と形容するべきだった。この城の天辺は闘技場になっていてその闘技場を跨ぐように気の遠くなるほど大きい錆びた鐘楼が鎮座している。この国のいたる所から見ることができるこの国のシンボル、滅びの鐘楼だ。


「ンッフ、実にいい眺めだと思わないかね?ビリーブ国王」


口を開いたのは鋭い眼光のM字ハゲの老人だ。白く美しい竜が眼下の街でビル群を積木のように倒すさまを見ながら愉悦に浸る。問いかけた相手は白髪が混じり髪の色がグレーになった初老の男性だった。しかし、問われた男は感情が無いかのように微動だにしなかった。


「父さん!」


肩で息をしながら闘技場控室から飛び出してきたのは迷彩柄の軍服の男、齢にして17歳。

銃と剣が一体となった武器、ソウルイーターを構え険しい表情をその顔に張り付けている。


「さあ、ルド君。第31回目の戴剣式を始めようじゃないか。ンッフフフ」


鋭い目つきのM字禿の老人風の男が笑いかけると微動だにしなかったビリーブ国王が腰にある黄金の剣を抜き軍服の少年の前に立ちはだかる。


一方時を同じくして城内を駆け上がっている黒服、黒髪の少年が居た。

魂だけの存在ローグである。


彼は以前この城に忍び込んだ時に放送室を見つけた、散々迷ってぐるぐる同じこと通ったもんだからよく道を覚えていたのだ。思い付きだけど、こんなことして意味あるのかわからない。しかし、闘技場で戦う二人を映すモニターを見て俺は何もせず通り過ぎるなんてできなかった。


どれが闘技場のスピーカーのスイッチかわからないし探している時間も惜しい。目立つところについている全国一斉放送のスイッチをためらいなく入れた。


彼はマイクに向けて口ずさんだ。彼は掛けたのだ、己の特異性とこの歌に込められたものに。


「君が みんなを 愛せるように みんなが君を 愛せるように 私の手を 君へ伸ばす

伸ばした手は 届かなくても・・・・・・」


スピーカーはガガガっと不快音を街中にまき散らした――


・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~


第一話 戴剣式・捨て損ねた命


―絶対防壁都市ウィンドラ:内壁中央部・白竜城―


『さあ皆さまお待たせしました!!年に一度の祭典、戴剣たいけん式の日がやってまいりました!!ビリーブ国王杯記念すべき第30回!!場所は当然白竜城、地上1000メートル!鐘楼闘技場よりお送りいたしております!!司会は私、バーナーが務めさせて頂きます!イエーイ!!』


闘技場から離れた実況席でマイクを握りしめた迷彩柄の軍服の進行役がやかましい声を観客席に木霊こだまさせながらテレビカメラに向かってばっちりウィンクした。夕焼けのような逆立った頭髪が風にゆられている。


観客席から拍手を送る人々、テレビやラジオの前でヤジを飛ばす人々。いずれにせよ国中の民が期待に胸を膨らませている。その中で間違いなく少数派、戴剣式を望まぬ者が居た。薄暗い待機室で司会の声に顔をしかめ耳を塞いでいる。


羽織る赤いマントに所々金の刺繍がなされている。その派手なマントの下には似つかわしくない紺のスーツを纏った初老の男。彼が戴剣式を望まぬ者。


「まったく、マイクの音量どうにかならんのか・・・」


頭を抱えてボソリと呟く、嫌な緊張感はいつまでも慣れない、だから余計に司会の声が煩わしい。たぶん寝ようとしてるときに気になる秒針の音みたいなもんだろう。ソファーの背もたれに体重を預け吐息を漏らす。そうしたところで何が変わる訳でもないと分かっている、しかしそうしてしまうのだ。


しかし、この嫌悪混じりの緊張は慣れてはいけないのだ。と念仏のように繰り返す。慣れたら最後自分の中の信念が歪んで消えてしまいそうな気がして年甲斐もなく怖気付いているのだ。信念を失うのは怖い。同等にこれ以上己の手が汚れることもまた、怖くてたまらないのだが。


「父上、大丈夫ですか」


後ろから迷彩柄の軍服に身を包んだ黒髪の少年が肩に手を掛けてきた。息子のルドだ、わざわざ「父上」なんて普段はしない呼び方をしてきやがった。


「よしてくれ、父上なんて呼ばれるのはこそばゆい・・・ていうか気持ちワルい」


苦笑いを浮かべながら白髪が交じってすっかりグレーになった髪を豪快にガシガシかき乱す。


「あはは、緊張させてやろうかなって」

「緊張してるのはお前もだろ?後でたっぷりしごいてやるからな、ルド」


ルドの目が一瞬だけ憂いの色に染まったのを見逃さなかった。平気そうに振る舞っているが儂には分かる。そう、嫌な緊張はお互いだ。戦うのはルドじゃないが儂と同じ物を背負っているのだ。不安や心配は絶えないだろうし、緊張もするだろう。・・・本来、心優しくちょっと臆病な子だ。


「・・・負けないでよ」

「おう!まかせとけ!!」


歯をむき出しにして親指を上へ突き上げてやる、するとルドもぎこちなく笑ってみせた。背中を押されるにはそれで充分だ、同じ物を背負っている人がいると分かるだけで重かった気持ちが幾分か楽になる。気が楽になったというよりも覚悟が決まったと言った方が正しいのかもしれないが。


ルドにはどれだけ心を救われてきたことか、一人だったらとっくに潰れていたことだろう。

感謝してもしきれない。やはり儂には出来過ぎた息子だ、流石は――


『では入場して頂きましょう!今年はいよいよ戴剣が成就されるのでしょうか!?まず今年の命知らずな挑戦者の登場だァッ!!カモォン、レーダリア!!』


大いに盛り上がる会場の声と裏腹に儂とルドは祈るように胸に手を当て目を閉じた――


闘技場の対岸、その控室から司会に促されてレーダリアという若者は闘技場に出ると大きな歓声に出迎えられた。風に黒の長髪がなびき、わずかに陰気な印象の顔を覗かせる。城壁と同じ白い石畳でできた円柱状の闘技場へ足を踏み入れると渡って来た足場が機械音と共に待機室側へ収納された。


闘技場に柵などなく縁から落ちれば1000メートル下まで真っ逆さま。いや、たぶんどっかしらの城壁には引っかかるだろう。見るも無残な死体になることに変わりはないが。


下を覗き込むとつい落ちた自分を想像してしまい身震いしてしまう。気を紛らわす為に視線を上へ逃がす。闘技場をまたぐようにアーチが掛かっていて巨大な錆びた鐘がぶら下がっている。街のどこからでも見えるようなこの国の象徴『滅びの鐘楼』錆びついた古い鐘だというのにそのあまりの大きさに不思議と雄大とさえ感じてしまう程だった。比べてちっぽけな自分に無力さを覚える。上も下も視線を逃がす場がない、プレッシャーに圧殺されそうだ。


「足場なんか引っ込めなくても俺は逃げやしねぇぞオラァ!!」


これではマズイと気丈に振る舞った、誰よりもまず自分を欺く為に。きっと大丈夫だ、保険だって用意してきた。負けるものか。


レーダリアの空っぽの魂の叫びに闘技場を囲むギャラリー席はもう一度大きく沸いた。剣を振り回すパフォーマンスで必死に観客にアピールする、矮小な自分を誤魔化すために必死に自分の見え方を取り繕う。


『いいねぇ!今年の挑戦者は実に鮮度がいい!!コレはもしかしてもしかするかぁ!?さあ熱気冷めぬ内に最強の剣士に入場して頂きましょう!!言わずもがな戴剣式防衛29年!!剣聖の名を欲しいがままにする我らが王!さあ!皆の者!!彼の名を叫べ!!せーの!!』

「『ビリーブ・ネクスト・デイ国王!!!』」


観客が、国中の人が王の名を呼ぶ。控室に流れ込むは会場の熱狂。その人々の期待に相応しくない態度で王は嫌々重い腰を上げた。


「なんか、また白髪増えたね、老けた老けた」


あえてどうでもいい話をしながらルドが背中を叩いてケラケラ笑う。彼なりに緊張を和らげる為の手段はいつもどこか手荒いというか雑というか・・・。しかし、その雑な手段は儂によく効く。ルドの目論見通り緊張を更に幾分か和らげた。だが口が悪い事には変わらないから――


「うるせェ、今言うなよ!絶対許さんからな!しばき倒してやっからな!!」

「あはは、絶好調だね」

「まったく、誰に似たんだか・・・」

「一人しかいないじゃないか」

「ヌハハ!確かにな!」


数秒後笑い終えて表情を引き締める。深呼吸して、腰に携えた黄金に輝く剣に手を掛けた。スラリと穏やかな音の波と共に抜き放たれた剣は細部まで美しい細工が施されている。思わず見とれてしまう程美しい剣だった。


「ルド、いつかお前に渡る剣だ。よく目に焼き付けておけ」


凛とした声で我が子に諭した。ルドを振り返ることなく真っ直ぐ闘技場へ、嫌な光が差し込む方へ歩みを進めていく。


・・・また、自分の手が血に染まる時間がやって来た。

覚悟を決めて罪に塗れた一歩を踏み出した。


・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~


―絶対防壁都市ウィンドラ外壁D地区 エフィーの家―


『さあ!皆の者!!彼の名を叫べ!!せーの!!』

『『ビリーブ・ネク―――


やかましいラジオの電源を落とした。どうやらラジオを付けたまま寝落ちしていたらしい。正午の日差しが窓からベッドに差し込んでいる。寝たのは深夜だったわけでもないのに半日が睡眠に取られてしまうとは。


「戴剣式で起こされるとか最悪・・・」


悪態を付きながら私は両手で自分の視界を覆った。ビリーブ国王関連の事を聞くといつも機嫌が悪くなる、要するに嫌いなのだ。戴剣式でさっさと殺されればいいのに、と毎年思う程には大嫌いだ。コイツのせいで私はニエなんていうふざけた身分に落とされた、恨んで当然だ。・・・殺したいほど憎んでる。


「最近体が重いな・・・」


布団をめくり気怠い体をどうにか立たせるとクローゼットからやたらと袖が長いブラウンのセーターを取り出した。


身体が鉛にでもなった気分だ、着替えるだけで怠くてしかたがない。鏡で自分の顏を見ると目にはクマが出来ていた、体調が優れないせいでここの所ずっと眠りが浅い。だから浅い眠りと覚醒を繰り返してダラダラと半日もベッドの上にいたのだろう。


毛先がクリンクリンと跳ねた白い長髪はくせ毛でありブラシを通したところで直りはしないので何もしない。そもそも身だしなみを気にするような身分じゃないから直す気にもならないし。


体を引きずるように丸テーブルまで移動し、ペットボトルに半分ほど残っている水でカプセルタイプの薬錠を1錠流し込む。


「これ・・・なんの薬なんだろ」


丁度薬を飲んだタイミングで玄関のドアが荒くガンガンノックされる。


ああ、そうだ、今日は来る日だった。戴剣式で起こされるし体調は悪くてイライラしてるのに、踏んだり蹴ったりでうんざりする。服だって今着替えたばかりなのに・・・。


ノックに返事をする前に勝手に玄関の扉が開かれた。返事を待つ気がないなら最初からノックなどしなければいいのに。どいつもこいつも皆嫌いだ。


「入るぞ」


迷彩柄の軍服の男が3人、銃と剣が一体になった武器を引っ提げて部屋の中にズカズカ入ってくる。


「はいはい・・・さっさと済ませて」


ため息をつきながら着たばかりの服も全部ベッド上へ雑に放り投げて一糸まとわぬ白い肌を兵士の前へ晒した。

兵士たちは手慣れた様子でエフィーの全身をくまなく観察する。


「ちょっと、触らないで、胸の下でしょ?自分で上げるわ」

「フム、手首に鱗のような痣が出来ているな、いつからだ?」

「昨日から・・・」

「そうか」


兵士の問いに目を合わせないで答える。羞恥心とかそんな感情じゃない、ただ目の前の王の犬が不愉快なだけ。控えめに言って国王もろとも惨たらしく苦しんで死ねクズ共。


「採血だ、手を出せ」

「・・・薬飲んだばっかだけど?」

「チっ・・・何してやがったんだグズめ」

「先に石数えてたら?ベッドの横にあるでしょ」


部屋の隅にまとめてある白い袋を指さすと兵士は「クソが、仕方ねぇ・・・」と文句を零して仏頂面で袋の中の黒いひし形の結晶を数え始めた。さっさとこの時間が終わればいいのに。


「相変わらず優秀だな、魔石集めだけは。他のニエの10倍以上は集めている」


石を数え終えた兵士が珍しく褒めてくる、しかし中身が無い。こいつらの心に感謝とか人を褒めるような

感情を感じた事はただの一度だってない。


「あっそ」

「明日臨時でもう一度回収に来る、同じ量用意しておけ」

「はぁ!?何言ってんの無理よそん――


顏に走った衝撃に言葉を止めざるを得なかった。顔面を銃床で殴られれば誰だろうが黙るしかない。鈍い痛みがジンジンといつまでも後に引いて収まらない。


「口答えが許される身分ではないよな?貴様等ニエは道端の犬の糞より価値が劣る、そうだよなぁ!?」

「―ッ!!」


前髪を握るように掴まれて、上に引っ張り上げられて無理やり視線を合わせられる。皮膚も一緒に引っ張られるから殴られたのと別の種類の痛みに苛まれる。


「そうだよなァ!?オイッ!!」


目の間で兵士の怒号が飛ぶ、怖い、恐怖に身が竦む、逆らえない相手に至近距離から大きい声で脅されるのは精神的にかなりくるものがある。


「ッ・・は・・・はい・・・・・」

「最初っからそう言ってりゃいいんだよ、ぺッ!!」

「――ッ!」


顏に痰を吐きつけられた直後私の頭を床に投げ捨てるように叩きつけた。あまりにもな仕打ちと痛みに声も出ない。他の兵士はその様子をみて、ただただ私の醜態を嘲笑うだけ。


「俺達も鬼じゃない、回収に来るのは明日の夕方にしてやる、慈悲深ぁ~い王に感謝しろ?カスが」

「・・・はい」


殴られた衝撃で口の中が切れた、血が口からボタボタ床に零れる。歯は無事みたい、だからまだマシ。

ジンジン痛みが広がっていくからつい頬を、殴られた部分を手でさすった。反対の手の甲で顔の痰を拭った。酷く臭う。


「ハハ、丁度いいな、今日は注射器で血を抜かなくてもいい」


笑いながら床にできた血だまりから血液を採取して兵士たちは引き上げていった。地獄のような時間がようやく終わった。


・・・違う、残魂を明日までに集めるのだ、今から別の地獄が始るんだ。フラフラと立ち上がると裸のままベッドに腰掛ける、服を着る気力すら沸かない。少し、ほんの少しだけ、視界が涙のせいでふやけてしまう。


「18歳、一応年ごろの女の子なのにな・・・石集めか、早く済ませなきゃ」


泣いたところで何にもならない、時間の無駄だって知ってる。だからさっさとやることを終わらせたい。

と言っても袋一杯の残魂は一週間かけて集めたものだ。それを一日なんて不可能に決まってる。体調に問題なければなんてことはない量なのに――


母の遺した黒のカチューシャを付けて、ベッドに投げ出した衣服を身に纏う。気力を無くした所なのにもう出支度だ。血が止まるのを待ってからサンタの持っていそうな色の空袋と倦怠感を引きずって外に出ると嫌味ったらしい快晴が出迎える。


「・・・曇りがよかったな」


温かくなり始めたこの時期に不相応なセーターを着ている。天気のせいで尚更時期不相応な格好だ、それでも袖の中に自分の手を引っ込めた。所謂萌袖だがファッションではなくこの方が仕事が楽だから。その為にわざわざ袖の長いセーターを特注してる。


家の周りは草原、それを囲むように森林が広がっている、清々しい程周りには何もない。強いて言えば軍の車が通る雑に整備された車道がある程度。その森林のさらに奥には街への侵入者を拒むための巨大な防壁がうっすらと見えている。その壁は反対方向にも見える。あっちは国から人が逃げないようにするための壁だ。


・・・この国はまるで牢獄。私に、ニエという身分に自由は無い。それでも生きる、生きなくてはいけない。私をせいに縛り付ける約束があるから。


「じゃあ、お父さん、お母さん、音痴さんいってくるね」


家の箪笥の上に飾ってある写真に向かって言葉をかけて草木をかき分け森へと足を踏み入れた。そしてしばらくしてから――


「あった」


背の高い樹木に日差しが遮られた薄暗い森の中、エフィーはしゃがみ込むと親指大の黒いひし形の結晶を拾い上げる。研磨された黒曜石のようなこの物体が魔石だ。

素手で触ると精神が蝕まれて不安定になる、酷いと錯乱したり発狂したりする。だから袖の長いセーターに手を引っ込めて集めている。手袋を着ければそれでいいのだが手袋より手間が少ない。それだけの単純な理由。まあ、枝には引っ掻けやすいから好みの問題と言った方がいいかも・・・。

それはさておき


「少ないな・・・」


この辺りの残魂は拾い尽くしてしまったようだ。30分探してようやく一個。効率が悪すぎる、やはりもっと奥に行かないと集められそうもない。倦怠感が強いから行きたくないけど明日の夕方までに集めないといけない。恐らく、臨時の魔石回収は戴剣式が原因。祭りだから普段よりエネルギーと言うか国の魔力の消耗が多いから。本当に戴剣式に関わる連中は全員死ねばいいのに。


覚悟を決めて奥に歩みを進める、深い闇に自ら足を踏み込んでいくような感覚。

慣れていることの筈なのに今日は妙に胸がザワついている。


ガサガサと奥の茂みが音を立てている。木々の上や草木の隙間、あらゆる場所から視線や気配を感じる。

いつも通り警戒して遠巻きから様子を伺っている。気配の正体は魔族と呼ばれる尋常ならざる生物、つまりは化け物だ。


化け物たちはなぜか私を襲ってくることはない、他の人が無惨に殺されているのは幾度も目撃してきたけれど私はいつも無事だった。理由はわからないけどそのおかげで私はニエの中でも最も成績がいいらしい。ニエの最長生存記録も持っているらしいけど、くだらなさ過ぎてどうでもいい。


ニエとはつまりは生贄のこと。この国の奴隷より下の身分、この国に奴隷制度はないし私に限っては奴隷よりまともな生活ができているようだけど。


森の奥地に足を踏み入れればやっぱり大量に残魂が落ちていた。無心に集めていると不調以外の異変に気が付く。


「近い?」


思わずボソリと口を突いて出た。魔族達の気配がかなり接近してきていたからだ。嫌な予感と魔族に殺された人達の惨状と断末魔が脳裏に浮かび感情より先に体が反応してブルリと震える。体の震えを追うように後から恐怖が心の底からジワーっと体の芯から心へ広がっていく。余っている袖を拳の中に握りこむ。

本能が発した危険信号に素直に従って気配の少ない方角へ駆け出した。それを待っていたかのように複数の気配たちが一斉に動き始める。もう遠巻きに出方を伺っている動きではない、正しく獲物を追う狩りの動き。


なんで!?


心の中がこの単語で埋め尽くされる。無我夢中になって走る。走る。走る――

でもどれだけ必死に走ろうと不調の体は追手を引き離すような速度は出せない。


必死の逃走も虚しく、あっさりと魔族たちが姿を視認できるほどの距離まで接近された。数も地の理も全ては魔族の土俵の上、はっきり言ってもう詰みの状態。


死に物狂いに走る最中で何かに足を取られ、顔が地面に激突する。足元にも注意して走っていたのにも関わらず派手に転倒した。


顔を上げると目の前に蜘蛛の姿をした人と同等の大きさの魔族が牙をむき出しにしている。もう終わりを告げられたようなもの。頭から食い殺される、私はもう死んだ。真っ先に浮かんできた言葉は自分でも意外だった。


ごめんなさい


魔族に対して思ったのではない。親との約束を守れない事に対してだった。『生きろ』という父の遺言、そこでやっと気が付いた。私は生きる事に執着していなかったんだって。だからこの状態で父に対して謝るほど冷静で。そう、本当はきっともっと昔に死んでいたかった。でも約束のせいで死ねなかった。


やっと楽になれるんだ、最後の痛み何てきっと一瞬。私をニエにした国王を恨む必要もこれで無くなる。目を閉じて最後の瞬間を受け入れる――


「オラァ!!」


突然の男の声にビックリして目を開けると木の棒を持った人が、蜘蛛型の魔族をぶっ飛ばす瞬間を目撃した。間髪入れずその人は私の方へ視線を向ける。少し跳ねた黒髪に黒い半そで半ズボンどっちも同じデザインの白いラインが入っている。真っ黒な格好をした同い年位の男の子――


「逃げるぞ!」

「え?わ!!」


男の子が私の手を引いて走り出した。どうやら私を助けようとしているらしい。頭が悪すぎる、森の奥で魔族に囲まれて誰かを庇いながら逃げ切れるわけがない。


「アンタ馬鹿なの!?逃げ切れるわけないじゃない!!」

「大丈夫!俺、透明人間だから!!」

「はぁ!?」


私はこの時思いもしなかった、この出会いが生涯で最高の出会いになることを。

そして生涯で最も悲しく残酷な別れ方をすることを。

見切り発車での評価感想ブクマをお待ちしております。(強欲)

偶然恋愛ものが流行ってるらしくてラッキーかもしれないけど多分乗れないこのビックウぇーブに!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ