第1話 大花見祭り①
お待たせ致しましたー
花より団子、とは誰が言い始めたのだろうか。
言葉の由来は特に覚えていないが……まだぴちぴちの二十歳である眞島怜も、女だがもれなくそのうちのひとりだった。
「やあやあ! めちゃくちゃ出てるねぇ!!」
何が、と言われれば。道を覆い尽くすほどの薄ピンク色の花弁だけではない。
並木道に並びまくっている、色とりどりの設置されている屋台の方だ。その数は、怜が目にしている場所だけでも数えられないほどだ。
食べ物大好きな怜がはしゃがずにいられるわけにはいかない。
「……走ると危ないぜよ?」
飛び出しかねない怜の肩を、彼氏である小森裕司が軽く叩いた。手綱を握っているわけではないだろうが、いい大人になってもまだ子供ぽさが抜けない怜を落ち着かせられるのは……裕司しかいないだろう。
「しかしだねぇ、こもやん。夏祭りと同じかそれ以上だよ!?」
「焦るな、怜やん。夏同様に軍資金はそこそこ用意しているぜよ」
「さっすが、こもやん!」
とは言え、怜の心情を理解していないわけでもない。料理人を目指す彼でも、そこは理解しているのでカバンにある財布をぽんぽんと軽く叩いていた。
怜も稼ぐに稼いだバイト代の一部を財布に入れてあるので、今日は大いに楽しめる。今日のお花見デート、もとい食べ道楽企画はふたりのバイト先がきっかけだった。
「眞島さーん」
新学期の始め。
新人バイトのひとりである佐藤優樹菜が、怜がロッカールームに行く時にちょうど一緒になったのだ。
「おはよう、ゆきちゃん」
「おはようございます! あの、これ知っていましたか?」
「んー?」
優樹菜が持っていたチラシのようなものには、『河原大花見祭り』とタイトルが書かれていた。桜の写真も美しいが、怜が釘付けになったのは……下の参加屋台についてだ。
「んふふ! 眞島さんならそこに目がいくと思ってました!!」
「ひゃ……二百!?」
「今年の規模だと、だいたいそのくらいらしいですよ? ほら、お城のお掘の側に大きな河沿いがあるじゃないですか? あそことお掘前を使うそうです」
「ゆ、ゆきちゃん!! このチラシ……写メ撮っていい!?」
「あ。あげますよ? 配る予定で何枚かもらってきたので」
「君は神か!?」
「いえいえ。主催のひとりが親戚なので……少しでも動員数増やすようにお願いされたんです」
「こもやんと絶対行く!!」
「ありがとうございます」
と言う経緯があり、裕司と花見祭り当日にくり出しにきたわけである。
「……花も絶景……と言いたいけど、屋台すごいなあ?」
裕司が言うように、桜の花も見事な咲き方をしているが……それ以上に屋台が多過ぎてあまり花見を楽しめない。
ここに来ている時点で、今更なところはあるが。
次回はまた明日〜




