第4話『春のホテル縁日』②
お待たせ致しましたー
焼きとうもろこしを堪能した後は、山越の焼きそばだったり、シェフらが手がけたたこ焼きだったりと。縁日らしい食べ物を、怜は優樹菜もだが苺鈴らと堪能していた。
途中、裕司が交代になったので……苺鈴とかが気づかって、裕司とふたりで回ることにした。と言っても、大手ではないビジネスホテルの宴会場だから、さほど広い部屋ではない。
裕司の居たとうもろこしの屋台から、射的もあまり離れていなかった。
「へー? 発泡スチロールとかの組み立てだけど……銃は普通のよりもやりやすそう」
銃を構えた裕司は、仕事着の少し汚れたコックスーツだがそれでも格好良く、怜には見えたのだ。
「こもやん、こもやん!」
「なんだい、怜やん?」
「あのホットケーキミックス取ってほしい!!」
射的の景品も、ほぼほぼフリーマーケット状態。参加者がひとつずつ持ち寄ったため……かなり雑な物たちばかりだ。それでも、怜の欲しいものはちゃんと残っていた。
「ホットケーキミックス? でいいのかい??」
「ちょうど、朝ごはんとかの練習用がなくなったのだよ。大きいし……どうかな?」
「やってみる」
やる気を出した裕司は銃を構えて挑んでみた。
少し重量のあるホットケーキミックスの箱だったが、三回目できちんと倒れた。
店主のいない遊戯関係は、セルフで景品獲得と片付けをすれば何度でも挑戦していいので……次は怜だったが、十回やっても成果がないので諦めた。
「これで、次は何作ろうかなあ〜?」
怜は裕司が獲得してくれたホットケーキミックスの箱を眺めながら、少しずつ始めた自炊のレパートリーをどう増やそうか悩んだ。
「ホットケーキ以外でも……パウンドケーキとか、パンにドーナツも」
「!? ホットケーキミックスでパン作れるの??」
「構成しているものがだいたい似てるぜよ」
「ほうほう!! ちょっとやってみる!」
「一緒に作る?」
「それは大歓迎!」
裕司の方が、少しずつ時間が取れなくなるし……バイト日数も減ってくるので、一緒にいられるのはとても嬉しい。もちろん、自分達の部屋で会えなくもないが……どうしても、就活や卒業試験の邪魔をしたくないと遠慮がちになってしまう。
彼女の延長線をいく関係への約束をしても……そこはどうしたって、ぶつかる壁だ。怜とて、それはあるのだから。
「おーい、眞島ちゃーん。小森くーん!」
端に用意されていたベンチに座っていると、はしゃぎまわっていた紫藤に呼ばれたので行ってみれば。
「「……なんで、春にスイカが」」
品種改良などのお陰で、なんとなく取り寄せられるのはわかるが。わざわざ、今回の縁日風イベントで持ち寄るとは。
総支配人の都築がやる気に満ち溢れた表情で、目隠ししながらスタンバイしていた。
「皆に美味しいスイカ食べさせたくて!!」
「眞島ちゃん達は指示よろしく〜」
「りょ!」
「……わかりました」
ともあれ、拒否する理由などはどこにもない。
今は今で、騒げるうちに騒ぐ。
苦難の前に、一旦何もかも忘れて楽しむのも大切だと思うことにした。
ちなみに、スイカは九州からネットで取り寄せたそうだ。
次回はまた明日〜




