第1話 今度の提案は
お待たせ致しましたー
それは……バイトの仕事が始まる前に、上司の葛木から言われたのだった。
「会場を使って……縁日ですか?」
大学も三年生になった眞島怜は、タイムカードを押した後に……葛木から詳細のチラシを渡されたのだ。
「そ。去年の夏にやったような、ホテルだけの夏休み的な? あれを春だけどやりたいって、総支配人が言い出したんだってさ」
「総支配人……」
仕事をする時は、上品かつカッコよくきめている……役職通りのダンディな男性ではあるが。仕事でなければ、紫藤くらいにお茶目な一面を見せる壮年でもある。去年の夏での提案自体も、紫藤と一緒に会社へ提案したとか何とか。
「ま。金魚掬いとか……生き物を扱うのは無理だけど。ほとんど飲み食いする場ね? でも、射的とか、輪投げとか……あと、紐くじとか?」
「……本格的に遊ぶんですか?」
「おはよーございマス」
話し合っていると、徐々に正社員になりつつある中国ハーフの王苺鈴がやってきた。今日は夕方からのシフトだったのか、今来たようだ。
「おはよー、王ちゃん!! ねーねー、お祭りをここでやるんだって!」
「……おまつり、デスか?」
「王ちゃん、日本の夏祭りとか行ったことある? ああ言うのをここでやるかもだって」
チラシを見せてやれば……字を読むのもだいぶ慣れてきたので、すぐに顔を輝かせたのだった。
「春に……おまつりデスか?」
「中国は詳しくないけど……日本だと何かにかこつけてやりたがるのよ? 今回はしどたん以上に、総支配人が楽しみにして提案したぽい」
「ソーシハイニン……」
苺鈴も面識がないわけではないので、どんな風に提案したのか想像しているのだろう。
とりあえず、春祭りをホテルでやることは決定事項になったため……その日の夕飯の時間に、怜は裕司にまかないを頼んだ時にチラシを見せた。
「おー? 源さんが言ってたぜよ?」
今日頼んだメニューは、全然春らしくないがカツカレーだった。
「やーやー、めちゃくちゃ楽しくなる気がするねぇ?」
「源さんがさ? 俺に焼きとうもろこしやれって」
「もろこしを?」
「作り立ての方が美味いから」
「源さんわかってるぅ!」
「だろぉ!!」
出入り口側の喫煙コーナーから、山越の声が上がった。今日も相変わらず元気のようだ。
「ほかのメニューは夏みたいに、シェフ達と合同かい?」
「多分ねー? ビュッフェは作るかどうか……もしくは、棚卸し次第で用意するか」
「ありそう……在庫処分とかで」
飲食店ではないが、業務用の食材とて賞味期限はきちんとあるのだから。
次回はまた明日〜




