第1話 ありがた迷惑な?
お待たせ致しましたー
少し前までさかのぼる。
怜や裕司が期末考査などで、苦しむ時期の少し前。
怜達の勤務する、市内のビジネスホテルのとある一角。怜が所属するバイト先の事務所で起きたことだ。
「……圧巻ですな」
怜がそう言ってしまうくらい、事務所のデスクにあるものに驚いたのだ。
「うん、すごいでしょ?」
上司の葛木も呆れたような物言いになっていた。その理由は、デスクの上にある緑色の塊達……すべて、カボチャだった。
「余りだからって、スタッフで分けてください言われてもさあ?」
同じく、上司の紫藤も苦笑いして、缶コーヒーを煽っていた。制服のブラウスにこぼさないかちょっと気になったが、大丈夫のようなので怜はデスクの上に乗っているカボチャをひとつ手に取る。
スーパーなどでもなくはないが、ずっしりと重いそれは怜の両手にすっぽりとはまる大きさ。
ハロウィンパーティーの仕事が今日あり、カボチャをディスプレイ用にとたくさん発注があったのだ。だけど、ハロウィン用のオレンジのタイプだとほとんどが食べられない品種なので……日本人に馴染みの多い緑を先方が選び。
客にも宴会が終了後に持ち帰ってもらったのだが……それでもまだまだ余ったため、先方がスタッフで分けてほしいと……ようは、押しつけられたのである。
その量が、地味に多いのだ。
「ひい、ふう、みぃ……うぇ、これは数えるの面倒ですねぇ!」
「でしょー? 眞島ちゃん達も好きに持ち帰っていいけど……一個一個がこの大きさじゃあね?」
「スーパーだと今の値段じゃ、400円くらいするんじゃね?」
「主催者さん赤字じゃ……」
「まあ、引き取るにも単身で持ち帰れないんじゃ。俺達を頼るしかなかったんだよ。それ以上は踏み込めん」
「けど……多いわね?」
カボチャは基本的に秋をイメージされやすいが、収穫は夏が多く。たとえば、夏野菜カレーなどにも素揚げしたカボチャのスライスが、カレー屋さんや食卓で出たりもする。
しかし、ハロウィンもだが冬至の季節にカボチャを食べる文化もあるため……保存もきちんとすれば長持ちする。
そのため、秋冬にもよく出回るのだ。
とは言え、事務所のデスクの大半を占めるカボチャの処理をどうすればいいのやらと……勤務が終わってから考えることになった。
「事務所のメンバーじゃ、二個ずつ持ち帰ってもなあ?」
「しどたん? 私ら、セッティングで鍛えているからって。基本的に非力な女子よ?」
「いやいや!? それくらい持ち帰らんと、デスク見えんよ!?」
「だったら!! もういっそ、一個ずつは持ち帰るとして……他を厨房とまかないに分ければ」
「……葛木ん、それは横暴じゃ」
「だって、無駄にしないならそれがいいでしょ!!?」
と言うわけで、怜が裕司のいるまかない処こと社員食堂へ。紫藤が渋々ながら、ホテルのシェフがいる厨房へ。
それぞれ、カボチャの行き先が決まってから……怜も裕司もカボチャを少し持ち帰ったが。
期末考査が終わるまで、触らずに放置してしまったのだ。
次回は16時15分〜




