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第3話『思い出のAセット』①

お待たせ致しましたー

 出来上がったのは、それから十分も経っていない頃だった。



眞島(まとう)さーん、Aお待たせ」



 もう出来たのか、と流石に(れい)でも驚いた。小説も読み始めて二十ページもいくかいかないかで、小森(こもり)に呼ばれたのだ。驚かないわけがない。


 けど、お腹はぺこぺこなので小説を棚に返してからカウンターに行く。


 カウンターの上には、オムライスがちゃんとあった。大きめのトレーの上に、大盛りサイズではないけれど、小ぶりでもないオムライス。固めの卵ではなく……少し流行りのふわとろの卵の皮だった。ケチャップの部分も上から丁寧にソースのようなものがかけられている。



「……美味しそう」



 思わず、口からポロッと出てしまうくらい……怜の目には、下手なファミレスとかで出されるのよりも美味しそうに見えた。



「ありがと。冷めるから、早く食べた方がいいよ?」


「あ! いただきますね!」



 見惚れている場合じゃなかった。休憩時間も有限なので、まだ時間があってもゆっくり食べ過ぎてはいけない。


 小森に礼を言ってから、トレーを持って座っていた席に戻る。テレビは相変わらず適当なニュースが流れていても、怜には今……今はいまかと待っているオムライスがあるのだ。


 手を合わせて、もう一度いただきますをしてから……まずは、セットにあるミニサラダから。ドレッシングはかかっていなくて、席に座った時に気づいたテーブルの上に設置されているドレッシングのボトルをひとつ手に取る。


 気分的に濃いめを求めていたので、ごまドレで。


 サラダを口に運べば、シャキシャキした食感が嬉しかった。これは作り置きだろうに、どう言う仕組みなのだろうか。今日初めてセッティングしてみた、冷たい料理などは専用の冷蔵室でラップにくるまれていたのに。


 しかし、気にせずに怜はどんどん口に運んでいく。メインのオムライスを前に、この丁寧な仕事に感心したからだ。その後に……これは、多分業務用のコーンポタージュ。チープな味わいだったので、怜にもわかった。


 そして、いよいよメインのオムライスだ。



(……どこから食べよう)



 実家では、左じゃなくて右だったが。このオムライスは全体的に丸いので右も左もない。なら、いっそのこと真ん中を攻めるか……とスプーンを差し込む。


 スプーンから伝わってくる、ふわんとした感触が怜に喜びを与えてくれる。これは絶対美味しいだろうと、さらに期待が高まり……大ぶりの鶏肉が入っているかと思ったが、肉はミンチ。


 色合い的に、豚か牛肉だろうか。


 初めての具材だったが、怜は湯気が立つオムライスに息を吹きかけてから口に入れてみる。



「おぉ!?」



 卵の部分は予想通りにふわとろではあったが……ライスの部分が凄く美味しかった。


 ケチャップの濃さもだけれど、正体は豚肉だったミンチが粗挽きのお陰か噛み応えがあり、ケチャップとコンソメの味が加わって、より一層米と合うのだ。


 他の具材は玉ねぎとピーマン。ピーマンは嫌いじゃないので、わずかな苦味が豚肉のパンチで刺激された舌を休ませてくれる感じに。


 これは物凄く美味しいと、怜はスープと交互に口に入れていく。


 最後になったら、名残惜しいがパクッとひと口で食べた。


 咀嚼してから飲み込み、もう一度手を合わせてから席を立つ。



「……すっごく、美味しかったです」



 小森に感想を言うと、彼はにっこりと微笑んでくれた。



「これでも専門学校で勉強してるからね?」


「え? 料理学校とかですか?」


「そうそう。目指せ、料理人! ま、ここで作っているのはまかないだけど」


「凄いです。私……料理全然だから」


「した方がいいって、言うやつもいるだろうけど……まあ、ここに来る時は色々作ってあげるよ? 俺以外にも上司いるけど」


「! 小森さんがいいです!」


「あれ、俺のファンになっちゃった?」


「はい!」



 それからだが……年は一個差でもふざけ合うような口調遊びで交流することになり。


 夏を迎える頃には、怜は彼のことを料理のファン以上に好きになっていたのだ。だが……彼には恋人がいたので諦めようとした。

次回は16時15分〜

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