第4話『締めの年越し蕎麦セット』
お待たせ致しましたー
今回もこちらに背を向けて食べ始めたが……今は怜以外誰もいない。
だから、彼女の動作がなんとなくわかってしまう。付き合いが長いのもあるが、一緒に暮らしているから尚更。
まず、セルフの温かいお茶をひと口含んでから……今日は試作を口に出来ることもあり、かき揚げと蕎麦以外はない。
裕司と一個違いであるが、まだ二十代であるので胃袋的には物足りないかもしれないが。なにせ、見た目の優雅さを裏切るくらいの肉体労働を彼女は日夜こなしているのだから。
パンッと手を合わせる音が聞こえた。
その音に、裕司もだが山越もそわそわしながら片付け半分で見てしまう。細かい音まで聞こえないが、怜が箸でかき揚げを持ったような気がして……噛む音が、かすかに聞こえた気がする。
「んんん〜〜〜〜!!」
そして、すぐに上がった声。
その歓喜に満ちた声に、裕司と山越は思わず拳を軽く合わせた。
それから、蕎麦もだがかき揚げもペロリと食べ終えた怜は……おかわりをリクエストするかと思ったが、挙手しながらカウンターにやってきた。
「怜やん?」
「美味しかった! けど!!」
「「けど??」」
「大きいの一個より、ゆーくんが前にやってたように小ぶりなのを二枚がいいかと。バイトちゃん達含めて、食べ盛りが多いでしょうし。あと年末があれば、軽めのデザートとか」
「……デザートか?」
「宴会の和食部門でも、小ぶりのお饅頭とか大福入れたお弁当があるので」
「……板橋、やるじゃねぇか」
と、山越のやる気に火がついたようで。
お饅頭だと、予想以上に時間がかかるのでゆるめの寒天ゼリーを仕込むことになった。材料の棚卸しでちょうど寒天粉を消費しようと決めていたらしく、いいタイミングであった。
それは、怜の仕事が終わる時間に裕司と怜が試食することになり。
味付けは、これも棚卸しで見つけた葡萄ジュースがあったので、シーズンではないが味見をしてみると。
「さっぱり美味しい!! さっすが、源さん!!」
「うん、口直しにいいな?」
これで、無事にホテル内の年越しメニューも決まり、裕司の仕事もスムーズに出来そうだ。
去年と違い、厨房での年越し業務に携われないのは少し残念だったが、学生時代から長く携わっていたまかない処が絶対嫌ではない。
むしろ、ピークは大変だがのんびりと作業していくこの作業は嫌いではないのだ。
実際、年末は色々とバタバタしたが……裕司と怜の帰省準備までは、お互い働きに働いた。
かき揚げもアレルギーが関係しない限りは、小さめをふたつにしたことが大好評だったのと、山越手製の寒天ゼリーが盛況で終わったのだった。
(……俺も、もうすぐ二十六か?)
色々言い訳をしてきたが……本格的に、怜とのこれからへ動こうと決めることにした。
次回はまた明日〜




