第2話 天ぷらリクエスト①
お待たせ致しましたー
それから、年度末近くになると。
裕司は珍しく、以前のバイト先であるまかない処こと社員食堂の山越に呼ばれることになった。
「どうしたんですか? 源さん」
「小森……頼む」
そして、腰を折って頼み事をしてくるのも大変珍しかった。
「はい?」
「今年の年越し蕎麦で作る天ぷら……お前さんにも手伝ってほしい!!」
「……バイトくん達は?」
「……一部インフルエンザになった」
「……ああ」
かと言え、この時期に和食部門に応援をかけるわけにはいかないので、時々まかない処のヘルプに行く裕司に救援を求めるのは無理もない。
「給料とかは一部上乗せするから!! 仕込み入れて三日間来てくれ!!」
「うちは何とかなるから、社食を頼んだ」
料理長の中尾も同席していたので、静かに頷いていた。
「あの……ひとついいですか? 中尾料理長」
「なんだ?」
「俺である理由もわからなくないですけど。和食部門からはやっぱり……頼めなかったんですか?」
「……ああ。あちらも今インフルエンザがやばい」
なら、仕方がないか……と裕司はひとつ頷くことにした。
そして、着替えてから山越とリクエストボックスの中身を開けることにした。
「海老天」
「貝柱入りのかき揚げ」
「ズッキーニ……」
「かぼちゃ天かあ?」
「こっちは、キスとイカ天ですよ」
「「うぅーん」」
それと、インフルエンザに罹っていないバイトスタッフには、任せられる下ごしらえを頼んでいた。
まだ営業していない、食堂側のテーブルにリクエスト用紙を広げるが……見事に、年越し蕎麦にセットして欲しい天ぷらへのリクエストがバラバラだった。
天ぷらのアレンジも年々増えているため、変わり種も色々増えているのである。和食限定ではないので、山越としても社員のリクエストに応えたいのだろう。
「仕入れは、野菜とか薬味ならまだ融通が効く。代わりに……海鮮類は」
「去年は奮発して、車海老の天ぷらでしたよね?」
「あれは……正直言ってもうやりたくない」
「……でしょうね」
大きさの関係もあって、和食部門の厨房とは違ってフライヤーがないので揚げにくいだろう。
「とりあえず、蕎麦とうどんは例年通りだ。かけつゆの仕込みも済んでる。あとは、この天ぷらが決まれば大丈夫だが」
「夏野菜じゃないのに、年中手に入るから野菜天は季節感台無しですね」
「……そこなんだ」
品種改良や、農作事情が発展していくのもあるが。
旬を大事にしたい料理界の一部を思うと……いくらか頭が痛いのである。
(けど……二年くらい前もかき揚げだからなあ?)
普段のかけそばとかは、サイドメニューのように扱うので……天かすやお揚げを使うのが普通。
だが、日本人として年越し文化は大事にしたいものなので……山越としても、裕司に応援を頼むくらいリクエストに応えたい。
とくれば……と、裕司は軽くため息をつきながらリクエスト用紙を、ひとまず同じ内容があれば重ねておくことにした。
次回はまた明日〜




