第1話 感心される呼び名
お待たせ致しましたー
歌を歌いたい気分だった。
無事に、怜が風邪から完治した翌日。
彼女は上司の指示で短時間勤務のために、一緒に出勤は出来なかったが。裕司が先に出る時も呼んでくれたのだ。
新しい呼び名で。
「……小森。いつも以上に機嫌良いな?」
その態度がわかりやすく出てしまっていたようで、厨房の先輩にも気付かれたのだ。
「あ、すみません」
「別に謝ることはないよ。なんかあった? あ……眞島さんの風邪治ったとか?」
「お陰様で、それは大丈夫です」
「そっか。けど、それにしてはえらく機嫌良いけど」
「……まあ」
些細なことだと思われるだろうが、裕司にはビックイベントだったのだ。
「あれじゃね? 呼び名変わったとか」
別の先輩が言ったことに、危うく何もないところで転けそうになったがなんとかこらえた。
「え、マジ?」
「何回か聞いたことあるけど。眞島さんの小森への呼び方って、名字呼びみたいなもんだったろ? なら、名前呼びとかに変わったら機嫌良くなんじゃん?」
「……はい」
「おお。良かったじゃん」
バシバシと背を叩かれるのは痛かったが、事実なので肯定しておいた。下手に嘘をついても、これからも接点がないわけではない職場だから。
「なんだ? 楽しそうだな?」
「「「料理長」」」
注意されるかと思ったが、今はそこまで忙しくする時間帯でもないので中尾もとやかく言わないようだ。パソコンデスクの方から、彼自身が顔を出すくらいだったから。
「聞いてくださいよ、料理長。小森が眞島さんから呼び名昇格らしいです」
「ほーぉ?」
興味があるのか、ニヤつかれたが事実なので口を挟まないようにした。
「つか、なんて呼ばれるようになったんだ??」
「え……」
「どーせ、今後も聞くかもしれないんだから言えって」
中尾の前で言うのはいくらか恥ずかしかったが。仕事中はともかく、半オフのまかない処のような場所で聞かれてもおかしくはない。
大人しく、言うことにした。
「……………………ゆー、くんって」
「「「青いなあ……」」」
中尾も含めてしみじみと言って欲しくはなかったが。
やはり、名前呼びは新鮮なので裕司としても嬉しくて。
しかも、この呼び名が形ではないクリスマスプレゼントと言われたのも、めちゃくちゃ嬉しかった理由はあるが。それは、中尾達には恥ずかしくて言えなかった。
(絶対……クリスマスの翌日には、怜やんが好きな料理ばっか作ってやろ)
翌日とは言え、ふたりのクリスマス。
今年は、せっかくだから裕司がケーキも焼いてみようと思った。ゼロではないが、厨房勤めとなって簡単なプチケーキとかは下ごしらえとかの手伝いをするようになったのだ。
無類のチョコ好きの怜には、やはりクリスマス定番の王道ショートケーキよりもブッシュドノエルがいいかもしれないと……作業を再開してから、どんな食材を使おうか考えることにした。
次回はまた明日〜




