第4話『味覚復活の卵おじや』
お待たせ致しましたー
おじやが出来るまで、怜はうとうとしていた。
微睡みの中で見たのは、怜がなんと妊娠していて裕司に甲斐甲斐しく世話されながら……のんびりと日々を過ごしている風景だった。
お互い笑い合い、とても幸せそうだった。指にはそれぞれ……数年前に裕司が贈ってくれたのとは違う、結婚指輪が左の薬指に光っていた。つまりは、結婚していると言うことで。
(……こもやんの、赤ちゃん)
これは何年後の風景だろうか。
顔つきとかは何とかわかるくらいなので、何歳とかはわからない。
二十代か三十代か。三十代以上だと出産のリスクが高いと聞くが……どちらにしても、愛する人との子供は嬉しいものだ。
いつか、叶えたいと思ってぬるま湯のような眠りに浸っていると……裕司に体を揺さぶられたので、起きることにした。
「んー?」
「怜やん、おじや出来たぜよ?」
「……起きるぅ」
起きると、夢で見た内容は頭から抜け落ちるものだが。怜はおぼろげだが、なんとか覚えていた。食事は、リビングで食べるかと思いきや、トレーに載せたものをベッドに持ってきてくれた。
「ほい、気をつけて」
怜がヘッドボードにもたれかかったら、膝上を整えてトレーを置いてくれた。
ほわんと湯気が立っていて……器を見ると、薄茶色のお粥に卵をたくさん使ったものが入っていた。あしらいには小ネギ。誰がこれを食べ物ではないと言えようか。
「いっただきまーす」
絶対美味しいとわかるそれを、怜は落とさないように手を添えてからスプーンで口に運ぶ。
トロトロ、卵のふわふわ感が口に近づけるたびにわかる気がした。軽く息を吹きかけてから……ゆっくり口に入れた。
まかない処では、あれだけ味がしないでいたのに。
塩気、卵の硬さ。まろやかな風味。
そのどれもが、いつも通りではないが少しでも感じ取れた。
あのホットタオルが効いたのか、少しだけ微睡んだせいか。
ぱく、ぱくとひと口ずつ食べることが出来たのだ。
「……大丈夫そうだね?」
裕司は怜の額に手を当てて、そう答えた。熱が引いたような気もするが……裕司からは『まだ安静に』と言われた。
「……ダメかね?」
「風邪はぶり返しも怖いからねぇ? まだまだゆっくり寝てた方がいいよ。シャワーももうちょい後の方がいいかな」
「はーい」
そこまで言われると、従わざるを得ない。
裕司もあまり風邪をひかない方ではあるが……実家だと、双子の兄である秀司の方が酷かったらしい。
ふたりで、もし今引いてたとしたらメアリーに看病されているんじゃ、と冗談で言っていたら……怜のスマホに、『シューが風邪ひいたの! 何食べさせたらいいの!?』と連絡が来たのだった。
「……俺が返事しとく。怜やん、おかわりは?」
「いるー!」
まかない処の料理を残したのはもったいなかったが……味噌の卵おじやはいくらでも食べられた。味覚復活も出来たので、都合三杯おかわりしてから次に見た夢は。
少し前に見た夢と違い、出産を終えて赤ん坊を抱えてふたりで囲んでいる風景だった。
明日からまた毎日更新しますー




