第1話 珍しく口喧嘩
お待たせ致しましたー
とても些細なことで、口喧嘩をしてしまった。
「こもやんのバカ!!」
と、同棲相手で、将来の嫁でもある一個年下の女性……眞島怜が言い合いをひと通り終えてから……出て行ってしまった。
けれど、完全に家出ではなく、しばらく友人である伊東皐月の家に行くとか。あちらもパートナーがいるのに、片隅で大丈夫かとは思ったが、裕司も珍しく苛立ちが勝っていたので止めなかった。
冷静になれたのは、それから数時間。
せっかくの休みで、お互いの勤務先であるホテルでの特典……取引先の関係で映画館の割引きチケットを時々もらえて、社員食堂であるまかない処に設置されるのだが。それを使って、映画を見に行くのを約束していたのに……怜が何故か今朝爆発するような勢いで、裕司に問い詰めてきたのだ。
『一緒にお茶してた、メアリーちゃんじゃない女の子は誰!?』
と。
身に覚えが全くない裕司は即否定したが……怜が気になって気になって仕方がなかったのか。どんどん口調が荒くなるのに、裕司もつられてヒートアップしてしまい。
結果、怜は荷物を軽く作って飛び出してしまったのだ。
「…………マジで、思い出せないんだが?」
裕司は冷静になってから、改めて記憶を掘り返してみた。
だが、最近……特にお互い合った休日はもちろん怜と過ごすことを優先していたので、怜以外の女性と過ごしてはいない。
兄の彼女であるメアリーとは、たしかに交流は増えたが彼女はフランスとのハーフなので身体的特徴があり過ぎる。だから、怜とて間違えるはずがない。
むしろ、怜はメアリーとは皐月くらいに仲が良いので……裕司と話していても問題のない相手だと認識している。
なのに、今回だけは違う。一方的に、裕司への嫉妬から起こった怒りだ。ああなる怜は非常に珍しい。
「……誰だ??」
裕司の交友関係は、どちらかと言えば狭い。
専門学校時代の友人がいないわけでもないが、男女の比率から考えると男の方が多い。専攻したコースの関係もあり、女性は少ないからだ。まったくいなかったわけでもないが……それなら、怜にきちんと説明する。
なのに、それも該当しない女性と……お茶してただなんて身に覚えが全然ないのだ。だから、裕司もムキになって反論してしまった。
ひとまず……チケットはまだ期限があるので戸棚に戻すと、スマホが鳴った。
一瞬、怜かと思ったが着信音が違うので、すぐにガッカリした。
そして、相手の名前を見た瞬間……裕司は室内で大声を上げた。
「あっはっは!? あたしがゆーちゃんの浮気相手!?」
通話に出てから、裕司が怜と口喧嘩したことを伝えれば……相手は大声で笑い出した。
「……笑いごとじゃないんだけど?」
「だってねぇ? あたしの女装が完璧なのは自分でわかっているけど……まーさか、ゆーちゃんの彼女ちゃんに間違えられるとは思わなかったわ」
「……はぁ」
電話の相手は、たしかに女装はしているが……裕司の従兄弟。
そして、ゲイでもあり、ガチムチ体型じゃない方のオネエの部類でもあるのだ。彼は、裕司の家の近くに来ているので、行っていいか電話をしてきたのだ。
次回は火曜日〜




