第3話 意外に落ち込む
お待たせ致しましたー
裕司が料理長などに意見したところで、受け入れられるかと言えば……正直言って無理が強い。怜もだが、バイト時代から正規雇用されてホテルでの勤務になった人間だ。
いずれ、巣立つはずだったアルバイトの人間ではない。
きちんと正社員の卵として雇われているのだ。多少意見は聞いてもらえるだろうが……怜の気にしていたことが採用されるかどうか。
少し気になったが……怜より早く出勤した裕司は、着替えて厨房に行くと……少し暗い雰囲気に驚いたのだ。
「おはよう……ござい、ます??」
料理長、それと副料理長が調理台の上を見ながら沈んでいたのだ。裕司の目から見ても、珍しい光景だ。
「お? おはようさん、小森」
先輩の料理人が先に準備していたので、手を洗浄してから手伝おうとそちらに向かう。その間も、料理長達は沈んだままだった。
「おはようございます。先輩……料理長達は?」
「あ。あれ? ほら、お前さんの彼女。眞島ちゃんじゃん?」
「? はい」
「さっき総支配人から回ってきたらしいんだけど……あの子からの意見箱への内容がうちに関係するからさ? 結構しっかり書いてあって、まあ落ち込んでんだよ」
「……あれですか」
怜が心配せずとも、総支配人や料理長達はきちんと読んでくれていたらしい。裕司もざっくりとしか聞いていないが……文系関連の大学にいた怜だから……きっと、わかりやすくてしっかりした文章が書かれているのだろう。でなければ、料理長達があそこまで落ち込むわけがない。
「…………小森」
少し仕事を始めようとした時に、料理長の中尾が裕司を呼んだ。
「はい」
「ちょっと、こっちに来てくれ」
「わかりました」
先輩にひと言告げてから向かえば、まず中尾にひとつの紙を渡された。
(……これは)
予想していた以上に、怜からの朝食バイキングでのメニューについて改善点がないかと言った意見がビッシリと書き綴られていた。
「見ての通りだ。お前の彼女ちゃんは……やっぱり、出来る時は出来る子だ」
裕司と怜が付き合っているのは、ホテル内で従業員であれば知らない人間の方が少ない。主に新人のバイトとかが。
だから、中尾達が知っていても不思議ではないのだ。同棲については、一部の人間しか知らないが。
「……これ、についてですよね?」
「今までのスタイルを改善するとかは、前々から総支配人とかと話合ってきた。眞島ちゃんは今年からの正社員。朝食はまだ半年程度でも……俺達にここまできちんと言ってくる子はなかなかいない。小森……お前としてはどうだ?」
「……俺の意見ですか?」
「ああ。お前はこっち側は二年目でも、まだまだ一人前じゃない。けど、客目線で物言うくらい出来るだろ?」
まかない処からの付き合いとは言え、山越に鍛えられた人材。だからこそ、中尾は聞きたいのかもしれない。
「そうですね……」
怜も言っていたが、妥協する部分はどうしても必要となる。しかし、宴会と違い、朝食バイキングはホテル側としての顔だ。宿泊客達の大事な朝の糧となっていく。
「可能であれば……作り置きしない部分も入れてみた方がいいかと」
「「…………やっぱり、そうか」」
中尾もだが、副料理長の板橋も大きく息を吐いたが……表情は苦笑いになっていた。
次回はまた明日〜




