第3話 それから……
お待たせ致しましたー
それから一年後。
裕司は、無事に四年制の専門学校を卒業出来て……新しい職場に勤めている。
と言っても、その場所は。
「小森、次こっちの皮剥き」
「はい!」
ほとんどが顔見知りの……バイト先だったホテルの『厨房』だ。まかない処ではなく、シェフの卵として就職出来たのだ。まだ入社して数ヶ月も経っていないので、勝手が違う部分に色々戸惑ってはいるが。
まかない処だと、基本的にマイペースで仕込みが出来たのに対し……厨房はそうもいかない。休日は早朝から、平日は特に夕方前から必死で仕込みと調理をしないと宴会本番に間に合わない。本当に、目が回るような忙しさだ。
それともうひとつ。
「小森、そっち終わったら社食行ってやって」
「はい」
まかない処を一応卒業はしたが……同じホテル、かつまだまだ新人達の教育をしている最中なので……ベテランだった裕司がまかない処に行って、山越と一緒に指導するのだ。
単純に人手が足りない場合もあるが。
「お、来たか」
「お疲れ様です、源さん」
厨房とは違うコックスーツ。一応ここは卒業しても……新品に近い厨房のコックスーツを汚すわけにはいかないので、山越から前使っていたのを譲ってもらったのだ。
「今日は……お前の得意なもんにしようと思ってな? リクエスト多かったんだよ」
「得意?」
「津餃子だ」
「……リクエストボックス設置したからですか」
裕司が学校を卒業する前くらいから……メニューの良し悪しに加えて、リクエストを書き込むボックスを設置したのだ。
山越も津餃子を作れないわけではないが、それを広めた裕司の方が確実に美味いと言うことで、厨房にヘルプを出したのだろう。嫌なわけではないが。
とりあえず、今年の春から来た新人にも教えつつ……津餃子を仕上げていく。試作と言うことで、揚げていけば彼らも喜んで食べてくれた。
「いやー、助かった! あっちも忙しいだろうけど、こっちで雇えば良かったぜ」
「と言いつつ、外見て来いって言ったの……源さんじゃないですか」
「はは! それはそれだ」
と言うやり取りをした後、着替えのためにロッカールームに行こうとしたら、廊下の奥から『あ!?』と声が聞こえてきた。
「こもやん! お疲れー!!」
大学も四年生になった、怜が手を強く振りながら軽く走ってきた。まだ出勤前なので、いつもの私服だ。
「おお、大学お疲れ」
「今日は……源さんに頼まれたのー?」
「そ。あ、まかないのひとつに津餃子仕込んだから」
「マジ!? こもやんが関わったなら絶対美味しいはず!!」
「はは、ありがと」
バイトだった頃は、一緒に仕事を出来ないと思っていたが……厨房に就職したことで、裕司も下っ端として宴会の会場で仕事するようになった。ビュッフェの麺類仕上げなどがほとんどだが。そのお陰で、怜の普段からは考えられないくらい……スタッフとしての美しさを目に出来るのだから。
とりあえず、お互い仕事が迫っているので……それぞれのロッカールームでさっさと着替えることにした。
次回はまた明日〜




