表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第3章エルフの里編
75/104

勇者奉納打ちを見守る

 それからエルザは奉納打ちの準備に入った。

 奉納打ちは4年に1度の一大行事である。

 国を挙げて宴を開き、奉納打ちを行うエルザが街中を神輿に乗って練り歩くのだ。

 街中で酒が振舞われ、人々は飲み食い歌い踊りながら炎神ウルグの加護がこれからも続く事を願うのだ。

 ちなみにこの宴は三日三晩行われる。

 本当にドワーフは宴好きな種族である。


「エルザも大変ねぇ」


 エミリアが出店で買った温泉饅頭を頬張りながら言った。

 このアルメイダ公国の温泉街では紅白の温泉饅頭が名産品である。

 色が紅白なのは、ヤマトの元いた国では紅白というのは縁起が良いとされていたかららしい。

 こんなところにもヤマトの影響はあるのだ。


「この宴が終わったら奉納打ちを不眠不休で1日がかりでやるんですよね?」


「らしいな」


 奉納打ちを行う者は打ち師と呼ばれる。

 打ち師は1人でウルグ火山に赴き、不眠不休で剣を炎神ウルグの為だけに打つのだ。

 かなり過酷な作業となるであろう。

 しかもその間ウルグ火山は余人禁制となってしまう。

 俺たちはエルザの奉納打ちが無事に成功することを祈る他ない。


 そうして着々と奉納打ちの準備は進んでいき、4の月2の週月の日の夜。

 奉納打ちは日付が変わり、火の日となった時から開始される決まりとなっている。

 なので前日の夜にはウルグ火山の麓に向かうのだ。

 エルザは温泉で身を清め、純白の装束に身を包んだ。

 これが打ち師の正装なのだそうだ。


「エルザ。体調は大丈夫か?」


「・・ばっちし。絶好調」


 エルザは気合十分であった。

 体力気力共に充実しているように見える。

 これならば大丈夫であろう。


「・・炉と"神の炎"を持っていかなけりゃならねぇ。ついてこい」


 そうしてザダに案内されたのは玉座の間であった。

 ザダが玉座を横に動かすと、その下から鋼鉄の扉が出てきた。

 ザダが鋼鉄の扉を開くと、中には下に降りる階段があった。


「・・ここに万が一の際に奉納打ちができるよう、"神の炎"が隠されている」


「それを俺達に教えてしまっていいのか?」


「・・お前達が居なけりゃこの国は滅びてたんだ。これくらい構いやしねぇさ」


 そう言ってザダは笑った。

 階段を降りていくと、そこは窓も扉もない石で閉じられた空間であった。

 そこに炉と"神の炎"が轟々と燃えていた。


「・・炉と"神の炎"はこれを持っていけ。"神の炎"は松明に移して炉はこれに入れていけ」


 そう言ってザダはエルザに松明と腕輪を渡した。

 腕輪は収納の腕輪だろう。


「・・その腕輪はお前にやる。結婚祝いだ」


「・・ありがとう、父上」


 エルザはその腕輪を左手に付けた。

 その薬指には黒い魔石のついたミスリル銀の指輪がはめられている。

 これは俺がルーガート王達を王都に送った際、帰りにエミリア達の婚約指輪を買った店で購入したものだ。

 エミリア達と同じように精神魔法に対する障壁と防毒の魔法が組み込まれている。


 エルザは大切そうに"神の炎"を松明に移し、炉を収納の腕輪にしまった。

 この"神の炎"はこの国に残された唯一のものである。

 これが失われれば奉納打ちは失敗し、アルメイダ公国は炎神ウルグの加護を失う。

 とはいえこの"神の炎"は普通の炎とは違う。

 それこそあえて破壊しようとでもしない限り、消えることはないのだ。


 "神の炎"が保管されていた部屋を出ると、俺たちはそのままの足でウルグ火山へと向かった。

 その道中では深夜だと言うのに人々が道に所狭しと並んでおり、エルザに向かってエールを送っていた。

 エルザはそのエールに無表情ながら手を上げて答えていた。


 そしていよいよウルグ火山の麓に着いた。

 俺たちはウルグ火山に入る事は許されていない。

 だが、憤怒の王イラを打倒する事は叶ったが、インウィディアに関しては目にする事すら出来なかった。

 なので俺たちはエルザの奉納打ちが無事終了するまでこの麓で警備を行うのだ。

 俺の魔力感知範囲を全力で広げれば、このウルグ火山全域はカバーできる。

 異変があればすぐにわかるだろう。

 万が一インウィディアが現れればウルグ火山に踏み入ることも辞さない覚悟である。

 それは先んじてザダから許可を得ていた。


「エルザ、頑張ってね」


「ファイトです!」


 エミリアとララもエルザにエールを送る。


「・・エルザ。しっかりやれよ」


「・・もちろん。任せて」


 ザダは眉間に皺を寄せたまま言い、エルザは無表情ながら強い口調で言った。

 この親子は相変わらずである。


「エルザ。何も気にせず奉納打ちに集中しろ。何かあれば俺が必ず守ってやる」


「・・うん。信頼してる」


 エルザはそう言って目を瞑って背伸びをしてキスをしようとしたが、彼女の身長では背伸びをしてもなお俺の顔には届かない。

 俺は苦笑しながら屈み、エルザにキスを落とした。


「いってこい」


「・・うん。いってくる」


 エルザは強い眼差しでそう言うと、火山に足を踏み入れた。


 エルザの姿が見えなくなると、俺は魔力感知範囲を全開にした。

 俺の全力時の魔力感知範囲はさらに広がり、ウルグ火山全域どころか、その周囲までカバーできるほどになっていた。

 "暴食の王(グラトニー)"は今やほとんど普段の制御には力を必要としていない。

 そのおかげで、色々と魔法が使えるようになった他、()()()()にも目覚めた。

 だが()()()は"暴食の王(グラトニー)"以上に扱いに気を遣わなければならない代物だ。

 制御の訓練をする場所すら選ぶ。

 まだきっちり制御が出来ていないので、周囲を巻き込む可能性すらある。

 使う機会がない事を祈るばかりだ。


 エルザが火山に入ってしばらく。

 時計が0時を告げた。

 4の月2の週火の日だ。

 エルザの奉納打ちが始まった。

 ここから彼女は不眠不休で丸1日かけて一振りの剣を打つのだ。

 何者にも邪魔はさせない。


「エミリア。ちょっと行ってくる」


「・・わかったわ。気を付けて」


 俺は隠蔽系統の魔法を重ね掛けしてから身体強化の魔法を掛けて、全力で駆け出した。

 走り始めて数分で火山のちょうど裏側に辿り着いた。

 巧妙に隠蔽の魔法で気配を隠していたようだが、俺の魔力感知は誤魔化せない。

 俺は目の前の黒いローブに全身を包んだ男の懐に一瞬で潜り込むと、その身体を蹴り上げた。

 男の腹に大穴があき、黒ローブが弾け飛ぶ。

 黒い一対の翼を持った緑髪の"生粋の"魔族。

 インウィディアだ。

 インウィディアはそのまま空に滞空すると、憎々しげに俺を見た。

 その腹は既に再生を始めていた。


「・・魔力感知範囲も精度も化け物であるな」


 そう言うとインウィディアは隠蔽を解除した。

 その莫大な"瘴気"が顔を出した。

 憤怒の王イラの時も思ったが、このインウィディアを目にして改めて思う。

 "生粋の"魔族達の"瘴気"は、まるで何千人、何万人といった人々の魔力を無理矢理集めて圧縮したような印象を受けた。

 これがこの男達の魔力の気味の悪さの原因だろう。

 いま、はっきりとわかった。

 この魔族は前の世界の魔族とは全くの別物だと。


「何の用でここにきた」


 俺は空に浮かぶインウィディアに尋ねた。

 インウィディアの腹は既に完治していた。


「決まっているのであるな。奉納打ちを邪魔しにきたのである」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はインウィディアの目の前に一瞬で接近し、インウィディアの顔面を殴り飛ばした。

 インウィディアは咄嗟に猛毒の膜を身体に纏ったようで、殴り飛ばした俺の拳がシュウシュウと煙を立てていた。


「"暴食王の鎧(グラトニーメイル)"」


 黒き極光の"鎧"を纏うと、拳に受けた毒を"暴食の王"が喰い漁り、毒は消えた。


「いきなり酷いのであるな」


 黒い翼をはためかせてインウィディアがこちらへ戻ってきた。

 インウィディアの頰は陥没し、首の骨は折れていたようだが、ゴキリ、という音と共に首が正常な位置に戻り、頰も治癒していった。


「憤怒の王イラはどうしたのであるか?」


「奴なら俺が殺した」


「・・そうであるか」


 インウィディアはその瞳に悲しげな色を浮かべた。

 こいつらにも仲間を憂いる感情はあるらしい。


「憤怒のを倒すとなると、やはり直接戦うのは分が悪いのである」


「逃げるのか」


「・・いずれ必ずこの国もヤマト王国も、この大陸の人族全てを。滅ぼしてみせるのであるな」


 そう言ってスペルビアの魔力が掻き消えた。

 転移魔法だ。

 この近辺には反応を感じない。

 恐らく遠くに転移したのだろう。


 俺は1つ息を吐いてエミリア達のもとへ戻ることにした。

 奴ら魔族はなぜ人族を滅ぼそうとするのだろうか。

 前の世界の人族と魔族も確かに戦争をしていたが、それでも滅ぼそうとまではしていなかった。

 だが、"生粋の"魔族達は人族を滅ぼそうとしている。

 これも次に創造神アルカディアに会った時に聞いてみる事にしよう。


 俺は身体強化魔法を掛け、エミリア達のもとへ駆け出した。


 それからは特に変わった事もなく時間は過ぎ去っていった。

 そして、火の日23の刻。

 エルザが山を降りてきた。

 エルザは俺を見ると、その大きな瞳からポロリと一筋の涙を零し、駆け寄って抱き付いてきた。

 俺は胸に顔を擦り付けてくるエルザの頭を撫でた。

 まさか、奉納打ちが失敗したのだろうか。

 よく見るとエルザの白装束はあちこち焼け焦げており、エルザの顔もススだらけだった。


「エルザ。奉納打ちはどうだったんだ?」


 エルザは俺の問いかけに対し顔を上げ、目をゴシゴシ擦ると、俺に向けてVサインを作った。


「・・無事成功」


 その時、ザダが俺たちのところへ駆け寄ってきた。


「・・国中の"神の炎"が戻った!」


 こうして、エルザの奉納打ちは無事成功した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ