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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王訓練に付き合う

 俺は位階序列石碑を後にして、予定通り訓練場に向かった。

 エミリアは着替えてから来るそうなので一旦別行動だ。

 訓練場では騎士達が汗を流していた。

 今日は訓練なので当然白銀の鎧は着ていない。


「おお!ディスター殿!よく来てくれたな!」


 その中からカーチスが俺の姿を見つけ、走り寄ってくる。


「それでは今日もお願いできるかな?」


「ああ」


「よし!おーいお前ら!今日もディスター殿に組手をお願いするぞ!」


 騎士達からおお!と歓声が上がる。

 今からこの近衛騎士団員全員と一人ずつ組手を行うのだ。

 これから俺にボコボコにされるというのに元気なものだ。

 俺一人に近衛騎士団全員がやられてプライド的にはどうなのかと思い一度カーチスに聞いてみたが。

『そんなプライドなぞ何の得にもなりますまい!それよりディスター殿ほどの強者と闘う経験こそ値千金の価値があるのだ!』

 とのこと。

 まぁ俺も暇だし、運動がてらちょうど良いので毎日この組手を受けているのだ。

 そんな事を考えながらまた一人持っていた剣を蹴り飛ばす。


「そこまで!では次の者!」


「はっ!」


 前の騎士が頭を一つ下げてから下がっていき、次の騎士が前に出て来た。

 この騎士の名前は覚えている。

 何故なら彼は珍しい魔法を使えるのである。


「それでは、はじめ!」


 目の前の騎士の身体から稲妻が走る。

 彼の名前はルーク・ローデリヒ。

 彼は珍しい雷魔法の使い手だ。とはいえただの雷魔法であれば水と風の魔法が使えて、かつその二つの属性を同時に用いる技術さえあれば使えるのでそこまで珍しいわけではない。

 では彼の魔法の何が特殊かと言うと、彼は雷と"一体化"する事が可能なのだ。彼はこの技を"雷神化"と呼んでいたが、これは非常に珍しい。

 そもそも努力でどうにかなるレベルの話では無いので、これはもう体質であろう。聞くと彼の家系の体質だそうなので、これも固有魔法ということになる。

 固有魔法は文字通り、その人物、もしくはその家系にのみ発現する特殊な魔法の事だ。

 彼の雷神化も固有魔法だし、カーチスのミストルティンも、エミリアの縛式も固有魔法だ。

 こう見ると固有魔法はそこまで珍しい物ではなく聞こえるが、それは大きな間違いだ。

 ここは王城で、彼らは近衛騎士団。騎士の中でもとりわけ優秀な者たちが集まっているという。

 つまり、固有魔法を使えるという事は他者に比べてかなりのアドバンテージになりうる。

 そのため、人族は固有魔法を使える血筋を大切にするのだ。この国の王族が縛式を使えないと王位継承できないところからも固有魔法の重要さが伺える。有力な貴族達の家系もやはり固有魔法が受け継がれているという。どの貴族も固有魔法を武器にして成り上がっているわけだな。常に魔族や帝国の脅威に脅かされているこの国だからこそ、実力を重視しているわけだ。


 さて、そんな彼、ルークの雷神化に対する対処だが俺にとっては対処はそんなに難しくない。

 確かに人族にしては異常なほどに速い。とはいえ目で追えないほどではないし、動きも直線的。普通の物理攻撃は受け流して無効化してしまうようだが、空間に軽く干渉してやれば触れる事は造作もない。

 後は彼が向かってくる地点に先に蹴りを置いてやれば。


「ぐふっ!?」


 この通りだ。

 ルークは3mほど吹き飛びごろごろと地面を転がり、やがて止まった。それに合わせて雷神化も解けたようだ。


「つぅ...やっぱり勝てないっす!ディスター殿は化け物っすよ!雷神化の速さに付いていくなんて信じられないっす!」


「まぁ、ヤマトはもっと速かったからな」


「勇者ってみんなこんな強いんすかね」


 さてな。俺はヤマトと自分以外に勇者を知らないからな。

 そんな感じでその後も近衛騎士団員の相手をしていると着替えを済ませたエミリアがやってきた。

 先程までのヒラヒラしたドレスではなく、動きやすい運動服になっている。ホットパンツからスラリと伸びる脚は眩しく、肩口まで伸びる金髪を後ろで結びポニーテールにしていた。


「カーチス!今日もお願いするわ!」


「ええ」


 カーチスは刃を潰した模擬刀をエミリアに1本渡すと、自身も模擬刀を1本構え、模擬戦を始めた。

 カーチスの剣術はやはり洗練されている。身のこなし一つ一つが流れるように次の動作へと繋がっているのだ。

 対してエミリアの剣術は防御主体だ。彼女には基本的に縛式という強力な結界術があるため、無理に剣術で攻める必要がない。

 そのため、万が一懐に潜り込まれた時の為に身を守る為の剣術を学んでいるのだ。

 カーチスの苛烈な攻めを巧みに捌いている。


「エミリア様はどうすか?」


 腹を押さえながらルークが歩み寄ってきた。


「あぁ、俺は剣術には詳しくないがよくカーチスの攻撃を捌いているんじゃないか」


「・・剣術に詳しくなくてディスター殿はどうやって俺達の攻撃を捌いてるんすか?」

 

「どうやっても何も。見てから動いているだけだが」


「聞いた俺が馬鹿だったっす」


 呆れた様子でやれやれと首を振るルーク。


「にしてもエミリア様は美しいっすね」


 今度はニヤニヤとこちらを見ながら口元を吊り上げるルーク。表情が豊かなやつだ。


「そんなエミリア様に好意を向けられてる心境はどうすか?」


「好意も何も。まだ会って数日だぞ?」


「その割にはいつも一緒にいるっすよね?」


「あいつが勝手に付いてくるだけだ」


 それにあれは好意というより、興味という感情の方が強い気がする。


「まぁエミリア様からしたら初めて自分を負かした相手っすからね」


「ユーリなら勝てるんじゃないのか?位階序列もユーリの方が上なんだから」


「確かにユーリ様なら勝てるでしょうが。でもユーリ様は無闇に力を振るえないっすからね。小さい頃から魔法の才があったエミリア様は剣術で負ける事は当然あっても縛式さえ使えば負けた事は無かったはずっす。エミリア様の縛式は団長のミストルティンすら防ぐっすからね」


 それで初めて自分を負かした相手に興味を持ったと。


「エミリア様は素敵な方っす。もし少しでも好意があるなら、ぜひ大切にしてあげて欲しいっす」


「・・そもそもあいつは王族だろう。婚約者くらいいるんじゃないのか?」


「いえ、居ないっすね。エミリア様は王位継承権第1位すから。このまま何も無ければほぼ間違いなく次期女王になるっす。だからこそ縁談の相手は慎重に選んでるっす」


 縛式を使えない第1王子と第2王子には王位継承権がない。従って縛式を使えるエミリアが王位継承権第1位になるのだ。

 それにしても。


「王位継承権第1位の次期女王候補が魔王討伐の旅に出るなんてよく許されたな」


 俺は準備を終えたら、エミリアと共に旅に出る予定なのだ。かと言ってあてもなく動くわけではなく、まずは他の種族の強力を取りつける手筈になっている。まず最初に向かうのは強力な武器を作成してくれるドワーフ領の予定だ。

 しかし、このご時世だ。むしろ次期女王なんて王都から外に出さないくらい平気でありそうだが。

 この王都はヤマトによって魔族の侵入を防ぐ結界が張られているそうで、それがある限りこの王都は安全なのだ。


「まぁこの国は成り立ちからして特殊っすからね。初代国王も初代王妃も魔王討伐のパーティメンバーっすし。むしろ初代の逸話の再来だ!とか言って喜んでるくらいっす」


「確かに王は喜んでいたな」


「しかもこの国の初代国王は異世界の勇者様っすからね。エミリア様さえそのつもりならすぐに縁談でも組まれるんじゃないっすか?」


 それは勘弁願いたい。確かにエミリアは美しいし魅力的なのは認めるが、俺はまだこの世界で生きていくという覚悟が定まっていない。

 前の世界に戻れる可能性ももしかしたらあるかもしれない。そういう話はこの世界で生きていく覚悟をしてから考えるべきだろう。


「まぁ今考える事ではないさ。お前の早合点だろう」


「ならそういうことにしとくっす」


「あぁ。そうしてくれ」


 そんな話をしてるうちにエミリアの剣術訓練が終わったようだ。

 これで小休止を入れた後は、今度は俺との魔術を用いた訓練を行うのだ。

 これはエミリアに頼まれた事であった。

 この世界の魔族の力がどれほどの物かは知らないが、少なくとも縛式を破る事が出来る敵も存在すると思った方が良い。

 そんな相手を想定しての訓練であった。

 初日の腕試しの時こそ結界を初めて破られた事に動揺し、隙を晒したエミリアであったが、ここ数日で随分慣れた様子だ。

 やはり才能があるのだろう、特に自身の周辺の結界を破られた時の対応には眼を見張る物がある。

 これならば共闘したとしてもそんなに心配しながら戦う必要はないだろう。

 剣術の訓練で消費した体力を回復したらしいエミリアがこちらに向かって走り寄ってきた。


「さぁやりましょうディスター!今日こそ勝つわよ!新しい戦略を考えたんだから!」


「やってみろ」


 この俺に勝利宣告とはいい度胸だ。

 今日の訓練は少し厳しめにしてやろう。

 そう思いながらお互いに魔力を高め、訓練を開始した。



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