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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王常識と位階序列を学ぶ

 エミリアとカーチスとの腕試しを終えた次の日から。

 俺は晴れて実力を王直々に認められ、王城に居座る運びと相成った。


「いずれは魔王討伐の為に動いて貰いたいが、ひとまずはこの世界の常識を身につけるのだ」


 という王命のもと。

 俺はこれまでの人生で一度として経験したことのない勉学というものに勤しむ事となった。

 ここ数日の俺の生活と言えば、1日のうち半日をこの世界の地理や歴史、文化、常識などを学ぶ時間としている。

 もう半日は自由時間であるので、鍛錬をして過ごしたりと色々だ。


 この世界の地理だが、どうやら全て一続きの大陸で繋がっているらしい。

 海の向こうに陸地を見つけた者は現状おらず、この大陸以外に存在しないとされているらしい。

 代わりにこのアルカディア大陸は広大だ。

 この世界の名前、つまりはこの世界の神の名前を冠するこの大陸だが、現在は大まかに分けて真っ二つに勢力が分かれているらしい。

 横長の大陸で見て西側が魔族領で、東側が人族領だ。とはいえ人族領とは言えど、大陸の東側が全て人族の住まう地というわけではない。

 このヤマト王国が大陸の東側、人族領の中央に位置しており、ヤマト王国の直上には聖樹ユグドラシルを冠するエルフ領のユグド大森林が広がっているし、ヤマト王国直下にはウルグ火山のあるドワーフ領が存在する。ヤマト王国より更に東側には魔の森と呼ばれる魔物の巣窟が広がっている。

 この魔の森は空気中に漂う魔力が非常に濃く、そこに住まう魔物も非常に強大であるため、開拓が進んでいないとの事だ。

 人族とはこの場合、1200年前に起きた人魔大戦の際、人族側に味方をした種族の総称で、逆に言えば魔族とは1200年前の人魔大戦の際魔王側に味方した種族である。

 また、人族領と魔族領の間には龍の顎門と呼ばれる二つの巨大な山脈があり、そこにはドラゴンと龍人族が住んでいる。この龍人族は人魔大戦の際、中立を保っており、人族とも魔族とも呼ばれない。

 さて、そんな人族領ではあるが、ヤマト王国のちょうど西側にはヤマト王国以外にも純粋な人族の国がある。

 名前はユースウェル帝国。このユースウェル帝国だが1200年前の人魔大戦にて人族が力を合わせて以降、勇者ヤマトには従えないと反旗を翻した者たちで作られた国である。

 完全実力主義の国で、血筋に関係なく王が打ち立てられていた。ヤマト王国とは度々小競り合いを繰り返していたが、10数年前に魔族の侵攻によって飲み込まれた。

 ユースウェル帝国の直下には獣人の国があったが、こちらも抵抗虚しく魔族の占領下となった。

 そして5年前。

 そのユースウェル帝国からヤマト王国に対し侵攻軍が送られた。

 魔族の数こそ数百であったが、魔物の数は数万にも及び、その軍勢はヤマト王国とユースウェル帝国の国境に位置するルノア砦へと侵攻した。

 その際命を賭して軍勢を止めたのが。

 位階序列第4位カラミナ・ヤマト。

 エミリアの母である。

 カラミナは迫る軍勢を自らの魔法で殲滅し、更に敵軍勢の首領、魔族の幹部をもその命と引き換えに打ち倒したのだ。

 それ以降人族側の位階序列に名を連ねる魔法師達の戦力を重く見たのか、大侵攻は起きず国境周辺での小競り合いが続いている。


「というのが現在の地理と大まかな我が王国周辺の歴史ですがご理解いただけましたか?」


「・・ああ。大体な」


「そうですか。それでは今日はこれくらいで終わりましょうか」


 と言って教鞭を取っていた目の前の給仕服に身を包む女性の名はシス。

 彼女はここヤマト王城の従者部隊の筆頭であり、現在俺の教師役を見事務めている。

 この従者部隊の業務は多岐に渡り、王族の世話や家事・炊事はもちろんのこと、更に諜報や暗殺までも行うというのだから驚きだ。

 この俺でもシスがかなり近付くまで気配を感じない事もあるのだから、腕前は相当の物だろう。

 暗殺の標的にならないように気をつけたい。

 だが彼女の教え方は非常に要点を押さえており、わかりやすい。


 さて、ここ数日勉学に励んでいて気付いた事がいくつかある。

 まず一つ目はここは異世界であるというのに、言葉も理解できるし、読み書きも問題なくできるという点だ。

 会話に関しては最初から何の違和感もなく行えていたし、文字も明らかに知らない言語体系であるのに理解ができる。

 更に言うと書こうと思った言葉が、書こうと思った言語で書けるという点は非常に便利だ。

 この世界に来て一番困るのが言葉だと思っていたからここは特をしたというべきであろう。

 ただ、文字を書く際に身体が勝手に動く感覚があるのは気持ち悪いので、さっさと文字を理解してしまおうと思っている。

 ヤマトは前の世界に転生してきた際、言語理解の能力と創造魔法を神から授かったと言っていた。

 俺の場合は今のところ理解できるのは言語能力だけだが、あるいは他の能力も得ているのだろうか。

 とはいえ、これ以上必要な能力があるのか、と聞かれれば微妙なところであるが。


「じゃあ俺は訓練場に呼ばれてるからそっちへ行くよ。明日もよろしく頼む」


「はい、畏まりました。お疲れ様でした」


 シスに目礼をして勉強会をしている一室から出た。


 もう一つの気付いた事は、この俺が部屋を出た後に続いて出てくる女だ。

 ズバリ、エミリアである。

 何故か彼女はあの腕試し以降、俺の後をずっと付いてくるのだ。

 確かに色々と学んでる時にわからない事があると横から教えてくれるのは助かる。助かっている。

 だがそもそも彼女は授業を受ける必要は無いし、その後も俺に付いてくる必要はないはずだ。

 それを彼女に伝えたところ、邪魔にはなっていないでしょ。と一言バッサリであった。

 邪魔になっていないのも事実だ。それどころか助けられている。通りがかった人がいれば、あれは誰でこれは誰だとか。出てくる料理はこれは何であれは何だとか。それはもう甲斐甲斐しく。

 付いてくる彼女自身も何故自分がこんなにもこの魔王に世話を焼くのかよくわかっていない様子であるから更に始末が悪い。

 そもそも、この魔王は他人からの好意に弱い。

 何故なら幼少時代からその身に余る力から恐れられ、その後力を制御してからもやはり人々からは畏れられ。

 前の世界の魔族達はいい意味で馬鹿だったので、強い者こそ偉い、の精神で付いてきてくれたから良かったものの。

 前の世界で友と呼べる者はそれこそヤマトと、後は俺と真正面から殴り合って壊れなかったあの龍神くらいであろう。

(リシル?あのメイドはまた別次元なので割愛)

 ともあれそんな魔王様であるので、こういった真正面からの好意には耐性がない。

 しかもその様子を見て周りはどこか楽しげにこちらを見物しているようだし。

 結論として、魔王はひとまず諦めて状況を受け入れる事にした。

 別に彼女が付いてきたところで問題はないのだ。ならば放置することにしよう。

 所謂現実逃避である。


 そんな事を考えながら歩いていると、ふと思い出した。


「なぁエミリア」


「なに?」


「そう言えば位階序列とかなんとか言っていたが、あれは何だ?」


「あぁそれね。説明してなかったかしら。ちょうど良いから案内してあげる」


「案内?」


 そう言うエミリアに連れてこられた場所はこの城の中庭であった。

 中央には芝生が綺麗に整えられた島があり、その周囲一帯には水がゆったりたり流れている。

 中央の島までは橋がかけられており、そこを渡って中央の島まで進むと、島の中央には大きな俺の身長程もある黒い石碑が建っていた。


「これが位階序列の石碑よ」


 石碑を見ると、1位から7位まで人の名前が描かれている。


「順番に説明は必要かしら?」


「頼む」


「そうね、闘うことになるかもしれないし」


 そう言ってエミリアは指で名前をなぞりながら一人ずつ読み上げていった。


「まず7位は私。これは説明の必要はないわね」


 そのまま指を上にスライドさせる。


「6位はシュリ・ユグドラシル。彼女はエルフ族の長老ね。彼女は1200年前の人魔大戦の生き残りなの。勇者ヤマトとも一緒に戦ったんだって」


 ほう、ヤマトを直に知る者か。いつか会ってみたいものだな。


「5位はオウガ・ラーガン。獣人族の族長ね。でも10年前の魔族侵攻以降の所在は不明。でもまぁ、この石碑に載っている以上は生きてはいるのでしょう」


「この石碑は生きてる者だけしか載らないのか?」


「そうよ」


 そしてまたエミリアはその細く綺麗な指をつい、と上へスライドさせた。


「4位はザダ・ガザン。ドワーフの筆頭鍛治師ね。ドワーフの事は勉強したわね?」


「ああ。一番鍛治で優れた者を国の長とするらしいな」


「そう、今の筆頭鍛治師のザダも気難しい事で有名よ。昔は武器などを作って貰えてたそうだけど、いまはなにも作ってもらえていないの」


 前の世界のドワーフもそうであった。気のいい奴らではあったが、職人気質で気に入らない奴からの仕事は一切引き受けないのだ。

 こちらの世界でも聞いた感じ大体同じだろう。


「3位はユーリ・ローゼンベルク。うちの宮廷魔法師長ね。これも説明はいらないわね」


 またもつい、と指を上に這わせる。


「2位はゾロ・ハスター。ユースウェル帝国の皇帝よ。彼が居るのに帝国が占領されたなんて正直信用できないのだけれど。現に占領されてるのよね。ここに載ってるって事は生きてるんでしょうが」


「このゾロってのはそんなに強いのか?」


「ええ、強いわ。もう何十年も実力主義の帝国で皇帝の座に居座っていて、うちの国との戦争でも何度となく最前線に出てきてはうちの兵を殺し回っている。うちの国からしたら飛び切りの賞金首よ」


「どんな魔法を使うかはわかってるのか?」


「詳細はわからないけれど、目に見えたところならどこでも切断できる魔法を使えると言われてるわ」


 それは確かに厄介だ。

 切断系の魔法を使う剣士は平気で間合いを無視するからな。前の世界でも部下に一人いた。


「そして最後。1位は、ディスアスター・サタン」


「・・俺だな」


「そうね。そしてこの1位は貴方が来るまでずっと空位だったの」


「そもそもこれは何を基準にして順位づけられてるんだ?」


 ヤマトが作った、とまでは聞いてるが。


「空間干渉力を基準にしている、と言われてるわ」


「1位が空位だったのは?」


「魔王を倒せる者が現れれば、自ずと1位は埋まる、とされていたわ」


「つまり今までは魔王を倒せる者が現れず、そうして呼ばれたのが俺だったと」


「恐らくね。そして位階序列に名を連ねる者は戦略級魔法師と呼ばれているわ」


「戦略級。つまり一人で戦況を変えることができる魔法師と」


「そういうこと。さすが理解が早いわね」


 エミリアは石碑から指を離し、こちらに向き直った。


「そんなわけで魔王討伐頑張りましょう!位階序列第1位さん」


 エミリアはニコリと太陽のような笑みを浮かべた。

 急に笑みを浮かべるのは心臓に悪いのでやめていただきたい。




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