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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王ルノア砦に到着する

 飛空挺は馬よりも速い。

 ルノア砦にはルノアの街を出て2時間後には到着した。


「よくぞおいでくださいました!」


 出迎えに来たのはルノア伯爵の長男、エーリッヒ・ルノアであった。

 茶色の短髪が爽やかな彼がこの砦の指揮官だという。


「支援物資はどちらでお渡しすれば良いかしら?」


「食料庫にご案内します」


 砦の中を案内してもらう。

 ルノア砦は帝国とヤマト王国を繋ぐ谷で唯一通行可能な道に聳え立つ石の壁である。

 ルノア砦の両側の崖上には両側とも広大な森が広がっており、そこは飛竜の縄張りなので通過することができないのだ。

 砦の中の魔法師達の表情にはやはり不安の色が見て取れた。

 明日には魔物の大軍勢がこの砦に攻め込んでくる。果たして自分達は生き残れるのか。そんな考えがありありと伝わってきた。


「こちらが食料庫になります。長丁場になりそうなので、助かりました」


「・・いや、長丁場にはしないさ。さっさと決着をつけよう」


「それは頼もしいですね」


 無限収納にしまっていた食料をどんどん出していく。それを衛兵の1人が記録していく。


「以上が王都からの支援物資よ」


「こんなに・・ありがたいですね」


 何せ500人を一ヶ月食わせる量だからな。

 膨大な物量になる。

 その次はルノア伯爵からの支援物資だ。

 こちらも王都からのものほどではないが膨大な数であった。


「これなら最悪籠城戦もできそうね」


「そうですね」


 エミリアとララは支援物資を渡し切り、ひと仕事終えたような顔をしていた。


「エーリッヒ様、怪我人の方はいらっしゃいますか?」


 ララがエーリッヒに尋ねた。


「ああ、偵察部隊が飛竜にやられましてな。聖女殿、治療をお願いできますか?」


「勿論です。案内してください」


 案内された救護室は酷い有様だった。

 誰も彼もが頭や胴に包帯を巻き、それが真っ赤に染まっている。

 中には腕がない兵もいた。


「彼らが命がけで情報を持って帰って来てくれたお陰でこうやって勇者殿達が応援に駆けつけてくれた」


 エーリッヒが神妙そうな面持ちで言った。


「治療します。皆さんどいていてください」


 怪我人以外を救護室から出すララ。

 そしてララは救護室の中央に立った。


「いきます。"エリアハイヒール"」


 ララが魔法を唱えるとララからフワリと白い光が広がっていき、重症だった兵士達を光が包むと、一気に治っていった。

 その様子は、まさに聖女であった。

 部位欠損のある人には上級魔法の"エクストラ・ヒール"を掛けて治療していた。


「き、奇跡だ!俺の腕が!」


 腕の欠損まで完治した兵士が叫ぶ。

 確かにその光景は奇跡のようだった。

 きっと彼女は5年前もこのルノア砦で、このように治療を行ったのだろう。

 それ故、人は彼女を聖女と呼ぶ。


「流石は聖女様ですな、これで我々は怪我を恐れず戦える」


 笑いながらエーリッヒは言った。


「いえ、怪我は恐れてください。死んでいない限り私が治しますが、死んでしまってはもう遅いのです」


 それに対し毅然とした様子で言うララ。


「聖女様。この戦いは死地も同然。たった500で数万もの魔物の大軍と戦うのですから、怪我など恐れていては戦えません。それに、どうやら飛竜も敵軍に回っているようで。彼らからの情報によれば、敵に竜の王がいるのでは、と」


 なるほど。竜の王か。それは確かに面倒かもしれない。

 何が面倒って無闇に王を殺してしまうとその後縄張り争いが酷い有様になり、周囲一帯が焦土と化したりするからだ。


「ふむ、エーリッヒ。何か戦う上で作戦は考えているか?」


「ええ。大軍とまともに当たっても勝ち目はないので、砦を生かして上から魔法で攻撃しようと」


 それだとまだ足りないな。


「飛竜への対策は?」


「私の固有魔法"ミョルニル"で落とします」


 なるほどな。


「その"ミョルニル"とやらは一度に複数の飛竜が襲ってきて対応できるような魔法なのか?」


「・・いえ。一度には2体までが限度かと」


「わかった。エミリア、俺たちは別行動しよう」


「そうね。確かにこのままじゃ飛竜への対策が足りないものね」


 エミリアもわかっているようだ。

 そう、今の作戦のままでは飛竜への対応が間に合わない。


「俺が1人で下に降りる。エミリアは上で飛竜の対応をしてくれ。ララは攻撃には参加せず、治療に専念を」


「わかったわ」


「わかりました」


「ちょ、ちょっと待ってください!1人で下に降りると言いましたか?」


 焦った様子でエーリッヒは言った。


「ああ、そう言ったが」


「無茶です!下は魔物の海になっているはずです!それに我々の魔法も降り注ぐんですよ!」


 それは下に降りたら当然そうなるだろう。


「だから、戦力を右翼と左翼に集中させてくれ。中央は俺に任せろ」


「それにしても無茶ですよ!1人でなんて」


「逆だ」


「逆?」


「1人じゃないと、味方まで巻き込んでしまうからな」


 エーリッヒは口をあけて呆けた。

 そして次には口許を緩めた。


「なるほど。これが勇者なのですね」


 そういうことだ。まぁ見てればわかるさ。


「今の私の気持ちを兵達に共有したいのですが、構いませんか?」


「構わないが。何をするんだ?」


 俺が尋ねると、エーリッヒはにやりと笑った。


「なに、全兵の前で演説をしてもらうだけです」



 その後エーリッヒ号令のもと、速やかに全兵が砦の前に集められた。


「皆の者!今日は王都より頼もしい援軍が来てくれた!なので紹介しようと思う!」


 用意された壇の上にはエーリッヒの他に俺とエミリアとララが乗っていた。


「まずは皆も5年前の戦いでよく知っているだろう!聖女ララ・ルシエラ殿である!」


 ララが一歩前に出ると、兵達から聖女様コールが巻き起こった。

 ララは聖女然とした笑みで応える。


「次はヤマト王国が誇る大魔法師!王国筆頭魔法師にして位階序列第7位!エミリア・ヤマト王女殿下である!」


 エミリアが一歩前に出ると、先程と同じくらいの勢いで王女殿下コールが湧き上がった。

 エミリアは手を振って応えた。


「最後に!ヤマト王国最強の魔法師!異世界の勇者にして位階序列第1位!ディスアスター・サタン殿である!ディスアスター殿、一言お願いする」


 そう言うと、エーリッヒは壇の中央から傍へと退いて、場所を俺に譲り渡した。

 エーリッヒが立っていた場所に立つ。


「俺はディスアスター・サタン。異世界から来た勇者だ。我が陣営はここにいる500人の戦士のみ。対する敵軍は数万にものぼるという。その上竜まで味方に付けているのだ、一見絶望的に見えるな」


 そう言うと、先程まで昂ぶっていた兵士達の表情に明確に不安の色が浮かび上がった。

 下を向いてしまう兵士もいる。


「だが、貴様達は運が良い。なぜならここにこの俺がいるからだ。この俺がいる限り、我が陣営に敗北の二文字はない。この俺の力の一端を見せよう」


 そう言って凄惨な笑みを浮かべると、右腕に黒い極光を纏わせ、拳を振り上げ上空に"黒灼小砲"を放った。

 黒き極光は上空高くまで上昇し、やがて極光が一際強くなると、大爆発した。

 衝撃と爆風は地上にも降り注いだ。

 バタバタと髪が靡く。


「見たかこの力を!この俺が貴様達を勝利へ導く!我らが見据えるは勝利のみよ!!」


 そう言って拳を勢いよく振り上げた。

 それに合わせて、兵達から今までで一番の大歓声が上がる。

 良い士気だ。これなら大丈夫だろう。

 そう考えながら壇上から降りた。


「素晴らしい演説でした。兵達の士気もこれ以上ないくらい上がった事でしょう」


 そんな俺をエーリッヒは拍手をしながら迎えた。


「ああ。良い士気だ」


 次に俺を迎えたのはエミリアとララであった。


「驚いたわ、貴方ってこんな事まで出来るのね。もう、出来ないことなんて無いんじゃないかしら?」


 エミリアは愉快そうに笑った。


「出来ない事は結構多いぞ」


 そもそも普通の魔法すら魔法陣無しには使えないしな。やれる事をやってるだけだ。


「私達の士気も自然と上がってしまいますね!」


 ララはふんす、と拳を握り気合の入った様子だ。


「とはいえ私は戦わないんですけどね」


「回復役も戦においては重要な役目だ」


「ええ、もちろんわかっていますよ」


 自嘲気味に笑った。

 そして瞳に確かな意志の炎が燃えた。


「私はディスター様と一緒には戦えませんが。私は私の戦いをします」


「ああ。頼りにしてるぞ」


 その日の夕食は兵士達と共に取った。

 兵士達は戦いに向かう意気込みや残してきた家族達への思いなどを語ってくれた。

 これは負けられない戦いだ。

 俺はやれる事をやろう。


 そして、遂に決戦の日が訪れる。

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