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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王家を買う

19話"魔王修羅場を経験する"のララが使える魔法を水魔法上級から光魔法上級に変更しました。

 次の日。

 俺たちは貴族御用達の不動産屋を訪れていた。


「いま話題の勇者様と王女殿下、更には聖女様のお住まいでございますか!そんな高貴なる方々にお住まいをご紹介できるだなんて、私はこの巡り合わせを神に感謝せねばなりません!」


 なんというか、その不動産屋の男は胡散臭い男であった。いちいち態度が芝居がかっているのだ。

 思わず俺はこの男を紹介してきたエミリアの耳元に口を寄せた。


「おい、エミリア。このおっさん大丈夫か」


「ええ、態度こそ胡散臭いけど、商売に関しては確かよ」


 エミリアは苦笑しながら言った。

 まぁ、彼女がそう言うなら信じる事にしよう。


 不動産屋の勧めで空き屋敷となった貴族達の邸宅のリストを次々と見ていく。

 次期王女であるエミリアに格として相応な屋敷となると、どんなに安くても白金貨40枚程度にはなるようだった。

 それにそういった屋敷は西街、つまり歓楽街に近かったりするのだ。

 いかに城壁という隔たりが存在するとはいえ、そんな治安が悪いところに近い屋敷は御免被りたい。


「あら?こちらの屋敷はどうしてこんなに安いのでしょうか?」


 ララが見つけたのは格としてはかなり良さそうで北東に位置する屋敷。なのに白金貨10枚。怪しさ満点である。


「はい!ああ、そちらは元公爵家のお屋敷でございますね。屋敷の主人が女遊びに明け暮れた挙句、最終的に正妻が屋敷の住人全員を惨殺し、その公爵家は取り潰しとなりまして。この屋敷はその後売りに出されたのですが、屋敷の主人が化けて出て住人を呪い殺すようになりまして。神殿の方がいらして浄化魔法を試したのですが、それも上手く行かず。結果、このような捨て値同然の値段で競売に出されたのでございます」


「なるほど。事故物件というわけか」


 そんな家に誰が住みたいというのか。


「神殿でも噂になってました。浄化魔法の効かないほど強い怨霊の住まう邸宅があるって」


 なるほど。神殿も浄化に挑んだが失敗したというわけだ。


「へぇ、でも条件自体は良いのね、ここ。立地も良いし」


 ところがエミリアが興味を示してしまった。


「ここは業界では事故物件として有名なの?」


「ええ、それはもう。この職業を生業とする者であれば知らぬ者は居ないかと」


 店主の言葉を受け、エミリアはにやりと笑いながら、ちらりとララを見た。

 そんなエミリアにララはきょとんとした表情を浮かべた。


「ねぇ、この怨霊、ララなら浄化できるんじゃないの?」


「はい?やってみないとわかりませんが、たぶん出来るかと・・」


 なるほど。エミリアの狙いがわかった。


「ねぇ貴方。この物件は本当にこの値段なのよね?」


「ええ、それはもう。表記通りの値段でございます」


「巷で有名な事故物件を勇者一行が浄化して住まいに。中々良い流れじゃないかしら?」


「ええ、エミリア、ここにする気ですか!?惨殺事件が起きた家ですよ!?」


「家は誰が前に住んでいようが所詮家よ。その怨霊とやらさえいなくなれば立派な屋敷じゃない!家は使ってこそよ!」


「さすがはエミリア王女殿下、その志の高さにこのトーマス、涙が出そうでございます」


 この胡散臭い店主はトーマスというらしい。


「俺も別にここで構わんぞ。まぁ実際に見てみないことには買う気にはならんが」


 例え怨霊をララが浄化できなくても、俺が"喰えば"良いしな。そういう霊の類にも俺の魔法が効くのは既に実証済みだ。


「じゃあ見学に行きましょう!」


 そんなわけでその事故物件を見学ついでに怨霊を浄化することとなった。



 所変わって現在地は件の事故物件。

 確かに立地は良い。

 俺がよく利用する東街に近いし、これから利用するであろう北街、つまりは職人街にも近い。

 だというのに、周囲の邸宅は軒並み空き屋敷となっていた。それもこれも全ては目の前の邸宅のせいだ。さっさと怨霊を駆除してしまおう。

 ちなみに店主のトーマスには念の為浄化ができても白金貨10枚なのか聞いてみた。

 トーマスは言った。


「勇者様方が浄化成功と相成りましたら少々値を吊り上げても周囲の邸宅は売れるでしょう。むしろ勇者様方と少しでも知己を得ようと貴族の皆様方はこぞって買いに走る事でしょうね」


 だそうだ。

 なるほど、腕のいい商人である。

 というわけで遠慮なく怨霊を駆除してしまおう。


 邸宅の周辺は濃密な魔力が漂っていた。

 強力な怨霊や魔物がいる地域は得てしてこのような濃密な魔力を発する。そして濃密な魔力があるという事は魔物が生まれるということ。つまりはその怨霊はもう魔物化しているのだろうと思えた。


「さぁ行きましょう!中々いい屋敷じゃない!中を見るのが楽しみね!」


 エミリアは既にこの屋敷を買うつもり満々である。

 確かにこの濃密な魔力を抜きにすれば中々堂の入った佇まいの屋敷である。


「ディ、ディスター様。わ、私を守って下さいますか?」


 我が一行の聖女様はすっかり及び腰である。教会でも浄化の仕事はあるだろうに。そう思って聞いてみると、彼女は治癒魔法の腕が高いので治癒関連の仕事が主であり、浄化はした事がないそうだ。


「ああ任せろ。俺の見えるところにいる限りどんな事があっても守ってやる」


 さぁ行くか。

 トーマスから鍵を預かり、門を開く。そしてそれと同時に身体強化魔法を全開で掛ける。

 これでエミリアやララが襲われても対応できるだろう。万全の体制だ。


 荒れ放題の庭を通り、玄関に辿り着く。

 大きな魔力の反応は邸宅の中から感じる。恐らくこの反応が怨霊であろう。

 トーマスから預かった鍵を使って鍵を開ける。

 両開きの重厚な造りの木製玄関扉を両手で引いて開ける。玄関扉はぎぎぎ、と音を立てて開いた。

 その音に、俺に服の裾を掴んでいたララがびくりと身体を震わせ俺の腰に抱きついた。

 その反面エミリアは邸宅の中が気になるのだろう、大変勇ましい表情をしておられた。

 あるいはまだ見ぬ怨霊との戦いを夢想しているのかもしれないな。

 中は昼間だというのに暗かった。採光窓が確かにあるはずだというのにこの暗さはおかしい。とりあえず灯りが必要だな。


「ララ。灯りを出せるか?」


「は、はい。"ライト"」


 ララが魔法を唱えると、ぽわんと光の球が現れた。中々の光量であるのに、数メートル先が暗闇で見えない。これはもう半分異界化してるのではなかろうか。

 とにかく光での視界確保が怪しいことがわかったので、代わりに魔力感知を全開にする。

 これならば屋敷全体くらいはカバーできるだろう。

 大きな魔力の反応は、2階だな。


「エミリア、2階だ。階段を探そう」


「了解!」


 階段は存外早く見つかった。

 ちょうど正面に二股に分かれる階段があったのだ。

 という事は作り的には先程の広間はエントランスホールであったのだろう。居住スペースは2階というわけだ。

 階段をゆっくりと上がって行く。

 どうでもいいが腰に纏わり付いているララがちょっと邪魔だな。これでは高速戦闘に支障が出る。

 大きな魔力の反応は現在ゆっくりとこちらに近づいて来ていた。こちらからも近付いているので、間も無く接敵するだろう。


「エミリア、そろそろだ。警戒しろ」


「わかったわ。"堅守"は使った方が良い?」


「いや、必要ない」


 何故なら怨霊はもう姿を現しているからだ。小太りした中年の姿で、胸に無数の刺し傷がある。

 そいつはあろう事かエミリアの首に両手を伸ばそうとしていた。


「おい、お前。何をするつもりだ?」


 ララを横抱きにし、瞬時に怨霊に近付くと黒い極光を右手に纏わせながら、その手で怨霊の頭を鷲掴みにした。


『き、貴様!何故私に触れる!?』


 ほう。知能があるらしいな。声が頭に直接聞こえてくる。喋ると鬱陶しいので掴む力を強くした。

 怨霊は悲鳴をあげて暴れ回るが、当然離しはしない。


「きゃあ!!なんですか!?なんですか!?」


 ララは急に横抱きにされ高速移動をした事で混乱の極みにいた。体勢的に目の前の怨霊の姿は見えないが声は聞こえるという状態なのだろう。可哀想なので降ろしてやる。


「こいつが怨霊ね!霊なんて初めて見たわ!胸が刺し傷だらけね。どれだけ恨まれてたのかしら」


 エミリアは楽しそうだった。お前呑気な事言ってるけど、首絞められそうだったからな。


「ほえー、これが怨霊ですか」


 ララも実体を伴って捕まえられてしまうと怨霊への恐怖も半減なのだろう。興味深そうに怨霊を眺めていた。


「さて、ララ」


「はい?」


「浄化してみるか?」


 俺がこのまま消しとばしてもいいが。出来ればララに浄化を経験させておきたいところだ。


「は、はい!やってみます!」


「よし、こんなだが力はかなり強いぞ。浄化魔法は全力で使え」


 何せ俺の腕を万力のような力で握っているからな。万力程度の力では俺の腕を外すことは残念ながら叶わないが。


「いきます!"ピュリフィケーション"」


 穢れを容赦なく浄化する聖なる光が怨霊を包み込んだ。

 怨霊の絶叫が辺り一帯に響き渡った。その余りの声量と、直接頭に響く声が相まって頭痛がする。

 ララの全力の浄化魔法を受けた怨霊であるが、それでもまだ健在であった。

 さすがは神殿の浄化を跳ね除け、屋敷を異界化させるほどの魔力を発する怨霊だ。これはもうエルダーレイスクラスなのではなかろうか。


『ぐぅ!女!女ぁ!!』


 女によほどの恨みを持っているらしい。頭を掴んでいる俺ではなくララを睨み付けている事からもそれがわかる。まぁ、正妻に惨殺されたらしいしな。恐らく正妻に殺された他の霊魂もその恨みまで吸収したのだろう。だからこんなにも強い。


「ララ、まだ魔力はあるな?」


「はい!まだまだ余裕です!」


「ならこいつを消しとばすまで浄化魔法だ」


 初めての浄化経験を失敗で終えるのはいただけない。この経験が苦手意識に繋がりかねないからだ。

 俺が消し飛ばすのは容易だが、ここは何としてもララにやってもらおう。


「じゃあ動き止めるわねー」


 エミリアは暇なのか縛式で怨霊の四肢を縛ると、怨霊は磔の状態になった。怨霊は抵抗しているが、エミリアの縛式はビクともしない。


 これなら頭を掴んでいる手を離しても良さそうだな。

 その後怨霊は合計6回目の浄化魔法によってこの世から消えた。

 ごとん、という音を立てて魔石が地面に落ちた。

 それを拾う。サイズは20センチほどある。

 とても質のいい魔石だが奴から取れたと思うととてもではないが自分で使う気にはなれない。これは売りだな。


 怨霊が消えると、霧が晴れたように暗闇が消えていき、暖かい午後の日差しが差し込んだ。

 これで怨霊浄化完了だ。


「ララ。よくやったな」


「えへへ。浄化出来ました」


 全力の浄化魔法を6回も使ったというのにララはまだまだ余裕そうだ。

 エミリアもそうだが、うちの家族はみんな魔力量が人並み外れているな。


 念のため屋敷内を全て見て回り、怨霊の痕跡がない事を確認して、俺たちは外に出た。

 屋敷の周囲の濃密だった魔力はすっかり散っていた。


「皆々様方流石のお手際でございます!このトーマス、感動致しました!」


 相変わらず芝居掛かった不動産屋店主が俺たちを迎えた。

 さて、怨霊の浄化はあくまで"ついで"であり、今回の本分は屋敷の見学である。

 隅々まで屋敷を見回った俺達。

 エミリアとララを見る。二人とも力強く頷いた。


「この屋敷、買わせてもらおう」


 そこからは早かった。

 喜び勇んだ不動産屋トーマスはすぐに職人を手配し、屋敷の修繕に取り掛かった。

 屋敷修繕の代金はサービスしてくれるそうだ。

 その手際の良さと気遣いが、貴族御用達としての彼の立ち位置を支えているのだろう。

 確かに俺も彼なら他人に紹介できると思えてしまった。やはりエミリアの目利きは正しかったのだ。トーマスはやはり最後も芝居がかった口調で挨拶をし、帰って行った。


 大工職人達は素早く屋敷を視察し、2日後にはこの屋敷を綺麗に修繕する事を約束してくれた。

 これはかなりの早さであり、なんでも元の屋敷の状態が良かったとか。あんな主人ではあるが、屋敷の扱いは良かったらしい。

 兎にも角にも、これで俺たちは家を手に入れた。

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