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最強魔王が異世界で勇者になりました  作者: 湯切りライス
第1章ヤマト王国編
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魔王神殿に行く

 試験に無事に合格し、Bランクに昇格することができたので用の済んだ俺たちは冒険者ギルドを後にした。

 マチスからは、


「お前さんならすぐSランクになれるだろう」


 と言われたが、ひとまずはAランクを目指したいと思う。

 ランクを上げれば依頼金額も増えるからな。

 自由にできるお金は少しでも増やしておきたいところだ。

 明日からギルドの依頼に取り掛かるとしよう。


「さて、それじゃあ暗くなる前に帰りましょうか」


「・・あの」


 エミリアがそう提案し、皆が頷く中、リーフィアがおずおずと声をあげた。


「どうしたの?リーフィア」


「最後に、神殿に行ってみたいんですが・・ダメでしょうか」


「神殿くらいなら別に良いけれど、どうして?」


「勇者様をこの世界に遣わせてくれたのはアルカ神様ですよね。その勇者様のお陰で私の体質が治ったので、一度お礼を言いたくて・・」


 ああ、そうか。

 俺をこの世界に呼んだのはそのアルカ神とやらって事になるのか。

 もしかしたら、召喚される前に白い部屋で見たあの美しい女性こそがアルカ神だったのかもしれない。


「俺は構わんぞ。俺も神殿に行ってみたくなった」


「そう。じゃあ暗くなる前に行っちゃいましょうか」


 アルカ神殿は冒険者ギルド本部と城壁東門のちょうど中間地点にある。

 俺達はそう時間も掛からずに神殿の前に到着した。

 神殿もギルド本部に負けず劣らず大きな建物であった。

 いや、荘厳さで言えば圧倒的にこの神殿がギルド本部を上回るだろう。

 建物の外装も内壁も全てが真っ白に塗られている。

 天井は非常に高く、天井部分には様々な装飾が施されていた。

 そして、神殿の正面の一番奥には、アルカ神の白い石像が鎮座していた。

 その石像は、召喚される前に白い部屋で見た女性の姿にそっくりであった。


 やはり、お前が俺をこの世界に連れてきたのか。

 

 勇者召喚はアルカ神からのお告げがあった時しか成功していないという。

 それも、過去には俺を除けばヤマトのみだ。

 ならばやはりこちらの世界の住人が召喚した、と思うよりこのアルカ神がこの世界に連れてきた、と思う方が正確であろう。


 前の世界に家族を残してきていたとしたら、きっと真剣に元の世界に帰る術を探しただろう。

 また、前の世界の戦争がまだ終わっていなかったとしても、それは同じだったように思う。

 しかし。前の世界に家族は居ないし、戦争も終わった。

 ならばあのヤマトが作ったこの国のためにまたこの力を奮ってやろう。

 最近俺はそう思うようになってきていた。


 エミリアとリーフィアが祭壇に上がり、膝をつき手を組む。これがアルカ神教のお祈りの仕方なのだそうだ。

 俺も2人に倣い同じように祭壇にのぼる。


 魔王を倒したらこの世界と向こうの世界を行き来できる魔法でも開発しよう。

 そう考えながら膝をつき手を組んだら、意識が遠くなっていった。



 次に気が付いた時にはあの白い部屋だった。

 一面が真っ白の部屋。この世界に召喚された時にきた、あの部屋だ。

 そしてあの時と同じように身体はピクリとも動かせず、視線は正面に固定されたままだ。

 そして視線の先には見覚えのある女性。神殿の石像にそっくりな顔。アルカディア神、つまりはこの世界の創造神である。

 アルカディア神は前と同じでやはり悲しげな表情でこちらを見ていた。


「偉大なる魔王よ」


 頭に直接声が聞こえる。


「王都に災厄の芽が迫っています。どうか気を付けて」


 その声を最後に視界が白く染まっていく。

 次に来るときは会話してみたいものだ。

 その思考を最後に、視界全体が真っ白に染まった。



「・・スター。ディスター!」


 次に気付くと、目の前に困惑気味のエミリアの顔があった。


「なんだ?」


「なんだじゃないわよ。呼んでも微動だにしないんだもの。心配したわ」


 言われて立ち上がると、なるほど、確かにおかしかったのだろう。周りにエミリアやリーフィア達が集まって困惑気味の視線を向けていた。

 周囲にいた司教達も同様の視線を向けている。


「大丈夫だ。とりあえず出よう」


 そう言ってエミリアの背中を押して退出を促す。

 そしてエミリアの耳元に顔を寄せた。


「神に会った。後で詳しく話す」


「・・っ!わかったわ」


 その後視線を感じながら神殿を早足で後にした。


 ◇


 その夜。

 食事を終えて湯浴みも終えた俺はシスの案内で城の一室に向かっていった。


「こちらです」


 シスに促され、部屋の扉をノックした。

 中から「どうぞ」という聞き慣れた声が聞こえたので、ゆっくりと扉を開けた。

 その瞬間、柑橘系の香がふわりと香った。エミリアの匂いだ。


「来たわね」


 部屋の中には大量のぬいぐるみが、あるわけでもなく、落ち着いた印象であった。

 特段広いわけでもなく、散らかっているわけでもなく、それでいて適度に生活感を感じさせる生々しさがあった。

 エミリアは既に寝巻きに着替えており、ベッドに腰掛けていた。

 リーフィアの私室のように椅子があるわけでもない。どこに居座ろうか目を移ろわせていると、エミリアが自身の隣をぽんぽんと叩いた。

 なので、ゆっくりと、エミリアとは距離をしっかりあけて、彼女の隣に座った。

 それに対して彼女はムッとした表情になると、ずいっと移動して引っ付いてきた。

 近い。いい匂いがする。やめてくれ。


「さて、何があったか話してもらいましょうか」


「・・まず最初に奴に会ったのは、この世界に召喚される直前の事だ」


「確認だけど。奴っていうのはアルカディア神の事ね?」


「そうだ。だが、会ったとは言っても会話ができるわけじゃないんだ」


「どういうこと?」


 エミリアは首を傾げた。

 艶やかな金髪が肩からサラリと落ちていった。


「急に一面真っ白な部屋に呼び出されてな。こちらは身体をピクリとも動かせず、もちろん声も出せない。そんな部屋に奴は居て、一方的に話しかけてくるんだ」


「なるほど、変な状況ね。なんて言ってたの?」


「その時は大したことない。どうか私の世界を救ってください、とだけ言われて終わりだ」


「ふんふん。それで?」


 ずいっと顔をこちらに向けてくる。

 彼女の息遣いが耳元で聞こえた。

 彼女の方は向かず、言葉を続けた。


「2回目に奴に会ったのがさっき神殿で礼拝した時だな。状況は同じだ。白い部屋で身体は動かず、ポツンと奴が1人佇んでいた。奴は言った。王都に災厄の芽が近付いています。どうか気を付けて。とな。それで2回目は終わりだ」


「王都に災厄の芽・・」


 そう言って考える素ぶりを見せるエミリア。


「何か心当たりはあるか?」


「創造神様がわざわざ警鐘を鳴らすほどの災厄。つまりは魔族関係よね」


「やはりそうか」


「でも、この王都は結界で守られているから、魔族も魔物も入ってこれない筈なのよね・・」


 腕を組んでしばらく正面を見ながらエミリアは唸っていたが、やがてハッと気付いたようにこちらに向き直った。


「もし、人族の誰かが手引きして結界を破壊したとしたら・・」


「結界は魔道具で張られているのか?」


「ええ。この城の中にあるわ。普段は厳重に警備されているんだけれど。式典の時は人員が足りなくて警備が薄くなるの。もしその穴を狙って破壊するのだとしたら・・」


「なるほど。それに乗じて攻め入ったら王都は大混乱に陥るだろうな」


 エミリアの顔に緊張が走る。


「・・この事は他の誰かに話した?」


「いや、お前にしか話していない」


「そう、よかった。話してくれてありがとう。なら他の人に聞かれても話さないで。誰が敵なのかわからない。秘密裏に調査するしかないわ」


「・・信じるのか?」


 普通に神に会ったと言って話した内容をすぐに信じたりしない気がするが。


「当たり前じゃない」


 当たり前らしい。

 エミリアは無条件の信頼を向けてくれている。

 ならば俺はこの信頼に応えなければならない。


「・・どんな危機が来ようと、俺の手の届く範囲にいる限りは守ってやる」


 ああでもないこうでもないとブツブツ言いながら考える様子であったエミリアは、俺の言葉を聞いて目を丸くすると、やがてプッと噴き出した。


「顔が赤いわよ」


「灯りのせいだろ」


 だからにやにやと笑いながら指で俺の頰を突くのはやめろ。


「その手の届く範囲には私は入っているのかしら?」


「・・ああ」


「・・そう」


 エミリアは頰を突くのをやめると、ニコリと柔らかく微笑んだ。


「さすが序列1位様は言うことが違うわね」


「茶化すな」


「ふふ、ごめんなさい」


 そう言ってエミリアはゆっくりとそのしっとりと濡れた唇を俺の耳元に寄せた。


「頼りにしてるわよ」


 そうしてこの日の夜は更けていった。


 ◇


 周囲が寝静まった夜。

 その男の私室の蝋燭はごうごうと燃え盛っていた。


「それで、奴の力はどうだ?」


 そこには男が2人居た。

 1人は鮮やかな金髪と不気味な目をした男、第1王子スーガード・ヤマトであった。


「あれは化物の類であるな。少なくとも我輩では逆立ちしても敵わないのである」


 もう1人の男は不健康そうな顔色に緑色の短髪が特徴の男であった。彼は気怠そうな雰囲気を隠そうともせずにスーガードと向き合っていた。


「ならば数を当ててみるのはどうだ?」


「奴の継戦戦闘能力がわからないので何とも言えないのである。試してみるであるか?」


 スーガードは男の言葉にねめつけた視線をつきつけた。


「できるのか?」


「容易いのである」


「ならば、やれ」


「承知したのである」


 そう言って緑髮の男はずぶずぶと影に沈んでいき、やがて消えた。


「もうすぐ。もうすぐだ・・」


 スーガードの呟きは闇に消えていった。

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