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神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第1章 第2シーズン ハーネイト&DG連合VSヴィダール・ティクスの邪神
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第91話 もう一つの秘密


「私は、あなたを異性として、好きだと言いたいのです!」


 エレクトリールは、勇気を込めて自身の気持ちをしっかりとハーネイトにぶつけた。


「異性、だと? まさか、エレクトリールは女性だったのか?」


 しかしそれを聞いたハーネイトは、その事実に体が固まってしまったのであった。


「本当に、気づいていなかったのですね。流石に呆れてしまいます」


「嘘、だろ。確かに最初見たとき判断に困ったが、迂闊だった……な。もっと調べておけば、ってそれもあれだな」


「はは、それじゃあ無理ですよね。あれ、ハーネイト、さん? ねえ?」


 エレクトリールがハーネイトの異変に気付き、駆け寄るも間に合わず、彼は地面に倒れこんだ。


「お、おい!あ、これはエネルギー切れじゃないな」


「どうしたのよ、そんなにショックだったの?」


 2人の呼びかけにもハーネイトは応じない。いきなり目の前で倒れたことにエレクトリールは戸惑うも、すぐに動いた。


「と、とにかくそこに寝かせます」


 エレクトリールはすかさずハーネイトを仰向けに寝かす。そして様子を見るも、特におかしいところは見当たらなかった。


「特に異変は、ないですね」


「仕方ない、先ほどの疲れも来たのかもしれないな。それか、前に聞いた魔女の一件か……」


 ヴァンはハーネイトがホテルを出てから何をしていたかをエレクトリールに話した。


「そう、だったのですね」


「相棒は昔から女運のなさが酷かったってな。自身で嘆いていたぜ。魔女による酷い仕打ちが何よりも堪えたと」


「それって、どういうことですか?」


「相棒は、ある化け物に対し一方的に勝てる超レアな奴や。その秘密を探ろうとした連中に追い掛け回されてたとな。大方、こいつの力を解析したり取り込めば怪物にならずに済む、そう思ったんやろ」


「女性不振になるほどに、ひどい拷問とか仕打ちを受けたって、言っていたわ」


 ヴァンの、ハーネイトに関する話にエレクトリールは、自分も昔同じように体を調べられ嫌だったことを思い出した。またリリーの話を聞いて全く知らなかったとはいえ彼への配慮が足りなかったなと悲しくなる。


「ここからはとりあえずオフレコってことでいいか?」


「わ、わかりました」


「相棒の力は、俺の持つ力と同じ龍の力ってのが宿ってるんだと、霧の龍ってのが教えてくれたんやが、それは元々この星の古くから住む住民なら誰も持っている。その力を持つ奴は恐ろしい怪物にも対抗できるが、俺も相棒もその力が常軌を逸してるとな。その分負荷がかかっている。それを理解したうえで、相棒のことを見てやれ」


 ヴァンの話をリリーとエレクトリールは黙って聞いていた。どういうことか理解するのに時間がかかりつつも、やはり彼が只者ではないということだけはわかった2人であった。


「相棒の遺伝子は複数種族の特有遺伝子がきれいに配列され、それぞれの能力を最大限に発揮できるように構成されていた。あまりに出来すぎていて目を疑ったほどだ。もしも彼が戦闘用に作られたものならば、それ以外の機能を排除している可能性がある。下手すれば人間としての感情もなかった所だが、彼は様々な出会いと辛い体験が人としての心を形成しているみてえだ」


 ヴァンはハーネイトの体を分析した結果をそのまま述べた。そして戦うために作られたのならば、それ以外の感情を排除した方が兵器として完成したものになる。だからこそ違和感があるではないかとも説明する。


「だから、恩師さんのことをあれだけ思い感謝していたのは」


「彼女が人として大切な感情をあいつに宿らせたからやろうなリリー」


「その人に、感謝しないといけませんね。あれほどいい人として育ったのがその人のおかげなら」


「しかし、内なる力の数々に悩み続け、生きていてはいけないと自身で思うほどに思いつめていたのを知るとな……。どうも変にいい人な感じの性格が歪んでいるのも事件のせいだろうぜ」


「自分も、大切な友を失った過去があります。誰かを失うのは、とても胸が張り裂けそうになります」


「それを味わっているなら、ハーネイトの傍にいても大丈夫だろうな。しかし彼の傷が治るのか、いつになるかはわからん。それと……ハーネイトの胸に埋まっているアイテムは、正直存在してはいけない代物だ。まあ、俺の中にあるのもそうなんだけどな」


 ヴァンは自身の胸に手をゆっくり当てながらそう言った。そして彼はハーネイトがこの先の選択次第でどうにもなれると信じていた。


「しかしそれを上手に扱いきれるならば彼は、人としての幸せを手に入れることができるはずだ。本当に、あいつのことが好きならば待つことも時には必要だ。信じられないとは思うが」


 ヴァンの言う言葉に嘘は感じられず、エレクトリールは少し黙って、一言考えてから言葉を口に出した。


「そう、ですね。私も彼には違和感をたくさん覚えていました。なぜイマージュトリガーを初見で使いこなしたり、異空間に物を転送できるのか。そして父とも母ともとれる雰囲気、あの超常的な能力。考えれば、おかしい点がありすぎますね。今思えば、確かに」

 

 エレクトリールは、初めて会った時から抱いていた幾つかの疑問点について、ヴァンの話と合わせてそれならば仕方ないと自身に納得させていた。


「でも、ハーネイトは私たちにとってはかけがえのない存在。そしてハーネイトもみんなを愛していると思うわ。前にね、ハーネイトがこう言っていたの。私にとっての宝物は、みんなの笑顔だって。そんな純粋な願いを、あの無垢な笑顔で言われて私は本当にこの人は神様なんじゃないかって」


 以前霧の里で南雲や風魔たちと話をしていた時のことを思い出したリリーはエレクトリールにそのことを話した。それにヴァンが話をつなげる。


「器の格が違うというか、そうあるべきように存在しているみたいだ。まあ当の本人は王を目指すというよりは、解決屋としての仕事が性に合っているように見えるがそれでも、恩師の最期の言葉ってのがあいつを実質縛っている。目指すべき目標も、とても厳しい物もあるからな」


「もったいない、と思います。あれほどの力をもちながら、なぜ」


「まあ本人にその自覚がないならなあ。それか周りが気づかせて、そうなるように仕向けてみるってのもありなんだろうが、俺は相棒自身に気づいてほしいのさ。お前の存在と行動が、多くの命を救ってきた。だから、もう祝福されずに生まれてきたなんて言うなってな」


 ヴァンとエレクトリールはそう話し、寝ている彼の方を見ていた。誰からも愛され、信頼されるこの男ならば、さらに高みに行けるだろう。しかし当人にその気がないならば、そうなるように周囲が意識して誘導してみるのも一興かと、そうヴァンは考えていた。


「私は、ハーネイトさんが王様になったところを見てみたいです。万人を支配するようなあの力、私にはないです。力を持つと自覚した人は、その力を最大限に行使するのが責務ではないかと、私は考えています」


「その意見は俺も同じなんだが、あいつは昔に囚われすぎている。それが懸念だぜ。それとよ、エレクトリールは、なぜ力に固執するんや? 何かあったんやろ?」


 ヴァンの質問に、エレクトリールは過去に起きたことを一から説明した。それを聞いてヴァンは納得したものの、それが危ういものであると考えていた。


「確かに、力があればと思うのは誰だってそうだ。しかしエレクトリールは力という概念に囚われ過ぎている可能性があるんじゃねえのか? 気持ちは分かるがな」


「し、しかし。私にはどうしても力がいるのです。そして、それを一番に仕えたい人に捧げたい、のです」


「ふうむ、気持ちはわかるが、肩の力を抜いて、一度冷静になるのもありだと思うぜ。何事も力入れ過ぎては力み過ぎてうまくいかねえ。ハーネイトはそこんところは地味に上手なのさ。だから疲れていても力をあれだけ出せたのだ。相棒もまだまだなところは多いが、そこは学んでもいいところだと思うぜ」

 

 ヴァンはハーネイトの行動について見習うべきところもあるのではないかとエレクトリールにアドバイスしてみた。彼自身もたまに相棒である彼の行動にやきもきさせられることがあったが、それも彼らしいなと自身は彼の在り方を受けいれていた。


「力の異能さ故に迫害されたり辛い目に遭ったなら、ハーネイトの気持ちもよく分かるはずや。俺もそうやったけどな。もう一度冷静になって、あいつと向き合ってみてくれ」


「そう、ですね。はい。もう私は故郷には帰らず、ずっとハーネイトさんのそばにいます。そう決めました。常に傍にいて、彼を見ることで何かわかってくることがあると、思います」


「それも1つの答え、なのかもね。エレクトリール、私たちは当の昔に覚悟を決めたけど、貴女も覚悟を決めてくれて嬉しいわ。でも無理しないでね」


「まあ無理しなくていいさ。自分にできることを、やるまでさ。それでいいんだ」


 エレクトリールの言葉にヴァンとリリーはそれぞれ自分のペースでうまくやるといいと助言をした。


「自分に、できること。ですか。……ヴァンさん、リリーさん、今日はありがとうございました」


「気にするな。俺たちはもう仲間だ。ふああ、悪いがハーネイトを部屋に運びに行こうぜ」


「はい」


 ヴァンたちはハーネイトを抱きかかえて、南雲やリシェルたちのいる部屋に彼を連れ込んで、そっと寝かせた。


「お疲れ様です、ハーネイト師匠。しかし嫌な予感がここで的中ですか」


 リシェルは以前日之国であったことを思い出し、とうとう師匠がエレクトリールのことに気づいたのかと半分ほっとし、気がかりでもあった。


「すみません、みなさん」


「知らないものは仕方ないでござるよ。次にそうしなければいいだけですしな」


「はい、確かにそうですね」


「それじゃ、みんな寝ましょう?今日の夜は長いと思うからね」


「そうだな、ではお休み、だぜ」


 こうして全員はその部屋で朝まで寝ていたのであった。


 翌日、ハーネイトは目覚めると気分があまり良くなかった。昨日の一件で疲れがまだとれていないのだろうかと考えたものの、どこかでそれは違うような気がしつつ、ゆっくりと立ち上がった。


「はあ、まだみんな寝ているな。外の風にあたってくるか」


 そうしてハーネイトは、静かに部屋を出て屋上に向かった。それに気づいたエレクトリールは彼の後ろをこっそりとついていった。


「仲間も増え、大切なものも理解した。しかしこの先、どうなるだろうか。今まで以上に複雑な様相を見せている」


 ハーネイトは、リンドブルグを旅立ってから起こったことを思い出していた。そして今まで以上に、これから大変なことが起きると予感していたのであった。


「お、おはようございます、ハーネイトさん」


エレクトリールは、屋上まで来てハーネイトに声をかけた。まだ夜が明ける前、シティがドーム状の魔法結界で守られているとはいえ、砂嵐は防ぎども風は街を通り抜ける。周辺は砂漠で時折非常に冷たい風がホテルの屋上を激しく吹き抜けていた。


「エレクトリールか。昨日は、すまなかったな。途中までしか話を聞けずに」


「い、いえ。私は大丈夫です」


「出発までまだ時間はある。話を聞くぐらいはできる」


 ハーネイトは昨日の話の続きを聞こうと、エレクトリールにそう言いながら少しづつ上りゆく朝日を見ていた。


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