表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第1章 第2シーズン ハーネイト&DG連合VSヴィダール・ティクスの邪神
94/209

第90話 エレクトリールの苦悩と侵略魔将軍・Dカイザー


「起きていたのか。エレクトリール」


「はい、ハーネイトさん」


「何かあったのか?」


「はい、実は故郷から通信が届きました」


 ハーネイトの問いに、彼女は笑顔でそう答えた。しかしどこか作り笑いをしていて、浮かない表情も見せていた。


「そうなのか、それで何かあったのか?」


「はい。襲ってきたDGの軍勢は、故郷にいるみんなと宇宙警察というDGを追う集団により壊滅し、こちらの勝利と私の部下から連絡が来ました」


 エレクトリールの口から発せられた言葉にハーネイトは驚きながら目の色を変える。


「勝ったのか。あいつらに。あいつの言っていたことは本当だったのか。驚きだな」


「あいつ? しかし、複雑な気分です……」


「なにか言いたげなことがあるのか? 話なら、いくらでも聞こう。リシェル、アーディンたちを部屋に案内してくれ」


「了解しました。ではお先に失礼します。兄貴たち、こっちだよ」


 リシェルはアーディンらをハーネイトの拠点の部屋に案内するためエレベーターに乗り込んだ。


「さて、と。ヴァンとリリーはなぜここに?」


「別にいいじゃねえか」


「構いませんよ」


 エレクトリールは優しく、そのままでいいとハーネイトにそう言いヴァンもリリーも、彼女の表情を見て心配していたのであった。


「ならいいのだが」


「ええ。…私は、みんなを守るためにすべてを捨てて、軍人になりました。しかし今回の一件では私だけあれを守るため逃げ出しました。そしてそれでもみんなが戦っていたことや、指揮官がいないのに勝ったことについて、複雑な感情を抱いています。そして戻ってきてほしいと言われてもどんな顔をして戻ればいいのかわからないのです」


 彼女の表情が話を進めるたびに段々暗くなっていく。ハーネイトもそれをすぐに察して言葉を返す。


「立場、か。軍人ならではの悩みか」


「確かに、同じ立場なら帰りづらいな。昔のことを思い出す」


「昔のこと?」


「ああ。だがお前の故郷には平和が戻った。それは嬉しいことだし素直に祝ってもバチは当たらないだろ」


「そう、ですかね……」


 ヴァンはエレクトリールの心情を察して祝うこと自体に罪はないと助言をする。それに比べ自身など、兄から疎まれ、人の世界で喜びと悲しみを知った挙句、失意のうちに故郷に戻ると街が火に包まれていた。すべてを失った辛さとは違う、エレクトリールたちの勝利。どこかうらやむように、けれど彼は純粋に祝っていた。


「もし帰りたいなら、私は止めない。シャムロックならばあの船を直せるだろう。あいつの腕は確かだ。エレクトリール、どうした」


「どうして、どうしてそんなことをいうのですか?」


 ハーネイトはいつでも帰れると言うも、エレクトリールの表情は険しく、凍てつくような雰囲気を感じていた。


「えっ、故郷にいる仲間たちや親に会いたくはないのか?」


「私は! 既に親からは勘当されています。ずっと、孤独だった。だからこそ、みんなと、みんなといたい! もう1人にしないで……あなたたちと、ずっと一緒にいたいのです。なんだか、家族って感じがして、居心地がいいのです」


「家族、か。エレクトリール。君の意思を尊重する。だがいつでも準備はできているからな、その時は言ってくれ」


 アポロネスから聞いたエレクトリールの話を思い出し、失言をしたなとハーネイトは反省した。そしてハーネイトは、昔のことを思い出しながら、エレクトリールも孤独という不安の中生きてきたのだなと気持ちを共感していた。


「ありがとう、ございます。ぐすっ、私は、貴方のことが大好きで……。少しだけ嫌いです」


「それは、どういう意味?」


「ハーネイトさんは優しいし、色んな人や物を受け入れる器の広さがあります。それが私にとっては嬉しかった。だけど、1つだけ嫌いなところがあります。あれだけの力と人望がありながら、どこか距離をまだとっているような振る舞いをしたり、人を惑わせたりするところです。あなたのことを好きな人は、他にもたくさんいますでしょう。でも、気持ちに気づいてもらえないのは、とても悲しいです」


 ハーネイトはエレクトリールの言葉の意図がいまいち読めていなかった。これは彼が魔女などにひどい仕打ちを受けており、対人関係、その中でも特に女性関係について彼はあまりいい思いをしてこなかったために、どこか無意識に距離を取る癖がありそれが原因の1つである。


「何を、言っているのだ。エレクトリール」


「私は貴方のことが好き、だから何があっても死んでほしくない。貴方のような強い人なら、私の前から突然いなくなることなんて、ないでしょう? 私にはもう、ハーネイトさんしか見えない。これほど誰かを好きになったのは、初めて、なのです」


エレクトリールの思いが言葉となり、それが幾つもハーネイトに突き刺さる。しかしハーネイトはエレクトリールをまだ若い男性だと認識していた。だがエレクトリールは女性である。この認識のずれが、2人を苦しめることになっていた。


「人としての好き、なのか?」


 ハーネイトのその言葉に、エレクトリールは睨み付けるようにハーネイトの顔を見ていた。それは違う、と表情で示したかったからである。




 そのころ、ハーネイトたちに助けられたフューゲルは南大陸に移動し、上司であり親でもあるDカイザーのもとにいた。


 そこは一見何の変哲もない岩山だが、その中は入り組んだ迷路のような要塞と化しており、その上層部にあるとある部屋でフューゲルはDカイザーに一連の報告をした。それから彼から報告を聞いたDカイザーは、少し肩を落としながら息子に話しかけた。


「やれやれ、やりすぎも困るな。フューゲルよ」


「しかし必要な情報は集めましたし、あなたの言っていたフォレガノ総長にはじきに会えると思います。ハーネイトの居場所も再度把握しました」


「それはそうなのだがなあ。ふむ。我らが恩人ジルバッドを殺したあの魔法使いの居場所を掴んでいても、あまりに強力な結界のせいで侵略魔ですら侵入できん。内部がどうなっているのかすら不明だ。コズモズの力に干渉できるとなると、ヴィダールの縁のものしかおらぬはずだ。DG、面倒な相手じゃぞい」


 フューゲルが侵略魔であることは以前説明したが、この見るからに悪の総帥のような、黒マントに身を包み紫色の角を頭部から3本生やした悪魔、Dカイザーはその上に立つ存在であった。


 彼は人にあらず。しかし人の心をジルバッドから得た。その後かつての上司であり父でもあった、行方不明になっていたフォレガノの行方を追い天神界に彼らを連れて行き、そこで生まれて半年ほどのハーネイトを連れ帰ってきたのである。しかし正確には、もっと複雑な過程がそこにはあった。


「そう、ですね。彼の内なる力なしにあれの突破はできないでしょう。同じVの力なら、ば」


「やれやれ、近いうちにハーネイトに会うしかないな。しかし運命というものは恐ろしい。他の世界を侵略しに来たのに、今では他の世界のために動いているとはな。シルクハインの言葉は嘘には聞こえなかった。そうなれば、女神に対抗できるのはハーネイト、お前だけなんだ。女神ソラの目論見、今ある世界を破壊するというそれを阻止できるのはな」


「はい、我らの呪いを解こうと尽力してくださったあのVの龍魔人、ドラギスのためにも」


 アクシミデロ星にいるわずかな侵略魔たちは、未来に高い確率で起こりうる災厄を感じ、それに対抗するため動き出していたのである。


 それからDカイザーは、ヴィダール・ティクス神話における例の女神の妹について考えていた。


 伝承では女神ソラが父と母を封印した際に、助けようとしたのが空の妹、ヴァルナーであった。しかしそれ以降彼女の記述はない。それがどうしても頭から離れられずにいたのであった。


 そして、天神界で感じたソラの波動と、今この世界で感じ取っている、波動の感じこそ似ているがわずかに違う気を比べながら感じ、もしかすると相当危険な状態ではないかと彼は推測していたのであった。


 その一方で、白い男ことオーダインはある山の頂から地上を見下ろしていた。


「うーん、いい感じ。しかし物足りない。ハーネイトと一度手合わせしたいな。彼がこの世界で何を見つけ、何を得て、何を力にしたか。全力で感じたい」


 彼はそう考えながら、仰向けに寝転がり空を眺めていた。雲は風に乗り早く流れ、時折強風が山を通り過ぎていく。自然を満喫しながら彼は、あることを考えていた。


「天神界を作り出すきっかけとなった伝承上の女神、それが実在する神だった。それが私たちの最大の不幸。彼女を止めなければ、何もかもが終わる。人間界だけを消すなどと言っていたようだが、そんなことをすれば他の世界もすべて消えてしまい、女神は孤独となる。なぜ私たちが先に気づいたのだろうか。本当に」


 オーダインもまた、侵略魔たちと同じ未来の危機を感じていたのである。それは、ハーネイト、そしてヴァンが長い長い戦いに巻き込まれるという未来を確約しているものであった。


「それにしても、拠点はほとんど潰したはず。なのに勢いが衰えない。謎だな」


 そう彼は考えつつ、短いひと眠りに入った。早く会いたい気持ちを少し抑え、今は力をためてからそう決戦に備えるため、彼は精神を研ぎ澄ませていたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ