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神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第1章 第2シーズン ハーネイト&DG連合VSヴィダール・ティクスの邪神
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第89話 怪盗たちの理由と本音


「だったらついていくわよ! 本当は、本当はっ!」


 エフィリーネが大声で必死に、ハーネイトたちに向かって叫んだ。


「私たち、バイザーカーニアの中じゃあまり出来が良くないってか、アーディンお兄さんはともかく私とルシフェスは他の人たちからバカにされていたのよ。属性魔法を使えないってことだけで。それでも大先生はしっかりと面倒を見てくれた」


「それが仕事だったからな。見捨てるようなことはせん」


「ええ、詠唱なしで物を切ったりくっつけたり、治したりしたのを見せてくれた時、魔法って属性に依存しなくても使える方法があるって。先生から教えてもらったわ。確かに、私たち悪いこといっぱいしてきたわ。でも、でも。もっと先生に見てほしかったの、構ってほしかったの!」


 彼女たちは、ハーネイトのもとでもっと様々な魔法を教えてもらいたく、関心を引くために魔法で悪事を働いていたのである。


 生活費を稼ぐという意味もあったが、それ以上に出来の悪かった自分たちに、決して諦めずに熱心に指導をしてくれた先生であるハーネイトに追いついて、側にいたいという思いが強かったのである。


「はあ、全く。あれは、魔法ではなく、魔眼だ。しかも世界の理すら変えかねない代物だ。仕事で出力を抑えて使ったことはあるが、それも魔法に偽装していたものだ。一般人には見分けがつかない」


「え、ええ? 先生そんなすごい力を持っていたの?」


「す、すげえ。比較にならなすぎる。あれ魔法じゃなかったのかよ」


「道理で、魔力を感じられないと」


 エフィリーネとルシフェスはハーネイトのその言葉にそれ以上言葉が出なかった。また既にアーディンは、ハーネイトがたまに魔力反応なしで魔法を行使していたことに疑問を持っていた。そのトリックが分かり納得していた。


 そしてハーネイトは3人のもとに来て、3人をまとめて思いっきり抱きしめた。


「っ、この、大バカ者っ。私の真似をするなとあれだけ。1つ言っておくが、私はお前たちを落ちこぼれとは一度も思ったことはない。というか、私を負かした時点で、特殊魔法戦においてお前らは私の技量を上回っていたのだ。もう、あんな真似はやめるのだ。私の見よう見まねで、魔法をそこまで変化させられたお前らこそ、優秀な生徒だ」


 ハーネイトは心の中で感じていたことを優しく、素直に3人に話し諭した。その声は、まるで誰もが母親の腕の中で抱かれたような、不思議で温かくなる優しい声であった。これこそが、ハーネイトが無意識に発動する、万人を魅了し改心させる女神の権能、力であった。


「そもそも、私が君たちの無属性特殊系魔法を習いに頭を下げたのを忘れたか全く」


「う、うわああああん!」


「すまねえ、すまねえ先生!」


「今まで、先生には迷惑をかけっぱなしであった。先生が、そう思っていてくれる限り私は力をいつまでも奮えます」


 エフィリーネもルシフェルも。そしてアーディンもハーネイトの言葉に心を打たれていた。アーディンはハーネイトよりも7歳も年上であるが、そんなことは2人の間には関係がなかった。


 魔法使いは実力主義の世界であるため、年上のものが年下から教えを乞うことは珍しくはなかった。そうでもしなければ、それぞれが求める答えに辿り着くことが困難であったからだ。


「これからは、私の下に加わり誇れる仕事をしてくれ。今いる忍者たちもお前らと同じようなものだ。魔法は世界のために、人のためにあれ。だ。それを忘れるな、私の教え子たちよ」


 そうしてハーネイトは無自覚に発動した力を解除した。


「私たちまで、不思議な感覚に包まれた感じがするわね」


「これが、師匠の力。死んだ母さんを思い出す、な」


「相棒は男なのか女なのかわかんねえなこれ。まあ、俺の嫁にするには。って痛い痛い!」


「ヴァーン?ハーネイト、いえ、師匠は私のです。分かってる?」


 その場にいた人すべてが、ハーネイトの気を感じ優しい感覚に包まれていた。誰もがハーネイトのことを母親と感じるほどに。そしてヴァンはリリーに二の腕を思いっきりつままれて痛がっていた。気体化すれば掴み攻撃などかわせるのに、ヴァンはそうせずリリーとじゃれ合っていた。


「やっぱり、先生には敵わないや」


「先生、ありがとう」


「これからも私たちを導いてほしい。DGの件についてはこちらも把握している。しかしホミルドのおじさんがいる城の近くには多くの機械兵や見張り、見たことのない魔物がうろついていた」


「私たちだけではどうしようもないと思ったそのとき、先生の顔が浮かんだの」


 彼らは力さえあればすでに城に潜入し博士たちを助けていられたのにと、攻撃系の能力が低いことを悔やんでいた。そして大先生ことハーネイトならば確実に博士たちを助けられると考え、手紙をある少女経由でハーネイトに渡したのである。


「師匠。先生って、ハーネイトさん、本当に兄貴たちの先生だったのか?」


 リシェルはなかなか聞けずじまいであったことをハーネイトに質問した。


「ああ、ルズイークやアンジェルもそうだが、エフィリーネたちはその数年前に魔法学を指導した32人のうちの3人だ」


「ま、じかよ。こんなところでも繋がっているとは、いるとはよ」


 リシェルはそう言うと顔がうつむいてしまった。


「どうした?」


「いや、教え方とか手慣れているなと感じていたから、その理由がわかってですね。俺も! 習いたかった! ハーネイト師匠に魔法を教えてほしかった……」


 リシェルは地面に座り明後日の方向を向いて、少しだけプイとふくれっ面になった。


 そんなことなら、無理してでもそっちに行きたかったとリシェルは思っており、師匠に思いっきりそうしたかったことを伝えた。


「なに、いやでも魔法の極意を叩きこんであげるよ。少々スパルタではあるが。今は失われた魔銃士の力。セヴァティス以外に、しかも正統な血統の持ち主と分かった以上、互いに教わることはある。ジルバッド師匠の影響でな、魔銃士について、今までいい印象を抱けなかったのだが、今は違う。時代が変われば、考え方も魔法も変わる。リシェル、銃について教えてほしい」


 ハーネイトのその言葉は、リシェルにとって予想外の言葉であった。それは互いに切磋琢磨しようというメッセージであった。


「え、それは」


「銃の扱い方だ。使い方と当て方がよくわからん。それに私に合う銃も分からん」


「隊長もいっていましたね。はい、私でよければ喜んで! 元々師匠もあれが撃てますし、俺と2人でぶっぱなしましょうよ!」


「よろしく、頼むぞ」


 リシェルの言葉に、ハーネイトはやや威厳のある低い声でそう言った。


「しかし、小さくて口の悪かった従兄弟がここまで立派に育つとは」


「世界は、思ったより狭いのかもしれないな」


「そうかもしれませんね」


 ルシフェルとヴァンがリシェルを見ながら、世界は広いようで狭い、そう実感させられる一件であったと互いに話をしていた。


「しかし本当に助かった。皆さんのお陰でどうにか未遂に終わりました。しかし、お前ら!いくら何でもやり方がひどいな!」


「このまま突き出してやろうと思ったが、ハーネイトさん。監視も兼ねてこいつらを博士の救出につれていくのは?ホミルド博士は有名なお方です。もし何かあれば大変なことになります」


 ポプルが若干お茶目にそう言いながら、ウェコムが捕らわれた博士について心配をしていた。


「そもそもお前さんの生徒なのだろ?責任はもってもらわないとな?ん?」


「は、はあ。胃が痛くなりそう。……まあ、最初からそのつもりですけどね」


 ハーネイトは胃をさするアクションを取りながら苦笑いをしていた。


「すまんの、ハーネイトよ。しかし博士がその状態だと、他にも捕らえられたり勧誘されたりした博士や研究者がいるかもしれん。お主らもどこまで手掛かりを掴んでいるかはわからんが、気を付けた方がいいと儂は思う」


「私の故郷でも不審な人物や魔物の目撃数が急増していると友達から話を聞きました」


「これは思ったよりめんどくさいぞ。たぶん。あーいつになったら休暇! とれるのだ! もう!」


大分やけになりながら叫ぶハーネイト。段々と素の面が露になっていくのをヴァンは楽しんでいた。それの方が、彼らしくて素敵であると。堅苦しくて冷静な時よりも、素の方が人間に近くてヴァンは、それにどこか安心していたのである。


「ははは、力を持つやつは辛いな? しかし大分いろいろ打ち解けてきたんじゃないのか?」


「素の面のハーネイト、見てて面白いわ」


「はっ、恥ずかしい。ごほん、と、とにかく。ポプルさん、ウェコム。迷惑をかけてすみませんでした」


 ヴァンとリリーの言葉に顔を赤くしつつも、ポプルとウェコムに深く謝罪をするハーネイト。しかしポプルもウェコムもその表情は笑顔であった。


「仕方ないのう。今回は未遂だし多目に見るが、このようなことは今後ないように、しーっかりそやつらを見張っとれ。最ももう悪さをする気にはなれなさそうだがな」


「盗むなら、クーデター軍やそのDGとか言うやつらのアイテムや情報を盗めよな?」


「そうですよ兄貴たち。忍たちと組んで諜報や撹乱やってくれよ」


 ポプルとウェコムはそれぞれそう言いながら散らかった物の整理をしていた。そしてリシェルは改めて3兄妹に仲間になってほしいと訴えた。


「ハーネイトを手玉に取るとか、面白い。教え子の方が魔法を使えるとか笑うなこれ。俺の代わりにいろいろやってくれると助かるぜ」


「そんなこというならヴァン、単騎で敵陣突っ込め。この変態菌おばけ!」


「ざけんな、あの力使って蹂躙しろよ。何でも変身できるんだろ?俺は楽して勝ちたいんだ」


「あれはまだあまり使いたくないのだ! てか楽して勝てる相手じゃないのも多いのだぞヴァン。まだリリエットたちから残りの幹部の情報聞いていないんだ。相性によっては、ということもあるだろ?」


 ヴァンの発言に少し傷ついたのかハーネイトは珍しく悪口を言う。それに対しヴァンも同様のことを言う。そしてハーネイトは少数精鋭である敵幹部の戦力がどうしても気になっていた。


「言い争いか」


「仲がいいのか悪いのか分からないときがあるわ」


「はあ。しかしそろそろ戻らないとな。つか眠い」


 リリーとアーディンはヴァンとハーネイトの、まるで子供の言い合いみたいなやり取りを見て少しため息をついていた。


「2人とも、明日は早いのだからそのくらいに」


「わかったよリリー。エフィリーネたちは私が預かる。ポプルさん、今後もよろしくお願いします。また発掘品やアイテムの調査、よろしくお願いします。ウェコムも無理するなよ?」


 ハーネイトはもう1度2人に礼をした。礼儀正しさこそ何事にも繋がるきっかけだと、経験の中で認識したハーネイトはいつでも礼儀を欠くことはない。それもまた、多くの人と関わりながら敵を多く作ってこなかった理由でもあった。


「うむ。しっかりやってこいよ」


「ああ。変なやつらなんかさくっと倒して解決してきなよ。そういや話は変わるが、砂鯨たちの様子がおかしい。気を付けてくれ」


 ウェコムの話を聞き、それの調査についてしっかりとハーネイトはメモを取った。


「そちらの調査ものちに行います。情報提供に感謝します」


「ほらほら、ホテルまで同行願うぜ。そこの3人」


「また先生の下でいろいろできるとはな」


「まあ目的は達成したし、先生の仲間たちも恐ろしいほど強そうだ」


「なんとしてでもホミルドおじさんたちや捕らわれたひとたちを助けないとね」


 ヴァンがアーディンたちに声をかける。そしてエフィリーネたちは兄妹同士で話をしながらヴァンの後を追う。


「しかしおじさんが、か。あの人の性格だから、脅されたんだろう。生き物の情報を掛け合わせる研究か。ってそれ師匠のメイドたちが出くわしたやつだ」


「そうなると、既に投入されている可能性は大だな」


 リシェルはホミルド博士と面識があり、博士の性格から断りづらかったと推測しつつ、彼の技術がすでに利用され実践投入されていると考えていた。その意見にハーネイトもそうだと考えていた。


「とにかくホテルに戻りましょ?」


リリーがみんなに声をかけ、エフィリーネらをつれたハーネイトたちはホテルに辿り着いた。時刻はすでに12時を過ぎ翌日になっていた。そして彼らはフロントの左手にあるソファーで一人悩んでいるエレクトリールを見た。彼女のその表情は、どこか浮かないものであり、悲しそうな瞳で彼らを見つめていたのであった。


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