第85話 怪盗からの予告状?
「ねえ、そこのお兄さん」
「っ……! 何か御用ですか、お嬢さん」
何も気配がなくいきなり話しかけられ、警戒するハーネイトは、目の前にいる銀髪で腰まではねた髪を伸ばした少女を見た。
「お兄さん、あのハーネイトさんですよね?」
「如何にもそうだが、何の用か?」
「よかった、あのね、ある人からハーネイトさんに手紙を渡してほしいと言われて探していたの。人を待たせて急いでいるの」
少女の言動にやや怪しいところがあるものの、少々のことで動じないハーネイトは手紙を少女から受け取った。
「しかしあまりここにはいま来ないのにな。事務所の広告は確か幾つかこの街にあるはずだが」
「事情があって、そこまでいけなかったの。でも友達があなたがここに向かっていることを教えてくれたから待っていたのよ」
「なんか怪しいが、まあいい。後で手紙は読もう」
「すみません、失礼します。今度もしよければお茶したいですね。ありがとうございました」
彼女はそう言いその場を立ち去った。そして道路を挟んだ向こう側で3人の人物とその少女が何かを話し、ひげを生やした男が笑顔で少女にお金を渡しているのを目で確かめたハーネイトは、脳内である人物のことを思い出そうとしていた。
「変なやつだ。はあ、ホテルについたら読んでみるか。しかしあの顔……どこかでみたような……まさか! でもあいつらの縄張りは機士国の周辺のはず。だとしたらどうして、いや、まずは手紙を見よう。あのバカ弟子共が……っ」
ハーネイトは少女にお金を渡した男の顔を見て、すかさず手紙の封を破り中の手紙を確認する。一つはホミルドと言う男からの手紙だった。
「ホミルド、まさかあのホミルド先生か。そういうことになっていたとは、これは早く助けなければならない。私に医術を教えてくれた大師匠であり、遺伝子工学などにも精通するが……ボルナレロと一緒?」
見るからに派手なもう一枚の紙。それをよく見ると、北地区にある博物館に保管されている宝石を今夜の夜10時に盗むからよろしくという文章が書いてあった。
つまりこれは、怪盗からの予告状である。その名前を見て、ハーネイトの表情が鬼と化した。
「どういう、ことだ。ホミルドと知り合いで、なおかつこの予告状。ふざけた真似を……っ!」
「あっ、ハーネイト! ってどうしたのよ。顔が怖いわ、何かあったの? まさか女の子にいじめられた?」
「よう相棒。血相変えてよ。というかどうしたんや」
「……2人ともこれを」
ハーネイトはヴァンとリリーに予告状とホミルドから手紙を見せた。それを見た二人は目の色を変えて興味深そうにそれを読んでいた。
「わあ、始めてみたわ。予告状とか何があったのよ」
「へえ、それはお前さんを呼び出す罠かもしれないな」
「しかしホミルドの手紙は直筆だ。この人の書く文字は、一目でわかるほど独特の文体をしていたからよく覚えている。恐らく事実だ。ボルナレロはこの前ホミルドとDG研究施設内で会ったらしい」
ハーネイトは、かつて機士国にいた際にホミルドの書いた文章を見ていたのでそれが本人のものだとすぐに理解していた。所々異常にはねる文字、時々インクが掠れている箇所。それらから本人が直筆で書いたものだと分析していたのであった。
「そういうなら、ホミルドと言うおっさんの手紙のことは事実だろうな。こちらも更に調査を部下たちに命じたが、やはりあの城は怪しい研究の拠点だ」
「それは逆にうまくいけばそこを押さえれば敵の計画に大打撃与えられるわね。どう、やるしかないよね師匠?」
リリーは手紙の内容からDGに大打撃を与えられるのではと考えた。そしてハーネイトは、つい先ほど来たボルナレロからのメールを見て、城に彼らがいることを確信していた。
「ああ、そこさえ攻略できれば、他は白い男とエージェントたちによりどうにかできる。しかしこの怪盗からの予告状も無視できない。もし美術品が盗まれたらこちらの信用問題だ。ボルナレロが城にいるのはわかっているのだが」
「予告状、気になるね。ねえヴァン。久しぶりに1人で暴れてきたら? そもそも単騎でなんでもできるよね?」
リリーはヴァンに一人で城を攻めに行ったらどうだと提案した。
「えー、めんどくせえな。無差別にやってしまうぜ」
「リリー、問題ない。時間を見てみろ。今日の夜10時だ。朝までにけりをつければいいんだ。あの怪盗たちを捕らえて事情を聴く。一応、知り合いなのでな……なぜホミルドからの使いを任されたのかわからんが、出向けば分かることもあるだろう」
「へえ、分かったよ相棒」
「面倒なことに巻き込んですまない、2人とも」
ハーネイトはヴァンとリリーに、とても申し訳ないといった感じで深々と頭を下げた。
「それはしゃーないない。だがその博物館に行きたいんだがなあ」
「私も行きたいなあ、いいでしょ? 幼いころ、両親に連れられて博物館に行ったこと思い出したなぁ、そういうの好きだしいいよねダーリン?」
2人は生の怪盗が見られると興奮していた。一方のハーネイトはどう怪盗を捕らえるか考えに考えを重ねていた。
その怪盗は本当に知り合いであり、しかも一筋縄ではいかない曲者であったからである。何より、彼自身があまり相手をしたくないほどに厄介な技を持っているというのがその理由である。
魔法戦で右に出るものなしと評判の彼だが、それは直接攻撃についての話であり、魔法を変に悪用するという点においての強さでは、彼より上手の実力者が数人存在するという。また、その実力者がよりによってほとんど教え子であると言うのも彼の頭痛の種であった。
「分かったよ。全く、仕方ないな。但し怪盗を捕らえるのは私だ。責任があるのでね」
「いいぜ。そろそろ時間じゃないか、広場に行こうぜ」
「怪盗さん……ハーネイトの知り合いって、貴方どういう人脈してるのよ本当に」
そうして時間通りに、全員は広場に集まった。ハーネイトが全員いるか確認しているときリシェルが先に彼に話しかけた。
「ハーネイトさん、ギリアムという男は聞いたことありますか? 」
「ギリアム・ラシュメール……か?」
「そうです」
リシェルがハーネイトに、ローレシアから頼まれたことを伝える。
「ギリアムがどうしたのだ?」
「先ほどそのギリアムさんの妹さんと出会いまして、ギリアム先生がガンダス城で囚われているようです」
「確か諜報組織ブラックストームの第一隊長だったな。そして今回の作戦にも参加しているはずだがあれほどの男がなぜ……。わかった、もし発見したら優先的に保護だ」
「イェッサー! ハーネイト師匠」
リシェルが敬礼をピシッと決めてから報告を終え、一歩下がる。次に南雲が話しかけてきた。
「次は拙者だが、後輩の忍者から手紙を渡してほしいと言われた。これがその手紙です」
「これは藍之進からの手紙か。…そうか。里の方も情報収集に協力してくれてありがたいな。一方のヴァンは……」
ハーネイトはヴァンの方をじとっと見つめた。本来ならば彼一人でも万能すぎてこの事件など容易に解決できるはずなのだが、何故そうしないのかを疑問に思っていた。
「なんだよ、俺の能力も一度行ったところじゃないと精度が落ちるんだよ。移動魔法や転移魔法とそこは同じだ。この世界微生物の種類ってかラインナップ少し特殊だし、全部従えるのに少し時間がかかる。微生物を操れる能力者ってのは確かだが、万能やないで」
ヴァンは探知系の能力についてまだ完全状態ではないことを説明した。それを聞きハーネイトは呆れていた。
「それをなぜ早く言わないのだ。はあ、とにかく藍之進さんのメッセージは確認した」
「という事で長くお世話になります。愛しのハーネイト様?」
「分かったから、妙な真似だけはしないでくれよ?」
手紙の内容は、零に関する情報と、南雲と風魔の契約に関しての話であった。風魔は長くハーネイトのそばにいられることにほっとしていた。
「次に、この街で変な三人組がビルの間を駆け抜けているのを見たんだけど」
「ミカ姉、特徴はなにかあった?」
「そこまでははっきりと見えなかったわ」
「だけど、帽子と杖を身に付けていたわ。しかも3人とも同じのをね」
「あの動き、只者ではないわね」
ミカエルとルシエル、リリエットから話を聞き、すでにこの街にあの怪盗たちがいることが確定していることをハーネイトは理解し、眉間にしわを寄せた。そしてハーネイトは大きく肩を落としため息をつく。その久しぶりのため息に全員が心配していた。
「いや、それで十分だ。ルシエル、助かった」
「どうもです。私目は良いので、はい」
ルシエルに感謝をするも彼の表情はどこか虚ろであった。そして確実に怪盗と勝負しなければならないことにいら立っていた。
「なぜそのようなことを聞くのですか?」
エレクトリールが突然質問を切り出す。彼の浮かない表情とそれが関係あるのか彼女はどうしても気になったからであった。
「嫌な予感が確信に変わったのさ。あーあ。こんな時にもう! 覚悟しておけよあいつら」
ハーネイトのいら立つ表情と言葉から、ミロクとシャムロックはとある人物のことを思い出した。ここまで彼をいらだたせることができる人物は限られており、その口調からある人物が絡んでいるのではないかと2人は推測したのであった。
「それは、あの教え子たちのことですか?」
「魔法で犯罪を働く者がいると仕事中に耳にしたことがありますが、またあやつらですか」
普段見せない表情で今の現状に苛立つハーネイト。しかし以前よりも表情が豊かになった彼を見て、ヴァンや南雲たちは安心していた。そしてミロクとシャムロックが事情を察し話しかけた。
ハーネイトに予告状を叩きつけた怪盗の名前はアルシャイーン3兄妹といい、ハーネイトと関係の深い人物であった。ミロク含め召使たちもその話を聞かされており、事情は理解していた。
「本当に、下衆な連中ですわね」
ミレイシアもあまりその人たちのことを言えないのだが、その怪盗たちのやり方が気に食わないようであり、ましてや今の情勢からハーネイトは心の中で相当腹が立っていたのである。またどうせ盗むなら、DGに関連するところから盗めばいいのにと彼女は内心そう思っていたのであった。
「そ、そうなのですね。私も手伝いましょうか?」
「教え子ですか、興味深い」
リリエットの背後からシャックスが近づいてきた。そして怪盗の話について2人とも興味を抱いているようであった。
「リリエットたちはホテルで待機していてくれ。好きにしていていいから」
「まあまあ、そろそろ日も落ちそうだしホテルにいこうぜ」
「そうだな、案内しよう」
暗くなる前に一行は、先にハーネイトが話をしていた事務所兼ホテル「ウルシュトラ」の中に入ったのであった。




