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神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第1章 第1シーズン 宇宙からの侵略者DGvsハーネイト遊撃隊
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第64話 血徒に全てを奪われた者同士の邂逅


「何、だと!微生物の力とはどういうことだ」


「……久しぶりだな。異世界より訪れた旅人よ。元気にしておったか」


「ああ、ハーウェンオルクスの悲劇を生み出した男か。ったく、いつの間に合流していたんだ?」


 機士国サイドの人間はヴァンのことをよく知っていた。特に機士国王とルズイーク、アンジェルは特にそうであった。


 ハーネイトとヴァンの出会いは、それはそれはとても最悪なものだったと言う。


 アルが話すハーウェンオルクスの悲劇がその出会いに関する一連の事件であり、その時に事態の対応に当たったのが近衛兵たちとハーネイトであった。


 事件が起きたのはハーネイトが機士国に仕えて2年目に差し掛かろうとした時であり、当時機士国領ハーウェンオルクスという小さな町で起きた大事件があった。


 それは魔人が街を焼き払い、住民を殺戮しているという情報であり急いで知らせが城に届き、すぐさまハーネイトとリリーが現場に駆け付けた。


 そこには、無数の霧の触手を背中から出し、周囲全てを溶かし喰らい尽くそうとしていたおぞましい異形の姿をした男が火に包まれる街の中にいたという。

 

 その光景を見たハーネイトは、昔体験した事件の光景がフラッシュバックする。


 村を、住んでいた人を、初めて心から好きになった人を何も助けられなかった、あの日の夜。すると彼はその原因である血の怪物こと血徒に対する激しい憎悪を体からあふれ出し、怪物にいきなり襲い掛かったのであった。


 ハーネイトは豪快に切りつけるも全くその男は傷を負わない。それどころか霧の塊を飛ばしてきて、ハーネイトの左腕や展開していたマントの一部を撃ち抜き喰らうのであった。

 

 ハーネイトは初めて心の底から恐怖を覚え、その時点で持てる力全てを開放し戦いを繰り広げた。創金術に大魔法、忌まわしきあの目の力をもって3回彼の体を砕いた。


 だが彼は数分もすれば元の状態に戻ってしまうのだった。あまりにも頑丈というか再生能力の高い相手に攻略法が分からず、彼の猛攻についにハーネイトは膝を地につけてしまい泣きながら、自身の無力さを体感し恩師の名を叫ぶ彼に気付いたリリーが目覚めて彼の目の前に立ち、盾になろうと男、つまりヴァンの前に立ちはだかった。


 それがハーネイトの最大の幸運であった。そのヴァンは1人の少女を探すためあらゆる場所を移動し転移してきたのであり、ハーネイトの目の前にいる少女こそまさにその人であった。


 怪物はリリーの姿を見るやすぐに理性を取り戻し、元に戻った姿を見たリリーも目の前の怪物がヴァンだと分かり、世界を越えての再会を果たしたのであった。


 すぐにリリーから話を聞き、目の前にいた男が彼女を助け稽古をつけてくれたこと、それと自身の追っている紅儡を生み出す存在に全てを奪われ、なおかつ血の影響を受けない存在だと知ると重傷のハーネイトをすかさず助けたのであった。


 これがハーウェンオルクスの悲劇と言う。その後ハーネイトは気力を振り絞り大魔法(正確には魔眼)で街も人も元の姿に戻し、ひとまず事件の幕は下りるのであった。


「そんなことがあったとはな。それと、ハーネイト様を追い詰めた唯一の男だと!」


「信じられんが、そうなのだろうな。こうして会ったのは初めてじゃが、何故龍の力を宿しているのだ貴様は? それと、どこか懐かしい感じがするがどういうことじゃ」


「それなら、ミロクさんよ。……いや、今ここで口にする話題じゃねえな。……まさか、こんなところに、か」


 シャムロックとミロクは、ハーネイトが過去に一度負けたことと、その存在が目の前にいることに恐怖を覚えた。


「この男、そんなに強かった、のか。魔獣の群れ、消滅させていたのは流石だと思った」


「上には上がいるのですねえ。品性の欠片はさほど見当たりませんが」


「この人たち、みんな只者ではないの?人間か何か、ってことでいいのかしら」


「離れなさい、この危険な男め!」


 元DG幹部たちはヴァンの方をよく見ながら、その実力を聞いたうえで警戒していた。さらにミレイシアはその話を初めて知り、サルモネラヴァンに迫るとナイフを首に突き付けた。


 シャムロックやミロクもその話は初めて聞いたのだが、彼女ほど頭に血は上っておらず彼女の行動に驚く。


「ひどい言われようだ。俺も、ハーネイトに出会ってすべてが変わった男だ。唯一の存在にして、ライバルであり、友であり、相棒だ。これからも変わらねえ」


 ミレイシアに対して力のこもった声で、しかし悔しそうに声を震わせながらそう話すヴァン。元から自身にはいい評価など期待していなかったが、それでもハーネイトの相棒と認めてもらえないのは彼も堪えるところがあった。


「ねえ、あなたはどこから来たの?悪い人には一見見えないけれど」


 三十音はヴァンの目を見てそう尋ねる。確かに見た目こそ如何にも悪魔であり、魔王じみた風格をしているが、生粋の悪ではないと三十音は見破った。


 そう、一見粗暴に見えて、熱い魂を秘めた人間らしいその言葉の雰囲気を彼女は感じ取っていた。


「……微生物たちが暮らす世界、微生界から俺は来た。そこにいる少女を探しにな」


「え、そんな世界があるの?」


「そうよ、彼はね、どこにも居場所がない人だったのよ。私もそうだった。でも今は違う。ハーネイトと言う私たちのかけがえのない居場所があるの。確かに話だけを聞けばヴァンは人類の敵にも聞こえるし、誰の手にも負えない存在でしょう。私も最初出会ったときはすごく怖かったわ」


 ヴァンの話に続き、リリーがゆっくりとみんなの前に出て話を始めた。この世界の住民だけではなく、異世界からの転移者や転生者も必死に助けようとしていたハーネイトの強さとヴァンの心代わりについて話をし続けていた。


「でも彼は、ヴァンは王様でありながら、たった1人の人に忠誠を誓い、私以外で初めて、心から話せる友達を手に入れた。ハーネイトがいる限りヴァン、ヴァンは世界のために戦うわ。あの悲劇の後旅をしながら、ハーネイトのまねをしたいって必死になって努力してきたのよ。ヴァンを嫌わないで」


 自身が体験した悲痛な思いと、ヴァンの本当の姿を泣きながらみんなに伝えるエレナ。それでも疑う者も何人かいたが、ハーネイトの後ろ姿を見て多くの人が彼に続こうと過酷なこの世界で努力をしてきたのは周知の事実であった。


 悪人ですら改心させ仲間にする彼のスタイルは有名であり、この男もその一人なのだとわかった国王たちは黙ってうなづいていた。

 

 そしてしばらくうつむいて沈黙していたヴァンは、顔を上げると今まで抱え込んでいたことを吐き出すように、魂の叫びを震わせて伝える。


「俺だってなあ、何で自分がこんな形でこの世に生まれたか正直分からねえ。でもな、1つだけわかっていることがある。俺はリリー、そしてハーネイトと言う存在と会うために生まれてきたんじゃないかってな。だから、俺が助ける。前に俺の暴走を止めてくれたから、その礼を今返すんだ。化け物であることは周知の事実だし、相棒よりも自分のことはよく分かっている」


 ヴァンは淡々と、しかしその声に思いを込めて全員にそう話す。そして彼は声を張り上げて、感情を噴出させていた。


「俺は、相棒が、ハーネイトのことがうらやましい。誰からも愛されて仲間がたくさんいるこいつがな。正直言えば嫉妬もしているさ。だけどそれは間違いだと。それと相棒の言った言葉の意味がようやく分かった。嫉妬している間は、未来に帆を進められないってな」


 ヴァンはそういうと目をかっと開き、全員をしっかり目の中に入れながらハーネイトのことについて思っている印象を伝えようとした。


「あいつは、慕ってくれる人たちが何よりも大好きなんだ。そのためには命など容易に投げ出すほどに。大切なものが傷つくことは、あいつにとっては何よりも苦しい。自分が傷ついたのと同じ感覚がするとな。だから無理をしてでも動く」


 初めて出会い、和解ののちハーネイトと話したことを思い出しながら、ゆっくりとヴァンは話をつづける。


「そして、嫌われることを何よりも恐れていたから、本人は何もしたくなくても強い意志だけで体を動かし続けていたんだ。本当に大した根性だよ。そこまでして守りたいものがあるのかと最初は疑問に思ったがな。だが俺もそれを理解できた」


 ヴァンのその言葉の、全員の表情が暗くなる。一体今まで彼の何を見ていたのだろうか、いや、見ていても目を背けていいように使っていたのではないか。改めてそれを再認識させられた人たちは顔を下げていた。


「無理をさせていたことは、否めない。その結果がこれか。私は彼に期待を背負わせすぎてしまった」


「それは私もだ。英雄としての姿、解決屋としての姿。それも彼には本来重荷になるものだった。それでも彼は自身の力を誰かのために使い続けてきた。血徒と言う血の怪物さえいなければ、ここまで自身を追い詰めることはなかったはずだ」


 2人の王様はハーネイトに今まで無茶をさせてきたと思い反省していたのであった。


 それを見たユミロたちはハーネイトの影響力についてその強大さを目の当たりにしていたのであった。この不思議な男が、ここまで慕われる理由とは一体何なのか、それがどうしても彼らは気にせずにいられなかったのであった。


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