第56話 龍教団教祖・セフィラからの正式な依頼
「見た目からまだ少女にしか見えないが、貴女が私が来る予言を?」
「そうですよ、フフフ」
ハーネイトの質問に彼女は静かにそう答えて、彼の顔を微笑みながら見つめていた。
彼女は若くしてこのハルクス龍教団の代表として数年前から活動していた。青白く綺麗な長髪、透き通るような青色の目。ハーネイトはそんな彼女に見つめられると不思議な感覚に陥りそうになって恐怖を感じ、それと同時にシャックスやユミロたちと同じような気の流れ、しかしそれ以上のものを感じどうにか平静を取り繕うとしていたのであった。
この時、ハーネイトは自身がこちらに来るように仕向けられているのではないかと考えていた。あまりに準備がよいというか、先ほどの構成員の反応と合わせて考えながらそう感じ取ったのであった。
だからこそ彼はお告げなど実は嘘だろうと真っすぐな指摘をしたのであった。
「それは違うのでは? あなた方が私に用事、または依頼がありどうにか来てほしいから、魔女たちを誘拐したのだろう?」
「半分は当たりですが、魔女たちを誘拐したのは龍ですら癒す魔法の持ち主が魔女の中にいると話を聞いたからです」
「そういうことか。しかし、やり方が荒くはないか? ……大魔法を扱えるのは、基本的に魔法協会かBKだ。魔女らにそれを求めるのは酷ではないのか? 日常的に魔法を使う魔女たちだが、あまりに高度な医療術を行使できるのはほとんどいないはず」
セフィラの話を聞き一応は納得したものの、そのやり方は良くないとハーネイトは思った。そこまでしてする理由があるのかと考えた彼に、セフィラがさらに話をする。
「彼を、いや、あの龍を何としてでも元の状態に戻さないといけないのです。なりふり、構ってはいられないのですよ。それに、大魔法を使える魔女は少ないですがいるのですよ」
意味深なことをいうセフィラ、それにハーネイトは更に追及する。
「その話も気になるな。……私の執筆した大魔法辞典は関係者以外は持てないはずだし、それ以外だと、他に6聖魔の……ああ、ミカエルたちならそうだ。実の子に魔法が伝授されていると考えれば。まあそれは別に、あの龍って、何のことですか」
そう質問し、彼女が答えようとしたとき聖堂のドアがバンと開き、2人の女性が勢いよく入ってきた。
「やはりそういうことね」
「あなた方の狙いはわかりました。しかし、私たちを魔法とは違う力で捕らえるのはひどくないですか? 」
「あの。貴女方は誰ですか?」
ルシエルとビルダーがハーネイトの前に立ち、セフィラに向かってそういう。そしてすぐさま振り返り、ハーネイトの顔を見る二人はすぐに自身の名を名乗った。
「私は、ルシエル・ドロシー・ステア」
「私は、ビルダー・ドロシー・ステアと申します」
「その名前、ミカエルの家族か?」
「お姉さんを、知っているの?」
「ああ、ミカエルから依頼を受けて、ここまできた。貴女方を助けてほしいと」
ハーネイトは2人にミカエルの依頼した内容を手短に伝えた。
「それは、私の娘がご迷惑をお掛けしました」
「それはいいのですが、私たちはすでに包囲されているようですね」
「そうだ。無駄な抵抗はよしてほしい」
「そのまま返すわその言葉」
「というか、いつのまに抜け出したのだ」
見張っていたはずの魔女たちが抜け出していたことに、今になって気づく教団員であった。そして血の気がやや多い教団員をセフィラがなだめた。
「皆さん、落ち着いてください。ハーネイト様、もし私の依頼を聞いてくださるのでしたら魔女たちは解放いたします。伝説の6聖魔の一人、ジルバッド様の正当な弟子である貴方なら……、いえ、その前に、フフフ、龍の力をすべて宿す貴方なら」
セフィラが彼に提案をする。久しぶりに解決屋らしい仕事ができると考えた彼は少し考えた。依頼を受け、解決する。それこそが仕事の醍醐味。ハーネイトの表情が思わず緩む。魔法探偵の業務とはやや異なる点があれど、戦うよりは気が楽でいいと彼は感じていた。
「力? もしかして、フューゲルやシャックス、藍之進の言う、龍の力のことか? 」
「ええ、その力を持っていると言うならば貴方は古代人、またはその血を引く者で間違いないですが、しかし6つの龍の紋章、本当に、面白いことになってきました。ようやく、現れたのですね」
セフィラは、ハーネイトの体をくまなく観察しながら、その内部にある6つの力についてある疑問を抱いていた。
古代人こと古代バガルタ人は元々、龍の力を宿すための実験体として存在していたとも言われている。
しかし、その龍の力は大きな力がゆえに負担となり、しかもほかの龍の因子と共鳴すると基本命がないと言われているため、どんなに素質があっても1ないし2つの龍の因子しか宿していないという。
だがこのハーネイトは6つの色の龍の力を全て体に宿している。ということは、もしかするととんでもない存在ではないかとセフィラはそう思い、彼こそが自分たちが待ち望んでいたある伝承に刻まれた存在そのものであると理解し、一方でその力と与えられた役割をまだ理解しているように見えない彼を見て、だからこそ改めて霧の龍に彼は会うべきだと考えた。
「やはり、私は……他の人と何もかも、違うと言うのか」
「…ハーネイト様は霧の龍の話はご存じですか?」
「ああ。聞いていますがそれが何か」
「その霧の龍は、病と傷に苦しんでいます。その影響で有害な霧を吐き出し続け、様々な問題が起きています」
彼女は、霧の龍の状態をハーネイトに対し説明し続けた。聞く限り、早く対処しなければならないと感じていた。
「通りで、数年前から徐々に霧の成分と有害度が、か。で、どうしてほしいのだ?」
「はい、貴方に霧の龍を治していただきたいのです」
「龍を? 人相手でしたら治したことはありますが、龍か」
「そうです。あのできものがなくなり、傷も癒せれば、霧は晴れあらゆる問題は解決します。その上で、その龍から力の謎について聞くのです。そうでないと、貴方はその力に体を壊されるかもしれません。既に、症状も出ていますし」
「わかった。ひとまず受けるが、さすがに龍の治療とかはしたことがなかったから、あまり期待されても困る。それと、もしかして胸の痛みって……」
「恐らくそれかと。どうかお気を付けてください。この先も幾つも襲いかかる試練、その1つが迫っているのですから」
彼は困った顔をしながら、セフィラの方をみる。事実人については魔法、異能力両方で軽く数百万人を瀕死の淵から助け出しているので自信はあれど、小型の飛龍はともかく龍など今まで見たことがなかったため内心できるかどうかハーネイトは不安ではあった。
しかし自身の内なる力の秘密を知るには、どうしてもその龍を治して話を聞くしかない。フューゲルらの話す龍、それを知るため彼は腹を括りその龍のいる場所まで向かうことにしたのであった。
「では、約束通り捕まえた人たちは解放しますわ。これでも約束はしっかりと守ります。ハーネイト様がいれば、問題ないですわね」
「あまり買い被り過ぎるのもあれです。で、その霧の龍の場所を教えてほしいのだが」
そのとき、教団員をはね飛ばしながら伯爵、リリー、ミカエルがハーネイトのいる聖堂に飛び込んできた。
「もう、ハーネイト速すぎよ」
「ね、姉さん!」
「あらあら、ミカエル。そんなに血相を変えてどうしたの?」
「もう! お母様はいつものんきなんだから。助けにきたのよ」
ミカエルは、ビルダーとルシエルに再会することができた。それを見てハーネイトはほっとしたのであった。
「本当にミカエルは心配性ね。大丈夫よ」
「姉さんありがとう。しかし、私たちを捕まえた奴等には手痛いお仕置きしないとね!」
ルシエルはすかさず魔法を唱え、誘拐の実行犯ロミスの体を砂で硬め拘束する。
「わ、わるかった! 命だけはどうか勘弁をっ」
「ルシエル、そのくらいにしてあげたらどうだ」
「でも許せないわよ! 」
「少し落ち着け。ああ、報酬の件は、どうしようか……」
普段見せないような、悪だくみを考えている顔をし教団員を見つめるハーネイト。それに気押される教団員たちがいた。
「そうですね。どうしましょう」
「じゃあ、南の方の諜報任務と監視を頼もうか。DGの奴らがそっちから来ていたら不味いからな」
ハーネイトは少しはったりをかけながら彼らにDGの監視を行うように命じた。
「そうきましたか。少し予想外ですね。お金とか、私とか、そういうものかと思いましたわ」
要求されるものが予想と違い、笑顔を見せつつも少し困ったような表情を見せるセフィラであった。
「あのさあ、さり気にそういうこと言われても困るのだけれど。それでどうなのだ? 」
「いいですよ、DGの動きを全員で監視しろ、ということならば問題ありません。私たちも彼らの行動について気になっていましたし、その行い自体が許されるものではありませんからね」
「はあ、はあ。ハルクス龍教団は各地に支部がある。特に南大陸は数も多い」
ルシエルの魔法から解放され、荒く呼吸をするロミスは支部についての話をした。
「DG、この星を脅かす宇宙から来た戦争狂の宇宙人たち。彼らには消滅してもらわなくてはなりませぬ。そして裏切り者がいます。20年前の時にもその裏切り者が暗躍し多くの被害をもたらしたのです。生きているとしたら、今起きているこの星での一連の騒動はその者によるもので間違いないですね」
「DG、あの人たちは危険すぎます。実は……その霧の龍も彼らの罠にはまりあの状態なのです」
「以前とは彼らもだいぶ違ったやり口で何か進めているみたいだが、しかし裏切者、とはね。こちらもある程度敵の構成は把握していますが、向こうも守りが堅いようです」
「そうです。それは魔法使いでもあり、死骸を操る力に長けていると言います。どうか早く見つけて討伐してください。それと、これはまだ推測の域を出ないあれですがその魔法使い、もしかすると血の怪物こと、血徒に取り付かれて操られているかもしれません」
「もしかして、あのマースメリア周辺で起きた事件こと紅儡軍団の事件と関係が」
「かもしれませんねロミス。あの時もハーネイト様は多くの仲間と共に事件を解決しましたが」
「な、んだと? 血徒が……っ!ああ。ヴァン、リリー。ついてきてほしい。やはり、例の魔法使いが相当悪さをしているようだ。またあの惨劇が起きるというならば、それだけは絶対に防ぐ。再葬機関の長の名に懸けて」
セフィラや他の教団員の話を聞くハーネイト。さらに敵に寝返った魔法使いの話を入手した彼。そして龍の治療に伯爵とリリーを連れていこうと考えた。
その魔法使いが、ジュラルミンに何か魔法をかけた犯人であることは既に推測ずみであったが問題は、黒魔術自体が魔法協会の中でも禁じられた魔法であったため、それを使うと思われる人物が今まで出会った中では該当する人物が思い当たらなかったことである。
また、血徒に感染している可能性があるという話を聞くと、彼は激情に駆られそうになった。あらゆる命を改造し紅儡という操り人形にする存在、その力を利用し事件を起こした国や組織もありハーネイトは昔介入した様々な事件のことを思い出すと拳を強く握る。
「わ、わかったわ」
「別に構わねえ。ハーネイトの頼みならばどこでもだ」
「私は、すみません。一旦ルシエルや母さんたちとルーフェに戻ります」
ミカエルが申し訳なさそうにハーネイトにそう伝える。そして霧の龍が住む山について魔法なしには上るのは時間がかかると教えた。
「そうか、わかった」
「だけど、準備ができたらすぐにあなたの仲間たちのところにいくからね。天日城でまた会いましょう?」
「姉さん、それはどういうことよ?」
「事情はルーフェに戻ってから話すわ」
「お母さんもそれは聞いていいのかしら?」
2人はミカエルの発言に驚くも、後で事情を説明するミカエルの言葉を聞きとりあえず3人で街を抜け出そうと考えた。
「もちろんよお母様」
「でしたら、すぐに戻りましょうね」
「そういうことで、ハーネイト。後で会いましょう。しっかしねえ、今度こんなことしたら街ごと焼き払いますからね、教祖さん? 」
「ええ、分かりました。青い魔女さん」
ミカエルの言葉に笑顔でそう返すセフィラ。そしてハーネイトは3人を見送る。
「ああ、気を付けてな」
「はい、どうかお気をつけて」
こうして3人の魔女たちは、聖堂をすぐに出ると魔法で空を飛び魔女の街、ルーフェに戻ったのであった。
「さて、話の続きだが龍の場所はどこだ?」
「霧の龍は、ここから西に向かうとルタイボス山があり、その頂にいます。かなり大きいので、近づけばわかります」
「ルタイボス山か。行くための地図はあるか?」
「はい、それでしたら少々お待ちください。すぐにお持ちいたします」
セフィラのそばにいた教団一番隊長ニコルフはすぐに地図を探しに行き、数分で戻りハーネイトに地図を渡した。ボルナレロがいれば面倒ではないと思ったが、まだこの辺りは調査が進んでいないため地図の情報が古く、どちらにしろあまりあてにならないと思いながら地図を受け取った。
「これでいいか。では出発だ」
「どうか、彼をよろしくお願いします」
セフィラはそう言い、ハーネイトに深く、静かに一礼した。
「行きましょう」
「龍を見られるとは楽しみだ」
ハーネイトが先に部屋を出て、続いてヴァンとリリーも彼を追いかけていく。
「しかし、不思議な人たちですな」
「そうですね。特にハーネイト様とあの角の男。あの2人は、恐らくソラ様により生み出された存在。私たちがいたところにいるものと同じ懐かしい感覚を覚えました。アルフシエラ、様。……ソラ様の手により封印されたことは忘れられません」
2人はハーネイトたちを見た感想をそれぞれ述べていた。セフィラも、ハーネイトとヴァンについてそう述べる。
このセフィラも只者ではなく、彼女自身が龍に変身できる今は絶滅したとも言われる龍人であり龍の因子の実験に成功した数少ない古代人こと、第三世代神造兵器の1人であった。
また彼女はハーネイトのことを見抜く力を持っていた。そして何よりも、彼女は女神ソラと口に出した。後に、この少女セフィラがハーネイトたちと大きく関わり世界を守る戦いの鍵になることは、まだ誰も知らなかった。
「呪われし運命を持つ、オベリスに刻まれた希望の神子、あの方の後継者。せめてその旅路に祝福と幸せがありますように」
セフィラはそう言い、手を重ね合わせると彼らを静かに祈った。彼らの旅路に付きまとう悲しい定めと闘いの日々がもたらす苦しみ。それが少しでも薄れるようにと、ただ祈っていたのであった。




