第38話 体に宿っている力の秘密と採用試験開始の合図
ハーネイトたちが少しずつ仲間を集めていたこと、DGの幹部ミザイルは東大陸の北端にあるDGの秘密拠点の中におり、自身の部屋で考え事をしながら椅子にもたれかかっていた。
「現在集めた情報がすべて本当ならば、やはりハーネイトだな。まあ、あの境遇でよく育ったものだ。シルクハインの野郎も滅茶苦茶なことを考えたものだが、どこまで成長しているか楽しみだ。ドラギスのおやっさんも力を継がせると計画に参加していたが……」
ミザイルは、昨日フューゲルから聞いた情報を頭の中で巡らせており、天神界の総長シルクハインと侵略魔の間で交わされた取引のことを思い出しつつ実際に計画により生まれ、人間たちに育てられたハーネイトに早く会いたいと思っていた。
しかし彼はDカイザーのことは知っていても、その息子のフューゲルについては知らなかったため、部下でもあるフューゲルの裏の顔に気づけていなかった。
ミザイルは任務のほかに、個人的にもハーネイトに興味があった。それは彼の体に天神界人、いや、古代バガルタ人の超技術と歴代のVと呼ばれる存在が生み出した力、更に旧世界の支配者の力も組み込まれていることであった。
かつて、古代バガルタ人の研究機関「ハルフィ・ラフィース」は幾多の生命の魂をデータ化する研究を行っていた。通称「魂の電脳化」それは同時に行われていた次元に干渉する研究と同じく、危険なものであり非人道的な実験でもあった。
それは人や悪魔、魔物などの魂、概念を膨大なデータにしたものをそれぞれ種別ごとにサーバーとなる魔本に刻み、特定の能力を持つ人だけが魂のデータを自身のものとして使えるようにするという試みであったという。
だがとある大事件により研究自体が凍結となり技術は封印されることになったという。
理由として、そのデータの変換方法自体が殺人と同じものであり、それを知った人たちにより計画を潰されたという説が最有力であるという。
しかし幾つかの完成した魔本はアクシミデロ星のどこかに散らばっており長年放置されていたという。魔本はすべて転移現象に巻き込まれず、アクシミデロの各地に存在していたということになる。
その中でも特に注目したのは悪魔の書に封印されているフォレガノと言う凶悪な悪魔であった。先祖の話を思い出したミザイルは、ラフィースの研究者集団が、多大な犠牲のもとに悪魔や天使、そして幾多の人間の魂、思念を強引に封印したという伝承を思い出し、かつて研究者であった親から聞かされた魔本の存在を頭の中で再認識した。
「シルクハインから魔本の運用に関しての話は聞いている。そしてこの写真から伝わる幾つかの気。おそらく回収作業自体は完了しているとみてよいか。しかしさり気に任務を実行しているということは誉めてやろう。彼が握っているということが分かっているならそれ以上の悪用はありえないだろう」
ミザイルは、写真の男の顔を覚えるように見ながら一晩、先祖の研究した魔本について考え込んでいた。封印されていた存在の中には、自分たちと同じ志を持ち活動してきた悪魔の一族もいる、Dカイザーもその一族であり協力したのはそれについて何か取引をしたのだろうと思いつつ不敵な笑みを浮かべていた。
「女神の気まぐれ、いたずら。彼もまた不幸な存在だな。表向きは、女神のために働く龍殺しの殺戮兵器。しかし実態は、女神も、その神とやらを生み出した霊龍をも支配し倒せる、究極にして無比の王、そして鬼札でもある。そのすべてが目覚めた時、真の平和が訪れるだろう。例の後継者として、どう進むか期待している」
ハーネイトのことをそう考えながら、ミザイルは書類を手にしたまま眠りに入ってしまった。
「……こ、えますか? 」
ハーネイトは藍之進に用意された部屋にてしばしの休息をとっていたが、寝ている中でまたも声を聴いた。だが声の主が違うことに気づいた。それは落ち着いた、しかし力強い女性の声であった。彼はその声をはっきりと耳で感じ取った。
「今までのと声が違う。誰、ですか? 」
「ああ、やっと。届いたのですね」
「そう、みたいですね。しかし姿はどこにもない。どこだ」
「私の名前は、アルフシエラ。あなたの体に宿りし存在です」
声の主が自身のことをその名前で呼び、ハーネイトに声をかけ続ける。
「私は娘によりとある装置に封印されました。そこから声をあなたにかけています」
「……それで、あなたは私に何か御用がおありなのでしょうか? 」
「そうです。娘の暴走を、女神・ソラの計画を阻止するため力を貸していただきたいのです」
「女神、だと?あいにく神様なんて信じてはいないたちなのでね。百歩譲って貴方がそうだとしても従う理由なんて、こちらにはないです。こちらは早く眠りたい、のです……」
そうして女神の話を聞く間もなくハーネイトは意識を閉ざし深い眠りに入ったのである。
「なぜ、貴方はそこまでして私たちの存在を拒むのですか。あなたもその女神の力、それに私たちの先祖の1人が発現した奇跡の力を引き継いだ存在、遍く希望と奇跡を与える半人半神であるのに。そんなに、出生の秘密を知ることが怖いのですか?求めている答えは、ここにあるのに……オベリスさえあれば、全てを見せることもできるのに、ああ」
アルフシエラはハーネイトの対応に関して残念そうにそう言いながら、自身もまた眠りについたのである。いつになればこの男は自身の運命に気づくのだろうと思いつつ、しかし近いうちにその運命に向き合うはずだと信じ瞳を閉じた。
アルフシエラは、このハーネイトに眠りし娘の権能の力も、自分たちヴィダールというエネルギー生命体を生み出した旧世界支配者の力もこの若者に集約していることを十分に知っている。だからこそ、それに気づき娘の陰謀と恐るべき計画を打ち砕いてほしいと、切に願っていたのであった。
翌朝ハーネイトは起床し外の空気を吸うために部屋を出て、長い廊下の窓から外の景色を見ていた。霧が昨日よりはわずかに和らいでいるものの、視界の悪さは相変わらずであった。
すると下の方から声がし、急いで下を見下ろすと広場に70人ほどの若者が集まっていた。ハーネイトはまだ寝ていた伯爵とリリーに声をかける。
「ふああ、もう朝か。南雲と風魔はもう外か? 」
「そうだ、それでテストに付き合うかヴァン」
彼は、退屈そうにしていた伯爵に、テストの審査員として参加しないか提案する。
「いや、やめとく。うっかり分解したら不味いしな」
それに対し、ヴァン自身はうっかり生徒を殺しかねないと遠慮する。それに確かにそうだとハーネイトはいい、様子を見るといいと提案する。
「まあそれが無難か。これはハーネイトが彼らを品定めする試験だからな」
そういいつつ伯爵はゆっくりと立ち上がり、背伸びをしてから部屋を出る。そして校舎を出てすぐに3人は広場に向かい、藍之進に会う。
「おお、きなすったな。今回、テストを直々に行ってくださるハーネイト殿だ。彼に各人、力を見せるときだ。では、よろしくお願い致すぞ」
藍之進は、ハーネイトたちの姿を確認し、広場に集まった学生たちに声をかける。
「分かりました。では、私からも説明を行う」
それに続き、彼も学生たちに試験のルールを説明する。採用試験のルールは至ってシンプルで、今からハーネイトと戦えというものである。どちらかに傷をつけるか、特異な力を見せつけ力を認めたものに、今回の作戦に同行する許可を与えるといった。
「遠慮はいらん、胸を借りるつもりでかかってこい」
ハーネイトは力強く叫びながら、紺色の鞘からゆっくりと刀を抜き、忍らに剣先を向ける。
「誰だ、あの隣にいる角の生えた男は」
「あの人とも戦えというのだろうか? 」
ハーネイトの威勢のいい掛け声に全員が反応しつつ、ヴァンの姿を見て生徒たちがざわつき始めた。
「おいおいなんだよ。俺様はハーネイトの相棒だ。それに今回は戦うつもりはない」
「そんなこと言わないでください、貴方の力も見てみたいです」
「なんか強そうなお方だ、ぜひ手合わせをお願いします! 」
「えぇ、ったく、そんな目で見るなよな、参ったぜ」
伯爵の言葉に対し、忍たちから予想外の言葉が飛んできた。そういうならば期待に応えてやろうと、伯爵がハーネイトの隣に並ぶ。そして彼は両手を光らせ、光の剣を作り出したのだ。その剣は眩く電気をバチバチと纏わせており、美しくも恐ろしい長剣であった。
伯爵は防御不可の菌属性の他に、無数の微生物が作り出す電気を集め、自在に操る雷属性の技にも長ける。今回はそれだけで戦うと彼は決めて、手にした光剣を忍たちのいる方へ突きつけた。
「やれやれ、仕方ないな。伯爵、少し手伝ってくれ」
ハーネイトは伯爵に小声で指示をし、わずかに苦笑いを見せた後伯爵はこぶしを合わせ気合を入れる。
「了解、任せとけ相棒」
すると2人の体から抑え込んでいた闘気が溢れだした。力強く、激しいその力は嵐のように忍たちに迫り、それを受けて気押され。中には後退るものもいた。
「これが、伝説の力。隣の男も、異様な雰囲気だ。しかし認められるには示すしかない」
「里の未来を変えるためにも、この試験、引けないわ」
「ああ、やはりこの2人は強さの次元が違うな風魔。まるでつけ入る隙がない」
「そうね南雲。森での戦いでも終始魔物の群れに笑いながら、一方的に戦っていたわね。でも私にだ
ってとっておきがあるんだから。認めてもらうためにも! 」
忍たちがざわざわしているなか、最初に数人の忍が飛び出し、苦無や手裏剣をハーネイトらに投げながら距離を詰めてきた。いよいよ彼らのこの先を決める試験が始まるのであった。




