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神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説  作者: トッキー
第1章 第1シーズン 宇宙からの侵略者DGvsハーネイト遊撃隊
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第29話 からくり巨大兵器「富岳王」とホールズの魔獣化


「貴様、何の真似だ。っ、それはあのカード! 」


「へへ、貴様も知っているようだな。このカードの恐ろしさ、今見せてやる!俺は一時的に魔物になるぞ貴様!うぐっ、がああああああ! 」


「よせ、それを使ったらどうなるか分かっているのか! 」


「知るかよ! 」


 自分でカードを胸部に張ったホールズが突如苦しみだす。すると体が青白く光りながら、姿形をあっという間に変形させ、巨大な全長8m級の熊に変身した。


 ハーネイトが放った魔法による拘束も変身により解除され、怪物化したホールズは耳をつんざくほどの咆哮をけたたましく上げる。

 

 黒紺色の体毛に赤く怪しく光る目、鋼を切り裂く爪。その体から溢れる異様な雰囲気、ハーネイトは驚愕した。人が魔物、しかも上位クラスの魔獣に変身したことに。その魔獣はアグザゼリスと言う。それは稀に森の中で見つかる、どう猛な巨大熊である。


 また、他の世界からの流れ魔物であり、生態系に対し多大な影響を与えかねない危険な魔物である。


「あのカードが、フラフムで遭遇した敵の変身と関わっていたのか。ユミロの言っていたあれか。これはなんとしてでもあの宇宙人ども、ハイディーンたちを止めなければならない」


変身した光景を目撃し、刀を持ち直し構えるハーネイト。これ以上このような事態を起こしてたまるかと彼の目付きは更に鋭く険しくなる。


「しかしこの魔獣の倒し方は分かっている。ユミロは、寝ているようだな。ここ最近よく頑張っていたからな、1人でやろう」


 ハーネイトはそう考えながらも全速力で襲いかかる魔獣に対し、素早く右回りで後ろに回りこんだ。すると刀の先端に創金術イジェネートを用いて金属を足して、斧状に変えてから首の後ろを強打した。


 このアグザゼリスは、首の後ろの体毛が他の部位よりも少なく、そこを強打することで気絶させやすい特徴を持つ。つまり攻略法さえ知っていればそこまで脅威ではない。


「ああああああ!!がはっ、ウグッ、貴様あああっ! 」


 強烈な一撃によりダメージを受けるホールズ。正確に頸部を打撃され、痛みで暴れる。そして施設内を爪で暴れるように壊していく。


「手がつけられないなこれは、しかしこれで分かった」


 そうして彼は変身させるカードの特性を理解した。変身した魔物は元の魔物と同じ弱点、行動をとり、人間らしさが全くなくなることを把握した。


「アアアアアアアア! 」


ホールズは更に興奮し、飛び上がり工場の天井を突き破る。


「逃げるつもりか。逃さない」


 ハーネイトもすかさず飛行魔法と創金術を用いて生み出したブースターを展開して合わせて彼を追いかける。


 するとホールズは既に建物の外に出ていた。その頃、櫓から施設を見張っていたリシェルらは、魔物の姿を視認した。


「建物から何か出てきた。なんだあの熊は。魔物か? 」


「うわわ、あれは一体何ですか?見たことない生き物ですね」


「あれは熊じゃな。獰猛で牙や爪が鋭く並みの人間では太刀打ちできない生物だ。しかし異様な雰囲気を醸し出しておるし大きさからしても魔獣であることには違いはない。お、ハーネイト殿も出てきたぞ」


 ハーネイトはすぐに逃げるホールズに追い付いた。するとホールズは彼の存在に気付き、ぐっと振り向くと鋭く光る爪を見せつけつつ威嚇する。


「この場で倒す……!24の双翼 猛炎の魂 焼かれ舞い、虚空に消える 幾多の火燕よ狂い踊れ!大魔法34号・火燕掌砲かえんしょうほう


 目を逸らさず彼は魔物を見つめる。そして素早く詠唱し、手元から無数の炎を纏った燕を数十匹も飛ばし、周囲もろとも炎上させ怯ませようとする。


「しかし、一度魔物になった人間は、倒した後で元に戻るのか?いや、その前に爆発の危険性もある。何としてもここで食い止めないと」


 ハーネイトは疑問に思った。このままの状態で倒せば、彼は人間に戻れないのかと。それがハーネイトの反応をわずかに鈍らせる。


「がうううう!ぐるぅあああああああ!」


「ッ、完全に獣の意識に取り込まれているのか? 」


 再度ホールズが距離を詰め、ハーネイトを爪で引き裂こうとする。それに俊敏に対応し、ハーネイトは瞬時に刀で受け止める。その衝撃で体がわずかに後ずさる。


 それに対し、魔物は鋭い爪によるラッシュ攻撃を行う。その怒濤の連撃にハーネイトは防戦一方であった。


 彼の持つ刀は特殊すぎる工法で生み出されているためその連撃に余裕で耐えても、持ち主であるハーネイトが踏ん張っている地面に亀裂が入り、このままでは地盤が持たず崩落の危険がある状況だった。


「なぜ攻めないハーネイトさん。なにか理由があるのか?戦うときは苛烈な鬼になるともいわれているが、おかしいな」


「うーん、ハーネイトさんは何か狙っているのかも? 」


 2人は、ハーネイトが本来攻勢に出れば瞬殺できる相手なのに何故か防戦に徹していることに疑問を抱き少しやきもきしていたのであった。


「そうか、もしかしてあの魔獣、夜之一さまのおっしゃっていたあのアイテムによるものか?なんて恐ろしいんだ。しかしダメなときは我らが対応せねばな」


「ああ。しかしなんだこの揺れは」


 するとリシェルが衝撃に反応し、すかさず手にしていたアルティメッターを構え狙撃体勢に入る。


 その間防戦に徹していたハーネイトは刀を巧みに使い、創金術と魔素運用術で実体剣部分を強化、さらにマジックエッジを形成し爪を一気に受け流す。


「うぐるぅううあああ!! 」


「一か八で試すしかないか、こういうやり方もあるのだ! 」


 そうしてハーネイトは一瞬の隙を突き、大きくバク天しながら一旦距離を取る。そしてすかさず左腕をつき出すと、その腕が勢い良く伸びていき、それは真っ直ぐ魔物となったホールズの胸元に飛んでいく。


 更にそれに合わせ、地面から2カ所、魔物の頭上から2カ所同じ色の魔法陣が現れ、それぞれから数本の鎖が発射された。それらはすべて魔物の体に絡みつき動きを封じる。そうして2秒後、胸に張り付いていたカードに向けてある技を放つ。


「捕らえた、ぐぬぬぬぬぬぬぬ、とりゃあっ! 」


 ハーネイトは、自身に備わるイジェネート能力を使い、左腕すべてを金属にしてそれを引き延ばしたのである。完全に創金術、イジェネートを使える者はそのような技術も運用できるのであった。そうして左手でしっかりカードを捕らえると、間髪入れずに贅力をもって強引に引き剥がす。


「ぐぬぬぬ、は、はあ!これでどうだ」


 そして彼は、カードを捕らえた左腕を収縮すると素早く引き寄せた。銀色に変色した左腕はすぐに元に戻り、その手には体から離されて尚、紫や黒といった異様なオーラを放つ一枚のカードがあった。


 一方でデモライズカードを剥がされたホールズは数秒後体に電撃が走り、悶絶しつつも徐々に人間の姿に戻っていった。そして全体力を消費した彼は地面にどさっと倒れこむ。


「やはりカードがなくなれば、変身は即解除か。しかし、もしこれが一般市民に使われると考えると寒気がするな。まず肉体が持たないだろうし、何よりも自在に魔獣を呼び出し、町を破壊させることが容易なのだから。いや、それよりも力に耐えきれず自爆する危険性の方が問題だ。ハイディーン、お前のやりたいことはこういうことだったのか……? 」


「ハーネイト、無事か? 」


 ハーネイトを見つけた吉田川が声をかけた。どこか思いつめた表情を見せるハーネイトを心配してのことであった。


「ああ。鉄蔵さんたちは? 」


「既に避難済みさ。体調面も特に問題なさそうだ」


「そうか、1つ頼みがあるがこの倒れている男を町にいる医者まで連れていってほしい」


「まあ、治療はこちらでもできますが一応、ですね」


 ハーネイトは、地面に倒れているホールズを肩で抱き持ち上げる。本来なら彼の使う奥の手の一つ、我侭之霊剣を使うことで攻撃や治療、強化などを行えるが精神力をかなり消耗するのとカードの性質をまだ理解しておらず、何がトリガーで即起爆するか分からなかったので使用できず時間がかかる戦いになったのであった。


「死なれては情報を引き出せない。魔物に変身した影響を見てみたい」


「うむ。分かった。任せてくれ。確かに情報は欲しい。では失礼します。事後処理が終わりましたら、城の方にお戻りください」


 吉田川は近くに待機させていた部下を呼び、気絶しているホールズを連れて町の方へ行った。そうして彼が去ってから数分後、リシェルらがハーネイトの元に走って来た。


「大丈夫ですか? 」


「無事か? 」


「ああ、なんとかね。しかし厄介なアイテムだ」


「どういうことですか? 」


 ハーネイトは、エレクトリールにホールズが使用したカードを見せた。


「これはあのカードか、しかし絵柄や色が異なる。これについてわかったことがあるのか、ハーネイト殿」


「ああ、八紋堀さん。こいつは人間を魔物に一時的に変えるアイテムのようだ」


 それを聞き、リシェルは顔色を変える。あの敵の戦闘兵が使っていたものの正体が、人を別の生物に作り替えるものだと改めて知り動揺の色を隠せなかった。


「なんだと。今まで戦ってきた魔獣みたいにか?ああ、あのDGの戦闘員たちのあれ、か。あれは、ひどかったです」


「大体はそうだな。特に並みの兵士では討伐が困難な上位魔獣も、人体を媒介に召喚できると見た。そして他にも厄介な機能がある」


 もし彼の推測が正しいとすれば、それはこの世界において重大な危機に直面しかねない事態である。


「ふうむ、そうだな。この辺りでは見ない魔獣でしたな」


「確かに、熊と言えどもあそこまででかいのは見たことがないですよ八紋堀さん」


 ハーネイトは、変身した魔物も、オリジナルと同じで、カードさえ引き剥がせば人に戻ることと、弱点箇所や相性もオリジナルと同じであるということを3人に教えた。さらに力に耐えきれなくなった者は体が崩壊し爆発するということも教えた。


「そうでしたよね、あの爆発。忘れられない」


「ああ。変身させて暴れさせた挙句にあれとか、俺も許せねえよ」


「早く敵の計画を潰さないと、犠牲者が増えます。恐ろしい代物ですね」


 2人はこのカードを使用したことによる影響の結末を考え、改めてDGが身内にも非道である存在だと確認し憤らずにいられなかった。


「そうなると更に対策を立てなければならないな。これが普及でもすればただ事ではない」


「確かに。とりあえず城に一旦戻りましょう」


八紋堀がそう指示したその時、突如地響きと轟音が鳴り響いた。それにより4人は姿勢が崩れる。


「なっ、この揺れは。施設の地下からか?」


「音と感覚から、そのようですね!大きいですよこれは」


「この施設には一体何があるんだ? 」


「不味い代物でもいるんじゃないすかね?」 


 全員が姿勢を戻し、武器を構えると、施設がいきなり激しい音をたてて崩れ、地面を砕きながら瓦礫の中より巨大な機械の腕が現れた。その腕は地面を掌で踏ん張ることで、上半身を露にした。


「なんてでかさだ。威圧感がありすぎる。機士国でもこんな巨大な機械はそうそうないぞ」


 4人は、突然起動した兵器に唖然としていた。有に上半身だけで10mはあろうかと見える巨体、肩や腕には大砲や巨大な剣が取り付けられている。そして、頭部にある4つの機械の目がハーネイトらを捕らえ、不気味な赤い眼光をギュインと光らせた。


「気づいたか、こやつは起動してから始めて見たものを追いかけるプログラムがある。破壊するまでな。約100年前に作られたとされる対城兵器・富岳王ふがくおう、それがこれだ」


 八紋堀がそういった富岳王とは、まだ日之国が戦乱続きだった際に開発された、巨大なからくり兵器である。限界まで武装を積み込み、その圧倒的破壊力は国に仇なす敵軍の士気を大きく削いだとされる。


「とんでもないテクノロジーですよねこれ!私の住んでいた星とは違う系統の技術、ううむ。しかし電気で動くなら。どうでもないですね」


 エレクトリールは、みんなの前に一歩出て、右手にイマージュトリガーを持つと、雷を激しく帯びた黄色い長槍を呼び出し、右手で槍を持つ。そして投げる構えで引いてから突き出し高圧電流を浴びせる。


「これを喰らえっ、ライジングスピア!って何で効かないんです?もしかして武器に込めた電圧が足りなかったのでしょうか」


 エレクトリールの放った雷も、富岳王の前には効き目が薄いようだ。その結果に驚く彼、いや彼女であった。


 それについて八紋掘の説明が入る。何でもあれは、原始的な動力で動いている機械であること。約8割の機関が歯車や蒸気を使用したものということが1つ、頭部の装置はかなり強固で電気を吸収したり地面に流す機構も備えており、装甲も帯電しているため、電撃が通りづらいことも攻撃が効いていない理由だと話す。


 そのため、やるなら一度にすべてを壊す力でバラバラにするか、関節部を狙うしかないと彼はエレクトリールにそうアドバイスする。


「まるであのゲルニグ見たいですね。いやになります……」


「しかしあれは俺を最初に見ている。記憶して追撃するなら、ここに居ては街に甚大な被害が出かねない」


「ああ、せめて頭部の部品だけでも無事に回収できれば、記憶メモリから奴らの情報や昔の記録を手に入れられる可能性が、ぐぬぬ」


「八紋堀、いい考えがある」


 ハーネイトは八紋堀に念話で話しかけいい作戦があると内容を手短に伝えた。


「俺が囮になって、あのデカブツを町の外に出して、頭部だけ回収してあとは倒す。切り札が範囲広すぎて町を巻き込むのでな」


「うむ、確かにそれがよいのだろうが、どこに誘き寄せるのだ? 」


「あの森です。あそこなら大丈夫です」


 ハーネイトは目線を南門の向こうにある森林に向けた。


「ハーネイト殿、あそこは迷霧の森だ。入ったら容易には出られん」


「仲間に位置を知らせるアイテムはある。安心してくれ、できるだけ早く戻る」


 そういうとハーネイトは走りだし、カラクリ兵器の目の前に立つ。するとカラクリは巨大な腕を高く上げ、ハーネイトを潰そうと振り下ろした。それを鮮やかにかわして、町の外まで走る。


「ちょ、ハーネイトさん!どこへいくのですか?」


「ハーネイトは囮になってカラクリを町の外に誘き寄せているんだ。あのカラクリの特徴を逆手にとるやり方だ。ハーネイトの方を最初に見ていたというなら、ずっと彼を追い続けるな」


「見たものについていく機能ですね?しかしどこに誘導するつもりですか。ハーネイトさんの進む進路上には、白い靄がかかった森みたいな場所がありますが」


「そこまで誘導して、一気にかたをつけるつもりだ。しかしあの森は危険だぞ」


「確かに視界がかなり悪そうな場所だがな」


 リシェルが指摘している森は、通称迷霧の森と言われる。深く濃い霧が森中を包み込み、非常に視界を悪くしている。


「問題はあの霧が魔力を帯びて、しかも有害な霧の出る場所がいくつも森のなかに存在していることだ」


 八紋堀いわくその霧には有害な成分が含まれていることもあり、通常の人間が長時間いることは死にもつながりかねない。


「大丈夫、でしょうか。ハーネイトさん」


「分からぬ、な。ハーネイトでさえもあの霧のなかはかなり動きが制限されるだろう。ハーネイトが10年以上旅を続けていても、南大陸に行けない理由でもあるからな。だがあれから成長もしているだろう。どうなるかは予測がつかん」


「ええ、ハーネイトさんでも難しいことが、そんな」


 八紋堀の表情が少し暗くなる。しかしハーネイトの能力を彼は信じていた。


「このままじゃ見殺しになるぞ八紋堀さんよ?」


「ハーネイトは戻る方法はあるといったが、どうだかな。前に一度入って戻ってきたからな」


「そうですか、しかし何か今できることは」


「戻ってこれるように祈るしかないのか、いや。できることはある」


リシェルはアルティメッターを変形させ、簡易砲台セントリーバスターモードにし、カラクリに照準を定めた。そして街の外に出ようとする富岳王をしっかりとスコープに捉え続けていた。

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