第192話 マースメリアに現れた赤き霊龍
「前に師匠が倒した飛竜よりもはるかにデカすぎだろ!」
「これが、古文書に書いてある実態無き龍、霊龍ですか」
「ぬう、ここまで巨大な龍は殆ど……っ、頭が」
ハーネイトたちは頭を高く上げるほどに巨大な紅い幽霊龍の姿を見ながら徐々にマースメリアの内部に入ろうと進んでいるのを見ていた。
そんな中ミロクが頭を抱えて苦しそうな表情を見せておりハーネイトとミレイシアが駆け寄り大丈夫かと確認する。
「どうしたのですかミロク様」
「じっちゃん、大丈夫ですか?」
「何だか、忘れていた物を思い出しそうじゃが、ふう、大丈夫じゃ。では行くぞ、神奇影軍
……影剣!」
どうもミロクは幽霊龍を見て何かを思い出しそうになり頭痛がしたというらしく、それでもすぐに立ち上がるといの一番に龍に向かって突撃し、黒い影で出来た剣を形成し霊龍の足元を攻撃し始める。
「リシェル、エレクトリール、機動力を削ぐために龍の足と翼部の関節部を集中的に狙え!」
「了解!」
それを見てハーネイトはヴァンとエヴィラ、ガイナスやリクロウたちにも前に出て戦うように、エレクトリールとリシェルに対しては後方支援攻撃を行うように指示を出すと両腕を体の前で交差させ、精神統一を行う。
「さてと、今ならこの姿、見られてもあまり抵抗がない。仲間がいるからかな」
「見せてやりなさいハーネイト、私も行くわよ」
「ああ、2人で頭部に攻撃だ」
エヴィラもそれに合わせハーネイトとおなじ構えを見せ、双方氷の嵐と血の風に体を包み、それが消えると姿が変化していた。
「戦形変化・青氷魔皇!!!」
「血衣解放・紅血貴姫!!!」
ハーネイトは氷と青の力を司る蒼き霊龍の力を身にまとい、龍鎧衣を形成し手には氷の槍を携えていた。エヴィラはいつも着ているドレスが更に豪華になり悪魔の翼を背中から生やした血の悪魔の姿を見せ、すぐに飛び上がると2人同時に赤き龍の頭部を攻撃し大きくよろめかせ進軍を阻止する。
「す、凄いっす!何ですかその変身!」
「成長したもんだな、新しい切り札か」
「はい、戦形変化と呼ぶ変身戦闘術です。しかし、エヴィラ……その姿、まさか」
「言いたいことはあると思うけれど、まずは眼前の敵を倒すわよ。私に合わせて」
「ほう、興味深いな。しかし、改めてハーネイトは最強だ、ガハハハ!」
「そんな、私も好きで力を得て使っているわけではないのですし。っ、わかったよエヴィラ、行くぞ!」
東部への攻撃を成功させ、一旦地上に降りたハーネイトはリクロウとガイナスからその変身した姿について質問攻めを食らうが今は戦闘中だといい、すぐさま再び飛び上がり、氷の剣で龍の体を四方八方から攻撃する。
しかし霊龍の耐久力はずば抜けており破壊した頭部が何と再生し、再度炎のドラグブレス攻撃を口から放ってきたのであった。
「なっ、頭部が再生しただと?」
「皆、私の後ろの隠れて!」
「はい!」
「俺もやるぜ」
「遮ろ、龍鱗鎧!」
その猛炎はガイナスたちに迫ろうとしていたが、ハーネイトとヴァン、エヴィラが協力し青白い6角形の防御力場を自身の前に展開し炎のブレスを受け止め吹き飛ばし、間隙をついてエヴィラが血針を関節部に飛ばしダメージを与え、怯んだ隙に少し離れた場所からリシェルとエレクトリール、さらにギルドマースメリアのギルド員たちの魔法、銃撃による攻撃が空を覆いつくすかのように放たれる。
「リシェル、エレクトリール!」
「了解! 霊閃・破天奔流!」
「これで終わりです、ライトニングボルテッカー!!!」
更にリシェルは手にしていたアルティメッターのリミッターを外し超高出力のビームを銃口から放ち、エレクトリールがそれに合わせ前方にプラズマを落とし龍の前足を破壊することに成功する。
「確か、あの古文書には龍の倒し方について書いてあったのがありましたわね」
「わしも見た。ハーネイトよ、胸部の光る核に強烈な一撃をぶつけてやるのじゃ」
「は、はい!では、覚悟してくださいね!華麗に華劇に決めてやる、終劇決戦戯・鋭氷舞刃!!!」
「あれの動きはこの俺が止めたるで!戦闘微術・菌糸!」
リシェルとエレクトリールの一撃で前足だけでなく赤き霊龍の胸部が破壊され内部の黄色に輝く核の部分が露出したのを見てミレイシアとミロクは古文書の中にあった龍の攻略法についてハーネイトたちに伝え、それに従いハーネイトとヴァンが連携攻撃を披露する。
まだ動こうとする霊龍の動きを戦闘微術による微生物を凝縮した糸でがんじがらめに拘束し、とどめにハーネイトの鋭氷舞刃が炸裂する。
高く飛翔し、無数の氷のつぶてを龍に向けて飛ばし、巨大な2振りの氷剣で前方を何回も切り裂いた後、自身の体に氷塊を纏わせ、錐揉み回転しつつ龍の核を穿ち削り完全に破壊することに成功したのであった。
「おおお、以前よりもはるかに、強くなったな」
「はい、ガイナスさん。僕も、もっと強くなりたい。すごい、な」
「へええ、大分動きに無駄がなくなって来たわね。自然な感じで戦えているみたいだし、私も安心したわ」
肉体を維持するための核が壊れ、霊体を維持できずに徐々に光の粒子となって消えていく霊龍を背景に、ガイナスやリクロウ、エヴィラや街の住民たちはハーネイトたちの戦いについて感想を述べつつ、改めて英雄王であるハーネイトと、その仲間たちの功績を称えあちこちから盛大な拍手が送られたのであった。
「よくやったな、ハーネイト、いや若よ」
「すげえ、俺たちちゃんと連携すれば」
「あんな凄いドラゴンも倒せるんだね!やりましたね、えへへ」
「皆のおかげだよ。本当に、私も嬉しい。マースメリアを無事に守ることができた」
「っても損害が出てはいる。私が創金術で直してあげよう」
「僕も手伝いますよハーネイトさん」
「わしらは負傷者を医療所に連れて行くのを手伝うか」
「せやな、うちも手伝うで」
しかし街の被害も少しあり、負傷者も100名近くいるためハーネイトたちはすぐに負傷者の治療や破壊された監視塔などの修理などを能力をフルに使いあっという間に行う。
その光景を街の人たちも見ており、多くの人たちが手を取り合い作業を行い、わずか数時間で元通りに戻ったのであった。
ハーネイトたちはその後マースメリアの中に入るとガイナスたちとギルドの本部近くにあるカフェにて話をしていたのであった。
「さて、リクロウたちの協力もあってどうにか手に入れたわけだし後1つか」
「順調でいいわね。フフフ」
「よう、大したものだな」
ハーネイトは古文書の中を読みながら注文したクラフというコーヒーに似た香りの全く違う植物から獲れる葉で作られる飲料を口に含みながら優雅にカフェの椅子に腰かけており、隣にいたエヴィラは微笑みながら一緒に書物の中身を読んでいた。
その間にヴァンたちは街の人たちから質問攻めを受けていたが、その群衆をかき分けてある男が訪れる。それは別行動をとっていたサインであった。
「サイン!そっちのほうはどうだった」
「DGの連中はかなり俺一人で仕留めてやった。だが、どうも奴らはあるものに怯えているみたいだ。それが、お前かもしれねえ」
「どういうこと、なの?」
サインはハーネイトの元まで移動すると隣に立ち、姿勢よく構えると別行動をとっていた間に何があったのかを報告する。
「詳しくは他の幹部でも捕まえて吐かせた方が早いだろうが、龍の力を使い龍を封ずるものこそ一番危険な存在だと言っていた。恐らくお前とヴァンか……今まで以上に気を引き締めないといけない」
「確かに、私もそれについては思うところはある。だけど、それしかないなら」
「DGの連中、ヴィダールがどうのこうのと言っていたな。恐らくお前が天神界にいた際に話を聞いた内容と関係があるかもしれねえ。接触して話を聞くか尋問するのもありだろう」
「そうだな。もしDGの中にヴィダールという存在と縁がある者がいるなら、古文書にはない情報を得られるかもしれない。ありがとうサイン」
「今度査定の方上乗せしてくれよ」
「勿論だ」
サインと話をしながら情報を整理しつつ、DGという存在が実は自身を狙いに来た存在ではないかという話に戸惑いと恐怖を覚えるハーネイトであったが、その理由を知ることが大切だと心を奮い立たせる。
そのあとサインは冗談交じりに活躍に際して次の特別報酬の額について上乗せを頼むと言い、ハーネイトは微笑みながら快諾する。
すると今度はガイナスがサインに話しかける。
「サイン殿か、あれから何年たつか」
「フン、覚えていねえがあの戦いは忘れはしねえ。んでまた同じようなことが起きていやがる。ふざけた話だ」
「だからこそ、私たちがそれを止めるだけ」
「ああ、ハーネイトたちよ。街を守ってくれたお前らに住民の皆さんが感謝の宴がしたいとな。街の者が総出でお前らを祝おうと早速準備を始めておるわい。わしも手伝うか!」
「はい、今日はマースメリアでゆっくりしてください!今までの話、たくさん聞きたいです!」
「ああ、皆の前で色々話をしようではないか」
その間にもハーネイトやガイナスたちの周りにはマースメリアの住民たちが集まっており、中央通りにて机が幾つも運び込まれ若者や老人たちがせわしなく動き宴の準備をしていた。
「ミロク様、どう為されますか?」
「よいではないか、宴はわしも好きじゃ。それに、自身や周りに怯えておった若がああまで笑顔を取り戻しておる。いい風が吹いておるな」
「ええ、昔共に戦った時よりも、前向きな感じがしますわね」
「では、ご相伴に預かりますか」
「たまにはいいわよね、古文書ってのも残り1つだし、ここで焦っても駄目だわ」
「そうだな。では宴に参加しましょう」
当初ハーネイトたちは少し休んでから会議をこのマースメリアでしようと考えていたが、ガイナスや街の住民たちからの提案で宴を開きそれに参加し、体を休めて欲しいと言われ士気高揚なども合わせハーネイトはそれを承諾し、街を護った英雄たちはその日の夜遅くまで酒や肉、獲れたての野菜などを堪能し飲めや歌えやの大騒ぎに街中は賑わっていたのであった。