第190話 ロキナ・ウル遺跡と懐かしい戦友との再会・1
「ということで、ヴェスカトリポカ」
「ああ、次の遺跡の話だが」
スプリィーテスは手にしていた地図を机の上に広げ全員に地図の周りに集まるように指示を出し、次に行くべき場所を指さした。
「確か、この辺りは近くに街がある。オアシス都市だが、懐かしいな」
「マースメリア、って街?」
「そうだ。そこには冒険者ギルドってのがあってね、私はその人たちと共に昔大仕事をしたことがあった」
そこは、ハーネイトもかつて訪れた街である南大陸と西大陸の接続部分に存在する砂漠地帯、アンゴルス砂漠帯の中に存在するオアシス都市、マースメリアという街であった。
「何、その話聞いたこと無いわ。ねえ教えてよハーネイト」
「俺もやで、何したんや」
「血の魔人の力に引かれ、それを利用しようとして逆に利用され、多くの街を滅ぼそうとしたある国の代表と戦った。血徒再葬機関としての仕事でね。リリーに話してなかったか、そうか」
ハーネイトの話に反応したリリーやヴァン等に対し、何があったかを彼は説明する。
それは今から数年前、まだリリーたちと出会う前の話であり、マースメリアとその隣にあるガンギラス帝国の間で起きた恐ろしい戦争の話であった。
当時帝国の代表であるロシラウス3世は血の魔人に憑りつかれ、周囲を血の海地獄に染めて侵略しようと周辺の国々に襲い掛かったのであった。
事実上不死の軍団、血の怪物こと紅儡の群れはさらに数年前に起きた2億人の命を奪った血災と同様の様相を呈するほどに猛威を振るおうとしていた。
だがマースメリアにあるギルド、マースメリア冒険ギルドに所属する冒険団員たちとちと再葬機関の代表であるハーネイト、彼に協力する魔法秘密結社バイザーカーニアの奮闘でロシラウス率いる軍勢は制圧され、帝国は滅亡して人類に対する脅威は打倒されたのであった。
「マジすか、てことはあの話本当だったんすか?」
「あの時はBKも参加した。俺もだが、あのリクロウという少年は元気にしているだろうか」
「そうだな。あれから久しく会っていない。次の場所も気になるし、遺跡の方に行きましょう」
リシェルはその話を聞いたことがあり、本当のことだったのかと驚いていた。するとハーネイトはその戦いの際に共に肩を並べて戦った少年、リクロウの名前を出し元気にしているか確かめたいなと口に出し、遺跡の調査ついでにギルドの人たちに会いに行こうと考えていたのであった。
そのあと会議は滞りなく進み、翌日の朝にハーネイト一行はゼペティックス社の手配したトランスポーターを利用しマースメリアまで運んでもらったのであった。
「とりあえず先に遺跡の方に向かうぞ」
「はい、敵の手に落ちる前に」
その足で急いでハーネイトたちは砂漠を移動しながらその中にあるロキナ・ウル遺跡まで移動し、入り口付近である人を見つけたのであった。
幸いこの地域特有の激しい砂嵐は今は発生しておらず、ベイリックスから降りたハーネイトたちは遺跡に入ろうとしたが、ある異様な光景に思わず息をのんだ。
それは周囲にはDGの者と思われる戦闘員がすでに息絶えた状態で数十名おり、もしかしてその入り口に立っている人がそうしたのではないかとエレクトリールたちは警戒する。
「あ、貴女は」
「私の名前は、ロウレラ・アルキメディアと……って、なぜ貴女がこんな場所に?」
「久しぶりですね、ロウレラ」
「え、この魔女とミレイシア知り合いなのか」
「知り合いというよりは腐れ縁、あるいはライバルみたいなものですね。ああ、うっとうしい」
DGの戦闘員を全員倒した、碧色のフードとローブを纏った水色の目を光らせるその女性は、ハーネイトだけでなくミレイシアとも縁がある魔女、ロウレラ・アルキメディアというギルドマースメリアの一員として活動する風の魔女という呼び名がある恐ろしい存在である。
「それはそのままそちらに梱包して送り返します。殺戮の化身であるミレイシアがなぜ……」
「私は主に仕える喜びを知ったのです。少々あれなところはありますが、ハーネイト様は古代人にとって新たな時代を切り開く重要人物です」
ミレイシアはロウレラと面に向かって話をしながら、ハーネイトがいかにすごいかを力説するもロウレラも彼のことはよく知っており昔戦友であったことを話しヒートアップしていく。
2人とも意外なところでそういう縁があるのだなと思いながらも話しているとリシェルの一言で流れが変わる。
「おっかねえな、ってロウレラ、ってあのガンギラスの戦いで活躍した、風を支配する魔女!」
「ええ、遺跡に不用意に入ろうとする愚か者は、風の魔女である私の風の裁きを受けてもらいましたわ。何が狙いかは分かりませんが、不吉な風が星を覆おうとしておりますわ」
リシェルは今から数年前に起きたまだ自分が幼い頃に聞いたある話が忘れられずにいた。
それこそがハーネイトがヴァンたちに話したこの地域で起きた血の魔人による事件であり、ハーネイトだけでなくギルド・マースメリアの人たちについてもファンであったりシェルはサインをロウレラに求め、面倒そうに彼女はそれに応じながら今この星には不吉な風が吹いていること、外界からの侵略者が何か恐ろしいことを企んでいるのではないかという懸念を口にしていた。
するとハーネイトは周囲を見渡しつつある異変に気付く。それはある人物の影が見当たらないことであった。
「そういえばリクロウと仲間たちは?」
「はい、実はサイン様から依頼がありまして、このロキナ・ウル遺跡にて調査を続けていたのですが」
ロウレラはハーネイトの質問に対し、リクロウとギルドリーダーであるガイナスが遺跡の中に入ってからもう1日近く連絡が来ていないという。
最後の連絡の際にガイナスは血の魔人に遭遇したという言葉を聞いたと言い、助けに行こうとしたがDGの戦闘員が運悪く遺跡周辺に現れたためこれを全員撃退していたという。
「事情は把握した。ということは、血徒に分断されたかもしれない」
「状況から聞いて、そう考えるしか」
「その、リクロウってのは誰ですか?ハーネイトさん」
「昔、共に血徒の力を利用し乗っ取られた国を解放した、勇気のある少年だエレクトリール」
「マースメリアか、あの一件で規模を拡大したのは聞いているが」
「助けに行かないといけないわね。仮にも、血徒再葬機関の元メンバーよ」
「血徒再葬機関?」
「DGに属していた人たちは、知らないのも当然だ。私は、4年間各地で血の怪物と戦うための組織を率いていた、正確には引き入らざるをえなかったのだよ」
ロウレラから話を聞いたハーネイトは、リクロウとガイナスを早く助けに行かなければいけないという。リクロウについてエレクトリールが質問し、ハーネイトが代表である血徒再葬機関の一員であることを聞いた彼女は関心を寄せつつ話をさらに聞き出そうとする。
すると今度は遺跡の中から少年の叫び声と中年男性の怒鳴り声が響いてきたのであった。