第188話 ガストリア遺跡にて
その翌日の朝、ハーネイトはエレクトリールやリシェルなど数名をホテル最上階にある会議室に集め、次に向かう遺跡の選定を行っていた。
「んで、次に攻略する遺跡はどーこだ? 」
「お次はこちらじゃな。火山の中にあるぞ」
「マジかよ」
「今のところ休火山って感じだな」
「何でそんな場所に研究施設を作ったのか分からないっすね師匠」
「そうだね……だが火山活動などの研究もしていたのかもしれない。だがそれでも場所がね」
「まあ、取り合えず、一つ目の遺跡はこちらの物になったわけだが後幾つだったか」
「残りあと幾つだヴェスカトリポカ」
「4つだぞ。覚えておけ」
「うへえ、面倒くせえな」
「取り合えず、古文書の1つを手に入れたわけだが、解読しないといけない。しかし、幽霊龍とも呼ばれる存在か」
「龍の力についてわかるといいのだけどな」
龍は龍でも、実態があってないような存在の龍についてそれが何かを、遺跡にあるものを通じて知る必要がある以上早く動いて情報を集めないといけない。ヴァンたちはどうしたものかと話していたところ連絡がハーネイトの元に入る。
それは機士国王、アレクサンドレアル6世からのものであった。ハーネイトは内容を確認すると、席を立ち窓の方を見ながら険しそうな表情を見せる。
「これは、機士国王からの。……なに?ガストリアに行って調査してくれだと?」
「そんな場所あったか?まあそれはそれとて、そこにも遺跡があるんだな」
「ああ、しかし別件を抱えていてあまり調査できていなかったんだが……」
「そこも調べるべき遺跡があるが、どうしたのかのう」
「そういう問題じゃねえかもしれねえ、嫌な予感がするぜ」
その遺跡とは機士国の近くにある大規模な遺跡群がある城下町、ガストリアと言う所にあるガストリア遺跡であり、アレクサンドレアル王によれば最近妙な事件が起きており調査を依頼したいという話であった。
最近起きている事件、それはハーネイトにとって因縁のある第一の遺跡を攻略した際に遭遇した血の魔人が起こしていると思われるおぞましい事件であった。
その内容とは血まみれの怪物が通り魔のように人に襲い掛かり、数名の犠牲者が出ているという話であった。
「そうかもねヴァン、何だか寒気がする。昨日の件もそうだったけど、やはりあいつらが」
「あいつら、ですか。血の魔人というのは昨日の夜教えて頂きましたけど、そう言うのが猛威を振るっていただなんて」
「今この星で生きている者は、血災こと血の災厄から運よく逃れた、または生き残った人だ。それ以外の者は、皆血海というのに沈んでいきおったわい」
「それを生み出す血の魔人たちと戦っていたのが我が主や私たちなのですよ、エレクトリール」
「そうだったんですね、私……別の星から来たからそんなのがいるだなんて、全く。あの時も一体何だったのだろうかと思いましたが、そんなのがDGにいたなんて身の毛もよだつ話です」
血の魔人というのは血の怪物を生み出し操る存在であり、知らない者も多くハーネイトたちはそれについて説明を行ったが、あまりの恐ろしさに身震いする者も少なくなくハーネイトやミレイシアは昔から戦っていたことを話すと驚く者も多かったのであった。
「あいつ等は、私から大事な者をすべて奪った。何もかも、ね」
「問題は、その魔人たちの頂点に立つ者が私の妹かもしれない、という事」
「エヴィラか、今までどこにいたんだ」
「私なりに情報を集めていたのだけど、どうも方向音痴が……それで、どうもそのガストリアって所に数名血の魔人とその操り人形、紅儡が目撃されたって」
するとハーネイトの表情がいつもよりも厳しく険しくなる。それに気づいたエレクトリールたちが大丈夫かと確認するが、ヴァンやエヴィラの言葉でそうなる理由が分かり血の魔人という存在が彼の心に影を落としていることもよく理解した上でエヴィラは集めた情報を提供する。
それは血の魔人が操る紅儡が確かにそのガストリア周辺で見つかっており血の魔人もそこにいたという話であった。
「そう、か。確かに国王が直々に依頼を伝えてきた件と合致するな。急がなければ、周辺は血の海地獄と化すだろう」
「想像したくもないっすけど」
「止めるためにはその血の魔人ってのと戦わないといけないのですよね」
「有無、あやつ等は恐ろしい能力を幾つも持っておる。でエヴィラ殿か、お主は本当にこちらの味方になるのか?」
「ええ、勿論よ。だってあいつ等が本当に求める力を、このハーネイトは確かに持っている。それならね」
「U=ONEの力か。しかし何故、お前らは俺たちの縄張りに攻め込んだんだエヴィラ」
「それはねヴァン、恐らくあなたたちが管理していた何かを手に入れようとしていたみたいだけどその前に私は暗殺されそうになって血徒を抜け出したから」
「暗殺、お前ほどの存在がか?」
「罠に嵌められたのよ。全く、あいつらいきなり豹変して、私に襲い掛かってその後行方をくらませたの」
エヴィラは苛立ちながら机に座り、面倒くさそうにかつて自身の身に降りかかった悪夢に関して話をする。
エヴィラは昔血の魔人をある別の魔人の頼みでまとめ上げ組織化していたが、ある日突然豹変したように裏切り襲い掛かり、命からがら逃げだしたという。それが今でも信じられず、その理由にもしかすると幽霊みたいなあの龍が関係しているのではと話したのであった。
「そうなると、その襲ってきた奴らがまだ生きているかもしれねえんだな? 」
「そうかもねリシェル。まあ、もうU=ONEの力を手にした私だし敗北とかもうないわよオーホホホ!」
「なんかうぜえ。だが今は味方が多い方がええで。ワイもU=ONEになったわけやし」
「しかしそのU=ONEって何なのだろう」
「自分自身戸惑っているが、まずは遺跡を攻略し必要なものを回収する、それだリシェル」
リシェルは果たしてまだ襲ってきた仲間がまだいて、それが事件を起こしているなら問題すぎだろと質問するが、エヴィラは高笑いしながら自分が責任を取って全員ぶち倒すと覚悟を決めた表情に切り替える。
それは、U=ONEの力を施してくれたハーネイトに対する最大の恩返しであり、彼がある理由で血の魔人に狙われていることを知っているが故、それから守るために本来教えなければならないことを隠し続けており、彼を狙う魔人は全て自身が責任をもって倒し平穏な暮らしを彼に与えるためであった。
「てことで、ガストリア遺跡まで向かって遺物の回収をしましょう」
「ああ、それとシャムロック、また頼めるか」
「主殿の頼みならばいつでも構いませぬ。では準備をしてまいります」
そうして各自装備などを点検し、その日の夕方にシャムロックの運転するベイリックス3号で移動し、3日程かけて機士国の近くまで移動したのであった。
現地に到着する前に、ハーネイトやミロクはある不穏な気配を感じて警戒していた。それはヴァンとエヴィラも同じであり、車から降りると、その理由がよく分かった。
「何だと!まさか、あの事件の再来がっ! 」
「事件だと?まさか」
「な、何だと!あれは、血海っ! 」
「うげぇ、こいつはひでぇ。てことは……あいつらがいるな」
「改めて、これはひどいわね。ヴァン、ハーネイト、覚悟していくわよ」
「言われなくてもだ」
そう、何とガストリア遺跡の周辺は眼が眩みそうなほどに血まみれになっており、文字通り血の海と化していたからであった。