第183話 狙撃手の少女・シムカ
部屋に入ってきたシムカは、深く一礼してから自身の名を述べるより先に彼に質問した。それが彼女にとって一番気になっていたことであった。ハーネイトは目の前にある椅子に座るように促し、彼女は静かにそこに座るのであった。
「貴方が、あの狙撃手さんの上司さんですね? 」
「リシェルのことか?」
「いかにも、彼は私の部下であるが。まず自己紹介を改めて頼む」
「はい、私はシムカ、シムカ・ハユハと申します。もともとこの世界の住民ではなく、地球にいたのですが謎の光る亀裂に吸い込まれここに飛ばされて、幼いころにDGに拾われました。そのあとはスプリィーテス様やプラフォード様の教えを受けながら、狙撃手を担当しております」
「そうか、それは頼もしいな。遠距離攻撃を行える人材は万年不足気味でね。リシェルとともに後方支援を頼みたいところだ」
ハーネイトは既にリシェルから彼女のことについて話を聞いており、得意な間合いが遠距離であることについて言及し、そういう人材は貴重だと口に出す。
「のようですね。大体の人が近接、あるいは中距離戦までにしか対応していない装備なのは確かです。後方支援も必要ですし私でよければ任せてください」
シムカは、ハーネイトの仲間たちを見て近距離から中距離への敵に対して強い人材の多さに驚きながらも、自分やリシェルのような遠距離からの牽制や攻撃を仕掛けられる人材がかなり不足している点に言及する。
これはハーネイトの部下の多くが魔法戦や近接戦を好む者が多く、そうなるとよくて中距離までの射程しかカバーできない。それを聞いたシムカは魔法使いたちとの連携をどうするか考えないといけないと思いつつ話に花を咲かせる。
「ということで、色々協力していただけるかい? 」
「勿論です。DGは……転移してきた私を助けてくれた人の住む星を滅茶苦茶にしたのですから。なのに組織に拾われて……正直最初は自暴自棄でした」
シムカはそう口に出すと少しうつむく。一番憎い存在に命を助けられることが何よりの屈辱だった。だからこそ、苦難に耐えてでも内側から壊してやる。そう思い彼女は生き続けてきた。
僅かながら同じ思いをしていた仲間たちと出会い、異界の地にて共に背中を預け合う存在と共に戦場を駆け抜けてきたのであった。
「君と同じようなことを言う人は他にもいるようだね。確かに、いい気分ではない」
「でも、全員が悪い人ではなかったです。だからこそ、世界を壊す人たちだけはこの手で……倒したい」
「ああ、私もだ。人は、最初から悪人にはなれない。理由があるんだよ。複雑なね」
「はい……あの、よろしくお願いいたしますハーネイトさん。支援砲撃ならお任せを」
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ」
改めてシムカは、世界を混乱に陥れようとする存在を倒して、平和な生活を送りたいとハーネイトに言い彼も同感だという。それから2人は握手し、仲間としてこれから共に戦うことを約束したのであった。
「えへへ、私も早く、あなたのような優しい上司というか、人に出会えていたらな……って思います。普段のその素顔、私は好きですよ」
「そ、そうか。そう面と向かってと言われると、ね」
「そうですか?それと私からもいろいろ質問したいことがあります。あ、あとこの星で食べられる料理、気になります」
「あー、それなら大体はここのレストランで食べられるはずだが。私の部下にはいいシェフがいてね、私もそのシェフの食事は楽しみにしている」
「そうなのですか!?早くいきたいです! 」
「全く、そういうところを見ると年頃の少女か。じゃあこれを持っていくといい」
シムカの顔を見ながら、ハーネイトは机の下にある引き出しから何かを取り出し、彼女に手渡す。それは、あるチケットであった。
「これって、もしかして」
「この券を出せば、好きに一日食べられる。今までひもじい思いもしてきただろう。また、いろいろ話を聞かせてほしい。君たちのことを、別の世界のことをね」
「わ、わかりました!ありがとうございますハーネイト様。時間のある時にお茶会を開いて話しましょうね? 」
「気を付けていくのだぞ。ってまてまて、次に面談したい人を連れてきてからにしてー! 」
「じゃあ暇そうに休憩エリアでぼーっとしていたスプリィーテス様を呼んできます! 」
「お、おう。頼んだぞシムカ」
シムカはまるで子供のようにはしゃぎ喜びながら、ハーネイトの指示に従い次の面談対象者を連れてくると言うと部屋を出たのであった。それから数分後、彼女の言った通りスプリィーテスが部屋を訪れ、軽くお辞儀をする。
「さあ、改めて自己紹介は必要か、若き英雄よ」
「いえ、それはもう」
「フフフ、そうか。遠慮しなくてもええぞ?ミロクのせがれよ」
「はぁ……まさかじいちゃんにライバルがいたなんて」
ハーネイトはスプリィーテスに対し、目の前に座るように促す。しかし彼の放つプレッシャーにハーネイトは若干委縮していた。
それは、本気のミロクと戦う時に等しいほどの突き刺さる殺気の嵐、それが目の前の戦士から酷似したものと、天神界で霊龍と対峙した際に感じた霊気を感じたからであった。