第180話 3剣皇・スプリィーテスとその仲間たち
「来てくれたか、若き英雄よ」
そんな中ハーネイトは、ボロボロになった大きな酒場にて、探している男を見つけることができた。その男は彼の顔を確認すると、ふっと笑いながら来てくれたことに感謝していた。手にしていたグラスの中の酒を、くいっと飲んでから男は歩み寄ってきた。
「スプリィーテスさん、何故貴方は今までDGに属していたのか、もう一度聞きたいのです」
「一先ず、表に出てくれぬか? 」
「……分かりました」
ハーネイトは指示に従い、酒場を出て店の前に立つ。すると出てきたヴラディミールにいきなり斬りかかられる。寸でのとこでよけるが、びっくりしたハーネイトは地面をローリングしながら間合いを取り、その間に刀を鞘から抜き咄嗟に構えた。
「って、いきなり何を! 」
「すまんのう、少し腕試しがしたくてな。おぬしがどこまで鍛えられたか、見定めようかとのう」
目の前にいる老剣士の目は至って本気だ、そう感じたハーネイトはすぐに構え、早速自身の得意技で抑え込もうとする。
「全く貴方は!弧月流・斬月! 」
「おっと、いい太刀筋だ。日々剣術も鍛えているようだがこれはどうじゃ! 」
だが一撃を見切られ、逆にスプリィーテスは手にした剣を霧状にし、不明瞭な形状の剣にしリーチを伸ばし切りつけてきた。
紙一重でその一撃をかわしたと思ったハーネイトだが、異変を感じ腕を見ると、大量の蠢く銀色の何かがまとわりついており、徐々に体の動きを拘束してきたのであった。
「これは、微細機械!ヴァンと似た能力か」
「ミロクの孫よ、どう私の問いに答えるか! 」
「創金剣術・剣乱!!! 」
ハーネイトは創金術で周囲に数本の剣を作り出し、それを回転させ微小機械を吹き飛ばそうとするが全く効果がない。それを見たスプリィーテスはまだまだだなと思いながら彼を叱責する。
「その程度か!少し失望したぞ、お前の力はそんなもんじゃないだろう!」
「これもすべて創金術で作られているわけか、厄介にもほどが」
「はよ片付けぬと侵食されるぞ」
「これだけの数をどうすれば……ならば! 」
久しぶりにハーネイトの顔に焦りが見られる。これは伯爵が繰り出すような攻撃。とてもたちの悪いその技は、放置イコール死を招く代物である。
どう打破すればよいか彼は思索を巡らせ、この前の戦いで身につけた霊量子のことと、創金術との因果関係についてを思いだし、ダメもとである技を使用してみた。
「何?創金術だけではダメなのかこれは」
「さあ、どう打破するか」
「……そうだ、創金術と霊量術、どちらもどこかにているなと感じてはいたが、もし正しいなら!……霊量子にすべて変えるまでだ!」
それこそが答えであり、彼が見たかったものでもあった。これを霊量分解と呼び、創金士及び霊量士にとって重要な切り札級の戦技であった。
その光景を見ると、スプリィーテスは表情を変えて数回拍手を贈った。これならこの先起こるだろう事件にも対抗できると彼は分析していた。
「見事だ。だがそのくらいできなければ、あやつらを倒せん」
「あやつら? 」
スプリィーテスは笑顔で話しかけ、よくやったと誉めながら、ある存在について話をほのめかした。
「……遺跡にまだ眠りし古代人がいるのを知っておるか? 」
「アーロンのような……?いえ、すべてを把握はできていません」
確かに、あの遺跡には自分と同じ雰囲気を持つ人が眠っていた。それがほかの遺跡にもあるかもしれない。そう思うとどういう人たちなのだろうかと益々興味がわいてきたハーネイトであった。
「話は聞いたが、あのシルクハインに会ってきたそうだな」
「はい、確かに」
「これから起こることはそれと関連のある話でな」
スプリィーテスは既にハーネイトが、古代人12柱の1人であるシルクハイン接触に成功したことを知っており、それに触れながら同時期になぜ古代人たちは長い眠りから目覚めたのかについても話を行った。
「女神ソラ、か。ヴィダールの天神の一柱だな」
「一斉に目覚めるとしたら、それも考えられるのでは」
「うむ、目覚めた古代人が精神汚染されて手先として動いている可能性を捨てきれん」
「しかし、早々操られるものではないでしょう」
「セファスのような奴がほかにいるとしたらどうする。それに、幻霊龍もだ」
あの魔女・セファスだって正体はこの星の古代人であり、操る術を知っていればどうとでもなるというのも事件から分かっていたため、それを考慮した動きを求められると彼らは考えていたのであった。
「ぐっ、それならありえますね。実際結構操られていましたし」
「だが儂も良くは知らんのでね。だからこそ長年こうしてきたわけだ」
自身も長らく表向きはDGとして内部調査を行ってきたものの、謎な点が多かったことについて述べるとハーネイトは魔女セファスの件に触れ話を進めた。
すると少しして、道路の向こうから数人が二人の方に向かって歩いてきていた。彼らは先程まで戦っていた二人を見ると驚いた様子を見せた。
「ふぁあああ、あれ、おじさん?その人は……!」
「おや、とうとう来てしまいましたか」
「ケッ、まだ俺より若いじゃねえか」
「貴方がハーネイトねえ、写真と少し違うのねフフフ」
「噂には聞いていた。どうも目的は同じようだね」
「まあ、退屈しなさそうならそれでいいんだが。しかしヴァンは元気にしてんのか?そっちにいるんだろ?」
3人とも、ハーネイトの顔を見るとすぐに声をかけるが、勿論彼は3人のことなど知らないため困惑していた。
「どういうことだ、何故全員私のことを」
「この星を訪れてから、ある集団の話を聞き興味を抱いていました」
「それがあなたたちなのです。スプリィーテスという男のもとで私たちはある計画の阻止をしようと」
「そこのおっさんが耳にタコできるくれえにお前さんの名前を言ってたんでな」
3人はそれぞれ、ハーネイトのことを何故知っているのかを口に出す。どうもスプリィーテスらうんざりさせられるほど話を聞かされていたようで3人ともどこか疲れている表情がうかがえたため、ハーネイトは少々困った顔をしながら3人の名前を聞き出そうとする。
「そうか、それでそろそろ名乗ってもらおうか」
「私はウォークロード・ミタカ・スギヤキと申します。異世界からやって来たのですが、今ではこうして暮らしています。地球に早く戻りたいのですが」
「俺はバスティアンガ・ウッシュガローだぜ。シクヨロ!援護射撃は任せてくれ」
「私は、サイシア。エスメラルダ・ミシェル・サイシアよ。霊量子を使った超能力を使うわ」
3人はそれぞれ名を名乗ると、改めて協力する旨を伝える。ミタカという細身の帽子をかぶった男は終始丁寧に、ウッシュガローというやさぐれた雰囲気を醸し出す、背中に奇妙な大銃を背負った黒褐色のコートを羽織った伊達男は常に荒っぽい口調でハーネイトと話す。
そんな中彼の力を見定めようと力を静かに使う、どこぞの王女の様な装いをしているサイシアは、彼の素質の高さに驚いていた。
「他の人たちはどこにいるのですか? 」
「街中のどこかにいますがね」
「そうか、そうなると連れてきた仲間がも探してきているころだろうな」
「ほう、後で貴方の仲間さんとも顔合わせをしたいですね」
「じゃあ支度でもするか、お前ら」
そのあとスプリィーテスは後で他の仲間とも合流する旨を伝え、ナノマシンで出来た大剣を背に直す。今であった3人も、彼が保護し仲間として連れているという。
「さあ、わしも本気だすかのう。っと、ハーネイト。会わせたいやつがまだいるのだが」
「その必要はないぞ」
「ほう、あんたが弟分を助けてくれた男か。うむ、いい面構えをしている」
威厳のある声とともに、酒場の扉を豪快に開いて入ってきた大男2人は、ハーネイトたちの方を見るとふっと笑いながら、彼のもとに近づいていく。