第171話 ヴィダールという存在
「そうか、それは気にするわけだ。人の世界にいれば、そういう風習が付きまとう。ハーネイトよ、先ほども言ったが、女神ソラの権能をベースに、私の血と古代バガルタ人及び多くの戦士たちが保持する特異遺伝子を掛け合わせつつ、長年の悲願である6つの龍因子全てを宿す存在。いわば人工生命体として生み出したのがお前だ。年齢、そして生まれた年はあの悪魔を引き連れた魔法使い、彼が来る半年前だ」
シルクハインは、このままハーネイトを手元に置いておけば女神の影響を強く受け、本当に世界を破壊する存在として教育し放つだろう。そうはさせまいと女神をあの手この手でだまし尽くし、眠りにつかせたうえで神の血を引く古代バガルタ人に、ハーネイトを託したのであった。
しかし実は、それ以上に大切なことがあり龍の力を真に扱える者は、全ての感情を体験し乗り越える者であることを突き止めたシルクハインは、人として心のある存在として育てることで、計画を成功させようとしていたのであった。心無き兵器に、龍の力は扱えないと言う。
そう、ここで重大な事実を彼らは知ることになる。創金術及び霊量術はすべて、ヴィダールの力によるものであり、それを運用できるということはある意味ではヴィダールと同義である。いわば大世界を創造した一族の末裔にハーネイトは該当する。そもそも龍の力も今は使える以上、実際は彼は旧世界の支配者の末裔でもあると言うが。
「うむ、バガルタ人は軽く万年は生きるため成長が遅い。そもそも半人半神レベルならば不死身だ。それ故に、まだお前は古代人としては子供の部類に入る」
「そう、ですか。本当に、まだ私は子供っていうわけですね……」
「そういうことだ、まあほかにも古代人の力を引いたうえで、神々の力も宿っているからのう。何故、ベースにその古代人の力を使ったか分かるか?」
いきなりの質問にハーネイトは戸惑い言葉を選ぼうとするが、理由が思いつかなく小声で分からない旨を伝える。
「いえ……」
「まあ、分からないだろうな。実は、ヴィダール・ティクス神話の真の聖地が、アクシミデロなんじゃ」
「そ、それってどういうことですか」
「なあに、その通りの話だ」
シルクハインは言葉に何か隠しながらも、彼らに事実を言い放つ。そう、アクシミデロこそが、ヴィダール・ティクス12大神の眠る星であり、またフォーミッド界も含めたすべての場所で唯一、この今いる女神の世界へ足を運ぶことができる条件を満たしているという。
その中で、アクシミデロに存在する古代人とは、全員が元ヴィダールの下級、上級神及び半人半神であり、ハーネイトも同様の存在として、彼らをまとめ上げる存在として活躍してほしい、その願いも込められ古代人としての血も引いていた。
「しかし、それに関する伝承、言い伝え、それに資料はどこを探してもありませんでした」
「なぬ、それはまことか。恐らく、大消滅の際にそれらがこちらの世界に来たのかもしれぬ」
それから、実は眠っているヴィダールがアクシミデロ星にいると言い、それが見えないオベリスクという物の中にあると言う。
「なんだって、あの見えないオベリスクっていうのは、本物の神様ってのが眠っているわけなのか」
「おいおいまじかよ、一応掃除とかしといたけどさ、いや、マジでか?」
「まじな話なのだ、伯爵君よ」
「その呼び方やめちくれや」
シルクハインにそう呼ばれるとなぜかこそばゆい伯爵は多少軽い感じでそう言い、やれやれだという表情を見せる。ハーネイトと自身にしかはっきりと認識できない、天をも貫く十何本の石碑柱にそのような存在が封印されていたことを知った彼らは体が固まっていた。
更に、自身をそうして封印した以外にも、シルクハインと同様に散り散りになった後人となって、放浪しているヴィダールも少なくないという話も聞いた彼らは、シャックスの話もそれならばある程度わかると理解を示したのであった。
「いや、その封印された塔を手入れ、してくれていたのだろう?二人とも」
「その通り、ですが」
「済まなかったな、女神の力を恐れ、あの地に流れ着いた12の大神様たちも、さぞ喜んでいることだろう」
「だとよいのですが」
「放置されるよりはましだろうな、アハハ。俺の力ならどんなものでも醸してきれいにできるし」
シルクハインは、知らずながらヴィダールの神々が眠っている石の塔を手入れしていた二人に感謝していた。もしかすると、彼らがまた目覚めこのまだ若き戦士たちを助けてくれるかもしれない。それならばあの女神の愚行を止められるはずだ、片手を後頭部に添えながら笑う伯爵を見つつ、そう彼は考えていた。
「あの、父さん。その12大神の中には、龍に変身したり、それに類似する伝承を持っている存在っていますか?」
「ほう、それを聞くとはな」
ハーネイトの質問に彼の表情がまたも変わる。いや、まさか。彼らは悠久の時をあの石塔の中で過ごしていたはずだ。けれど息子の話を聞いていくうちに、彼は予想外の事態が起きていることに気づいた。