第169話 囚われた者を解放して
「さあ、そこにあおむけになって寝てくれ」
「は、はあ」
「多くのデータが負担になっているならば、調整するほかない。機鎧系のデータだけは残して、他は解放した方がいい」
「あ、あの。創金術でその機鎧以外のデータを作って吐き出すのはできますか?」
「できなくはないが……」
「やってみます。今まで、お世話になったなら、恩を返したい。データになってしまった人たちも、悪魔たちも!元に戻したい!」
「そうか、ではこちらに来なさい。広い空間がある」
ハーネイトはある開けた場所に移動すると体を構え、それから目を閉じてから心を静め精神を統一させる。そうして次元の狭間を感じ取り、そこに在る魔本の一つを手に取り、心の中でそれをめくり、何者かを呼ぶように叫んだ。
「魔本召喚・フォレガノ!」
「ぬぉおおおおおおお!」
ハーネイトが魔本に手をかざした次の瞬間、悪魔王フォレガノは彼の目の前に現れ、威厳のある立ち姿で彼を見下ろしていた。
「な、なんと。これは元の肉体、だと?しかも、どういうことだ」
「私なりの、恩返しです。今までデータ化されていた貴方の部下も、貴方もすべてここで開放します」
それからハーネイトは、魔本の中にあるデータ化された存在をほとんど創金術で実際に召喚したのであった。事件に巻き込まれ、誰もあんな辛い思いをしなくていいと彼は医学などを初めとしたあらゆる学問に精通し、創金術で細胞なども生み出せるようになった今の彼なら、肉体を奪われた存在にもう一度肉体を提供することもできると言う。
「まさか、ここまで創金術を扱える存在になっていたとはな。ハーネイト。どれほどの勉学を積んだのか、経験を積んだのか。しかし、それでいいのだ」
「私は、ある事件に巻き込まれました。大切な人も物もすべて失ったあの日から、前からあった誰かのためになりたい、誰かを助けたいと言う気持ちがさらに強くなりました。その結果の1つがこれです」
最後の一体を召喚し、これで彼の中にある魔本と呼ばれる領域内のデータはほとんど吐き出され無くなったのであった。
これで、彼は龍の力を扱える準備の1つができたと言う。魔本というサーバーに、6つの因子をそれぞれ移して管理することで、安定化させることができるとシルクハインが説明した。
しかし問題はこの後起きた。そう、創金術によって肉体を取り戻した悪魔や古代人の一部、他世界の人間などがこの事実をどこか受け入れられていないと言う点であった。
「これは……あ、あれ、私確かあの時捕まって」
「何だかよく分からんが、フーン」
それから、ハーネイトは解放した存在等に今までのことを話したのであった。
「それが本当なら……これからどうすれば」
「まるで数百年後にワープしたみてえだ」
「受け入れがたいけれど、しかし、肉体が戻ったなら」
「それをしてくれたのが、貴様だな」
「は、はい」
「そうか、分かった。まあこれからの身の振り方はこれから考えるとしてだ、あの中にいた時感じたあの力……」
更に、ハーネイトは解放した今、縛るものはないと空間内にいる者すべてに対してそう言い、自由にしてくれと言ったのであった。
「そうしたいところだがな、少なくともわしは貴様についていくぞ」
「フォレガノさん?」
「世界龍の力、それを宿す者の行く末を見たいのでな。それと、わし等を封印したある者に改めて真意を問いたい。何故そうしたか、をな。まあ、奴のことだ、治すための時間稼ぎでもというだろう」
「それと、その魔本を使えばいつでも俺たちを呼べるはずだ。ああ、俺はCDのアレクラス。力勝負なら力になれるぜ、へへ。俺たち、どうやらあいつらに憑りつかれていた見てえだがお前のおかげでそれも治ったみてえだ。だから力を貸してほしいときは本を使え」
「ここにいるCの一族は、お前のおかげで助かった。いつでも呼ぶがよい」
するとフォレガノを初めとした解放された者共の殆どは、彼についていくといったのであった。
彼らは悪魔というより特殊な存在であり、実はハーネイト及びヴィダールと縁のある別の一族の出身でもあった。だからこそ彼こそが自分らが探し求めていた存在ではないかと考えその動向を見つつ支えることにしたのが理由であった。