第167話 シルクハインと龍伝説の古文書
しかしハーネイト達は何か違和感を覚えずにいられなかった。あれだけ建物が存在しているのに、人の気配をほとんど感じない。それがなぜなのか理由が分からなかったのであった。
しばらく歩くとまるで神殿か何かのような、巨大な白い、天まで届きそうな高さの建造物が見えてきた。ぞの10数メートルはあろうかという巨大な門がゆっくりと開き、その奥に入ると、正面に長い正面階段を上がり大きなドアの前でハーネイトらは待たされた。先にオーダインが入り、少ししてそれを開け全員に部屋に入るように促した。
そうして全員が建物に入り、奥にある部屋に招かれる。そこには、天井に頭がぶつかりそうなほどの大柄な、眼鏡と白い髭を生やした男が突っ立って待っていた。
「オーダイン、帰還しました」
「待って居ったぞ」
「あの、貴方は一体……」
威圧感のあるその巨躯。ゆうに3メートルはある、全体的に大柄で立派な髭を生やし眼鏡をつけているこの男に、ハーネイトはただただ見つめていたがハッとして質問をする。それに男は静かにこう答えた。
「わしは、シルクハイン。……ハーネイト、お前を生み出した親だ」
「あ、あなたが……ですか?」
「まさしくその通りじゃ、ハーネイト、いや息子よ」
この男が、私の実の親なのかとハーネイトは目を疑った。しかしよく見ると、その髪色や鼻、耳の形などで似ている点があるとも彼は感じていた。
「お主の左鎖骨に数字があるだろう、それが証明だ。ほら、わしにもあるぞ」
「……!」
「このナンバーは、龍因子の力を埋め込まれたものが順番に刻まれる者でな、その6桁の数字の上2桁が同じ物が血縁関係にあると言う証明に成るのだ」
「そ、そんな……そういう意味が」
シルクハインもそれを見せた。ハーネイトはようやく、長年追い求めていた自身のルーツ、それを知る人であり実の親に会うことができた。
「座りたまえ、今まで何があったのか、話をしたい。そしてなぜ離れ離れになったかもな」
シルクハインは専用のソファーに座るが大きくソファーに体が沈み込む。ハーネイト達は全員一礼してから静かに対面になるようにソファーに座った。
「……すごい人ね。いや、人にしてはおかしすぎる」
「ああ、こいつぁあの邪神の気とよく似てやがる。しかしなにか……」
「確かに、わしはヴィダール。今あるこの、新世界という枠組みを作り出した超エネルギー生命体であり、神柱と呼ばれている存在でもある」
「……エネルギー生命体?」
「そうだ、今世界は無数に存在するが、それを入れる容器というべき大世界を作り出したのはヴィダールとコズモズと呼ばれるエネルギー生命体であった」
シルクハインは早速、世界の成り立ちについて話をし始めた。ヴィダールとコズモズというのはかつて共に世界を作り上げた存在であった。
そもそも、その2つのエネルギー生命体を生み出したのは誰か。それこそが、フューゲルらの言う龍こと、世界龍という存在である。世界龍は6体おり、それぞれが体の上に世界を持ち各自生み出した生命体を競わせ戦わせていた。
その中で残った、白龍の生み出したヴィダール、黒龍の生み出したコズモズという存在が反旗を翻し生みの親である世界龍に襲い掛かったと言う。
その中で多くの犠牲を出しながら、彼らは秘密裏に開発していた、龍の急所を貫くことで封印できる柱を用意し、これを打ち込み世界龍を封印、その後その龍の体を使い、6体の龍を繋ぎ合わせ1つの世界にしたのであった。それが大世界、新世界と呼ばれるものである。
その後生き残ったヴィダールとコズモズは共に大世界の中を整備し、それにより無数の小さな世界が生まれることになった。
無数の世界と宇宙、世界と世界の境界の狭間こと異界空間も、世界の増加と共に広がっていき果てしなさすぎる空間となっていたと言う。
しかし段々ヴィダールはコズモズのことを見下し始め、それに反感したコズモズ達は袂を別ち別の世界を作ろうとした。
だがヴィダールはそれを許さず、彼らを封印し目覚めないようにしたと言う。
それについて初めて知ったハーネイト達は終始無言でシルクハインの言葉を聞いてメモしていた。
彼らは今までに起きたことをすべて話した。それを聞くたびシルクハインの目には涙が浮かぶ。しかしハーネイト達も同じであった。
するとハーネイトはあるアイテムについて父に質問した。それは自身の内に宿している無限炉のことであった。
「もしかすると、無限炉の力が漏れ出ているのかもしれないな」
「力が、漏れ出ている、だと?」
「ああ、名の通り、そのアイテムは適合者の無意識な願いから、明確な願望までを実現させる力を持つ」
シルクハインは淡々と、ハーネイトに埋め込まれているアイテムの説明を行った。しかしその事実は、とても恐ろしいものであった。
願望炉が持ち主を認めれば絶大な力を貸し与える。そしてその内容こそが、世界を一瞬で滅ぼす可能性を秘めたものであることを認識したハーネイトは、今まで使ってきた力にまた恐れを抱いてしまったのであった。
「その力があって、初めて6体の龍の力を制御できる。今まで多くのヴィダールが龍因子を埋め込まれたが、殆ど2因子以上を体に宿して無事な存在はいなかった。数柱は無理やり制御しようとした結果、龍になりかけた、というか龍の力に体を半ば乗っ取られたような姿になった」
「ま、まさかウルグサスとセフィラ……」
「何?あの2柱と会ったと言うのか」
「はい、私に色々教えてくれましたが」
ハーネイトと伯爵は、シルクハインの話からあの山で出会ったウルグサスという龍人がもしかするとその実験で龍になったと言う存在ではないかと思い顔を合わせ、シルクハインはウルグサスの名を聞き驚いていた。
「そうか、彼らは……。恐らく何か指示をされただろう」
「せや、古文書を集め世界龍の伝説を知り、力を制御しろと」
「やはりか。その古文書の1つはこちらにあるが、残りはAM星の5つの遺跡にあるな。そのほかにも探して調査をした方がいい遺跡はあるが、ともかくそれを探して読めば今ある無数の世界を作った容れ物、新世界の成り立ちと旧世界の支配者についてのことが良くわかる。といっても全部集めてもその一部しか触れられないのが問題だ」
「その上で、のちに起こるであろう事変を解決するために、世界龍の欠片を倒すためにお前らは力をつけないといけない。そのために、生を受けたのだよ」
「そうだなオーダイン。まだお前らは完全に龍の力を扱えてはいねえ。ましてや伯爵か。お前の出自が特殊すぎる。ハーネイトはともかくな」
それからオーダインとミザイルは、3人に対して特にハーネイト、伯爵に対してそう言いながら龍のことについてさらに知らないといけないことと、その上で自分たちの手で生み出したハーネイトはともかく、何故伯爵までが願望無限炉と龍の因子を体に宿しているのかがよく分からないと述べた。
「わいは微生界人や!血徒という存在に恨みのあるな!」
「やはりそうか、伯爵と言ったな、本名は」
「サルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンだ」
するとシルクハインは、あることを思い出しながら伯爵に名前を問う。すると少し不機嫌そうにフルネームを名乗ると、やはり目の前にいる青髪の男は自身らの上に立つ存在、女神ソラが生み出した2番目の神造兵器。それに該当すると答えを出したのであった。
「そうか、その先ほど言った古文書の中には、微生界人という種族の情報も入っておる。世界龍を侵食するための神造兵器……しかしその計画は破棄されたという。だが、無限炉をどういう経緯で手に入れたか、埋め込まれたかが分からん。まさかと思うがソラが私らに黙って何かをしているというのか」
「な、なんやて?もしかすると、わいとんでもないあれだったんかい?」
「そうだ、まず願望無限炉自体が10基もない代物でな。デザイナーズされてお前は生まれてきた、のかもしれねえ。しかし、吉となるかもしれん」
「何だかおかしいと思ってたのよねえ、何でハーネイトと伯爵が同じような雰囲気を感じるのか、ね。ふうん、もしかして兄弟、なのかな?」
「伯爵か、今一度お前自身もルーツを確認しないといけない。場合によってはこちらが全く知らない計画が、ソラの手で実行されようとしている可能性もある」
伯爵はシルクハイン、オーダイン、ミザイルの3人から話を聞いて終始困惑しまくっていた。
そもそも自分の小さい頃の記憶がほとんどないだけに、自分マジで何者なのと、ハーネイトと同じ思いと苦悩をこの場で味わうことになったのであった。また、古文書についてはすぐに今ある分は渡すが、それ以外は自力で集めてくれとシルクハインは3名にそう言ったのであった。
また、シルクハインは伯爵の種族である微生界人についてある程度知ってはいたが現物をこうしてみたのは初めてだと思いつつ、もしかするとソラが何らかの計画のためにこの伯爵と名乗る微生界人を生み出しあの炉心を埋めたのではないかと思い警戒していたのであった。
「んだとぉ?俺様を使って何かしようってんなら容赦しねえぜ」
「その上で、ハーネイトと共に旅をし続けてくれないか?そうすれば自身の起源も力の秘密も分かる」
「言われなくてもそうするぜ、俺は相棒に夢をかなえてもらったんでな」
「それならいいが、お前らはこれから、更なる厳しい修行でより力を引き出さねえといけねえ。特に伯爵、お前の中にはどうも3つの龍因子が宿っているが、無限炉の力を使えばハーネイト同様に6種の因子を宿しても問題ない体になる」
「マジかよ、それはあれだけど」
「……力を更に制御できるように、修練を積まないといけないわけか」
「ハーネイトと伯爵なら、絶対にできるよ」
「リリー、そう軽率に言うなよ。どう考えても通常あり得ないものが体に埋め込まれているんだぞ。いつ何が起こるか……怖いよ」
「まあ、それなら俺様もだ。だけどよ、選ばれちまったもんはしゃーないない。互いにベスト、尽くすしかないんやないかい?世界龍とその欠片ってのが、どうもあれみたいやしな。互いに、真のルーツを探す旅に出ようぜ」
恐怖を感じているハーネイトを落ち着かせようとリリーがなだめるも、それでも埋め込まれている禁断のアイテムの力の秘密を知ってしまった以上、平常心を保つのは難しい状態であった。
けれど同じ危険な代物を埋め込まれている伯爵はというと、終始軽い調子でやれることをやるだけさと言いながらさり気に彼を落ち着かせようとしていた。
それを聞いて心を落ち着かせたハーネイトは、シルクハインにある質問をしたのであった。